知財判例データベース 先行発明から構成を置換するのが容易であっても効果が先行発明から予測される効果より顕著に優れる場合の進歩性の認定

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 JNC(特許権者) vs 被告 特許庁長;補助参加人、Merck KGaA
事件番号
2017ホ301
言い渡し日
2017年09月29日
事件の経過
上告棄却(確定)(2017フ2543)

概要

特許発明は、先行発明に比べて目的の特異性が認められず、当業者が先行発明を結合する方法により容易にその構成を導き出すことができるため構成の困難性が認められないが、しかしその作用効果が先行発明の結合によって予測される効果に比べて顕著に優れると認められるので、先行発明によってその進歩性が否定されない。

事実関係

原告は、特許審判院に発明の名称が「液晶組成物及び液晶表示素子」である本件特許第1375931号の請求項1-6、20の訂正審判を2016年7月8日に請求した。特許審判院は2017年1月10日付で、訂正発明の全請求項は、先行発明5又は先行発明5、4の結合により進歩性が否定されるので訂正請求を審決によって棄却した。これに対し、原告が審決取消訴訟を提起した。

訂正請求項1の一部:
第1成分として式(1)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つの化合物、第2成分として式(V-HH-3)の化合物及び第3成分として式(3)で表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つの化合物を含有し~(以下、省略)
化学式の例示

判決内容

訂正請求項1には重合可能な化合物として式(3)で表される第3成分が含まれているが、先行発明4にはこれに対応する化合物が提示されていないという点で差がある。 先行発明4は、その明細書に「1ミリ秒でも短い応答時間が好ましい。」という趣旨で記載されている等、応答速度を短くしようとする技術的課題について明確に認識しており、これは当業界又は技術分野において最も基本的に解決しようとする課題の1つでもある。
先行発明5は、実施例1、2を通じて従来の標準VA液晶モードで液晶混合物に重合性化合物を添加することによって応答速度を改善できることを提示している。従って、先行発明4から出発して応答速度を改善させようとする当業者の立場としては、先行発明4に先行発明5の重合性化合物を含めることを考慮する動機が十分であると見なければならない。
訂正請求項1の式(3)の化合物は、先行発明5で末端基として特に好ましい化合物の1つであるメタクリレートを選択すれば両化合物の末端基が同一になる。
本件明細書は、訂正発明によれば、第3成分を含有していない誘電率異方性が負の液晶組成物に比べて短い応答時間を示すため、これをより優れた特性を有するものと評価し、「第3成分の追加による応答速度の向上」を本件訂正発明の最も特徴的な効果として強調している。
先行発明4の明細書の記載によると、実施例の応答時間については何ら言及をしていない。訂正請求項1とは異なって先行発明4にはその測定結果が全く提示されておらず、訂正請求項1の応答速度が先行発明4の応答速度よりもどの程度改善されたのかに対する直接的な対比は不可能な状態である。しかし、訂正請求項1の応答時間が3.6~4.3msであるのに対し、先行発明5では重合性化合物が添加された場合の応答時間が12~25msとなっており、その間には意味のある差が存在するという点だけは否認し難い。
上記のような事情を勘案すれば、当業者であっても、液晶組成物の応答速度に関する具体的な記載がない先行発明4と、重合性化合物によってある程度応答速度の向上はあるがその範囲が多様で改善された応答速度も訂正請求項1のそれに比べて相当低い値を示している先行発明5を結合する場合、訂正請求項1のような応答速度改善の効果を奏するであろうと予測することは容易ではないと考えられる。

専門家からのアドバイス

本判決は、構成の困難性は認めないが、効果が先行発明の結合によって予測される効果に比べて顕著に優れるということを認めて進歩性を認めたという点で注目に値する。
一般的には、構成の困難性と効果の顕著性を一緒に判断することが多い。例えば、先行発明に本件発明の構成が導き出される動機がないため構成が困難で、よって当該構成による効果は先行発明から予測されないという考え方である。
ところが、本判決では先行発明4から出発して先行発明5を結合し、本件発明の構成を導き出すまでは容易であると判断した後、ただし、先行発明4に当該効果に関する具体的な記載がないという点、先行発明5に記載された効果よりも本件発明の効果が大幅に優れているという点を認めて、効果の顕著性を認めた。
化合物関連発明では実施例に多様な例示が記載されて、同一の分野では技術的課題が共通である点を考慮すると、上記判決の論旨は出願人/特許権者が進歩性を主張するのに有利に活用できるものと期待される。即ち、先行発明に構成成分が例示として記載されているとしても、効果が具体的に記載されていなかったり、本件発明の効果よりも劣る場合、効果の優秀性を強調して説得力を高めるように図ることができるわけである。

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