知財判例データベース 個別商品の組合せによる従来なかった商品であっても形態的特異性がなければ不正競争防止法のデッドコピー条項及び一般条項で保護を受けられないとした事例

基本情報

区分
不正競争
判断主体
ソウル中央地方法院
当事者
債権者 CJ第一製糖株式会社 vs 債務者 株式会社オットゥギ
事件番号
2017カ合80943
言い渡し日
2017年10月20日
事件の経過
確定

概要

債権者は既に存在していたカップラーメンの容器と類似の形態の容器にスープ、おかず等を入れ、上段部にはやはり既に存在していた形態の即席ごはんを結合した商品である「컵반」(「カップ飯」の意のハングル)を販売し、債務者も債権者の「컵반」と類似の形態で構成された商品を販売した。これにより債権者が債務者の商品に対して不正競争防止法のデッドコピー条項及び一般条項を根拠として販売差止仮処分を申し立てた事案である。

事実関係

債権者は、2015年4月頃に(1)既存のカップラーメンのカップ容器と類似するメイン容器に、(2)既存の即席ごはん容器を、(3)メイン容器の蓋となるように結合した形態の商品を販売し、債務者もまた、2015年9月頃に上記特徴をそのまま備えた商品を販売した。

債権者商品

結合した形態:カップ飯の商品外観

分離された形態:カップ飯の即席ご飯容器をメイン容器から持ち上げた写真

債務者商品

結合した形態:カップ飯の商品外観

分離された形態:債権者商品と同じように、カップ飯の即席ご飯容器をメイン容器から持ち上げた写真

判決内容

(1)不正競争防止法のデッドコピー条項に該当するか否か

1)関連法理

不正競争防止法第2条第1号リ目(デッドコピー条項)は、不正競争行為の1つの類型として他人が製作した商品の形態を模倣した商品を譲渡・貸渡しなどをする行為を規定しており、「模倣」とは、他人の商品形態に基づいてこれと実質的に同一の形態の商品を作り出すことを意味する。一方、同条項ただし書には、他人が製作した商品と同種の商品が通常有する形態の模倣行為を不正競争行為から除外しているが、ここで同種の商品が通常有する形態とは、同種の商品分野で一般的に採択される形態として、商品の機能・効用を達成したり、その商品分野で競争するために採用が不可避な形態または同種の商品であれば通常有する個性のない形態などを意味する。

2)判断

債権者及び債務者商品で見られる①メイン容器と②即席ごはん容器の形態は、既によく用いられている形態であり、メイン容器と即席ごはん容器を組み合わせて得られた③の形態は、個別製品の形態がそのまま維持された状態で組み合わせられたもので、通常の形態を超える形態的特異性を備えているとは言い難い。

仮に債権者の商品が個別商品の組合わせ方式により従前になかった新たな商品として認識されるとしても、個別商品及びその組合わせによる商品の形態がよくある形態に該当するので、同条項で保護する商品形態とは言えない。なぜならば、これを保護すると結果的に当該商品の組合わせ方式または販売方式に関するアイデア自体を保護する結果をもたらすためである。

債権者は、メイン容器に別途のプラスチックの蓋を採用せず、即席ごはん容器そのものがメイン容器の蓋の役割をするように結合して二つの容器をビニールパッキングのみしているという点で既存の製品とは商品形態に差があると主張するが、このような点が形態に及ぼす影響は微小なだけでなく「既存の即席ごはんの容器を蓋の代わりにして容器をふさぐ」機能を達成するために採用が不可避な形態である。

3)小結論

債権者の商品はデッドコピー条項の保護対象に該当しないので、債務者商品は同条項違反に該当しない。

(2)不正競争防止法の一般条項に該当するか否か

1)関連法理

不正競争防止法第2条第1号ヌ目(一般条項)は、不正競争防止法第2条第1号イ目乃至リ目の不正競争行為以外に、「他人の相当な投資又は労力により作成された成果等を公正な商取引慣行又は競争秩序に反する方法により自身の営業のために無断で使用することにより、他人の経済的利益を侵害する行為」を不正競争行為の1つとして規定している。これは技術の変化などで現われる新規かつ多様な類型の不正競争行為に適切に対応するために新設された補充的一般条項として、従来の知識財産権関連の制度内では予想することができず、既存の法律ではカバーしきれなかった類型の行為を差し止める必要性が発生する場合に備えて立法されたものである。

したがって、意匠権や不正競争防止法のデッドコピー条項により保護を受けられない商品形態に対して、不正競争防止法上の補充的一般条項による差止請求を許容して商品形態の保護範囲を拡張することは、上記のように既存の法律体系が要求する保護要件の存在を無意味にさせるだけでなく、自身の行為が既存の他の法律条項で禁止される行為に該当しないと判断した市場参加者にも不測の制裁を加えることになり、法的安定性を阻害するおそれがある。したがって、上記のような場合に同条項を適用することは、当該商品形態がなした成果の程度と社会的・経済的価値、商品形態の模倣の程度、両当事者間の保護価値の利益衡量など諸般の事情を総合的に考慮して、非常に例外的かつ慎重になされなければならない。

2)判断

本事案での債務者の商品形態模倣行為は、意匠法あるいは不正競争防止法上のデッドコピー条項のような従来の知識財産権制度内で誰でも一般的に予想することができた行為に該当するので、一般的、補充的規定である一般条項の適用対象ではない。

既存の即席ごはん容器をメイン容器に結合した方式は従来なかった技術的思想の創作であって「アイデア」として評価されることができ、債務者商品が債権者の「アイデア」を盗用したものと判断する余地はある。しかし、「アイデア」は一定要件を満たせば特許法や実用新案法により保護されることができ、債務者商品が既存の特許法などで予想し得なかった侵害行為と言えない点で不正競争防止法の一般条項を適用することは不適切である。

3)小結論

以上を総合すれば、債権者商品は相当な投資又は労力により作成された成果物であると言い難く、債務者が公正な商取引慣行に反する方法により債権者の商品を無断で使用したとは見難いので、同条項に違反すると言えない。

(3)保全の必要性

(1)債権者が債務者商品が販売されて1年半を超える期間、特に権利主張をしなかった点、(2)その期間中、債務者を含む多数の企業がこれと類似の商品を販売して競争している点、(3)債務者が相当な資金を投じた状況で販売差止を命じる場合、債務者の被害が大きいと言える一方、販売が差し止められなくても債権者の損害は将来損害賠償請求で補填できる点、(4)デッドコピー保護期間は3年であるが、現在その保護期間があまり残っていない点等に照らして、保全の必要性があるとは言い難い。

専門家からのアドバイス

本事案では、債権者が従来なかった商品を開発したとしても、当該商品形態が通常の形態を超えて形態的特異性がなければ、不正競争防止法上のデッドコピー規定により保護を受けるのは難しいと判断すると共に、技術的思想に該当するアイデアは特許法あるいは実用新案法による保護を受けなければならないことを再確認している。
一方、不正競争防止法の一般条項は、新設当時からその適用範囲、即ち、同条項が補充的一般条項の性格を有するかについて意見がまちまちだった。既存の不正競争行為の制裁条項と共に一般条項をともに適用する判例もある一方、 既存の法律により制裁可能な類型の侵害行為以外に新たな類型の侵害行為についてのみ同条項を適用すべきであるという見解もある。本事案は既存の不正競争防止法で不正競争行為として規定されていたデッドコピー規定に該当しない行為について一般条項が適用されないと判断したという点で意味があると言えるが、これを法院の一貫した立場として確認されたと言うには難しい面があるので、今後より多くの判例蓄積を通じて法院の傾向性を把握する必要があろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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