知財判例データベース デパート、大型スーパー、映画館が営業場所を示すために登録商標されている近隣のランドマークの名称を使用したことは商標権侵害ではないとした事例
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- ソウル中央地方法院
- 当事者
- 原告 株式会社KINTEX VS 被告1 株式会社現代デパート、被告2 ホームプラス株式会社、被告3 メガボックス株式会社
- 事件番号
- 2016ガ合572696
- 言い渡し日
- 2017年06月30日
- 事件の経過
- 強制調停で確定2018. 8. 1.
概要
原告がソウル近郊で運営する展示場「KINTEX」は、韓国最大規模を誇り、その地域のランドマークとして認識されている。これに対し、原告展示場の周辺に位置するデパート、大型スーパー、映画館は、自らの営業標識とともに、営業支店名を「KINTEX店」として一緒に表示している。被告らが「OOO KINTEX店」と使用することに対し、原告は自らの登録商標である「キンテックス/KINTEX」に対する侵害に当たるとして損害賠償及び使用差止を請求したところ、被告らの各営業標識と結合して被告の各営業支店が原告展示場近隣に位置していることを案内するためのものであるだけで、被告らが提供するサービス業の出所を原告として表すためのものと言えず、商標的に使用されたものではないと判断された。
事実関係
原告は「キンテックス/KINTEX」という標章(以下「本件標章」とする)を使用して展示場を運営しており、当該標章に対しては自らの主業務である展示場業だけでなく、デパート業、大型スーパー業、映画館施設提供業などに対して商標登録を保有している。
一方、都市開発事業の一環として原告展示場の支援、活性化施設開発事業が進められ、これにより2010年頃に 原告展示場周辺の商業施設地区に被告1はデパートを、被告2は大型スーパーを、被告3は映画館を設立して営業を開始した。
そのころ原告は、自らの展示場周辺に位置した被告らに対し、下記のとおり被告らの各営業標識である「HYUNDAI」、「Home plus」、「MEGABOX」とともに営業支店名を「KINTEX店」と表示することに対し無償で許諾することにしながら、特別な事情が発生する場合には相互協議を通じて使用料を賦課する内容の約定(以下「本件約定」という)を締結した。
被告1 使用標章 現代デパート KINTEX店 HYUNDAI DEPARTMENT STORE KITEX
被告2 使用標章 ホームプラス KINTEX店 Home plus KINTEX
被告3 使用標章 メガボックス KINTEX店 MEGABOX KINTEX
しかしその後、原告は権限のない第三者が原告の本件標章「キンテックス/KINTEX」を無分別に使用して消費者の誤認混同を引き起こす事案が発生したことにより、2014年以降、本件標章使用に関する権利を強化し始め、第三者から使用要請を受けた場合、名称利用に対する所定の使用料を賦課している点を挙げ、他人との公平性を考慮して被告らに対して使用料賦課の協議要請を2回にわたって行った。しかし、被告らがこれに応じなかったことから、被告らの「OOO KINTEX店」の使用に対して商標権侵害による6,000万ウォンの損害賠償及び使用差止を請求した。
判決内容
本件約定解除の如何
被告らの本件標章使用の法的性質が出所表示としての商標使用ではないとしても、被告らは本件約定に従って原告からその使用料賦課の協議要請を受けた以上、これに対する協議義務がある。それにもかかわらず、2回にわたった協議要請に対していかなる返信もしなかったので、協議義務不履行に該当し、協議義務履行催告後、相当期間が経過した後に原告が本件約定解除の意思を示したので、本件約定は解除された。
本件標章を被告らが各自の営業出所表示として使用したか否か
イ)関連法理
他人の登録商標をその指定サービス業と同一または類似のサービス業に使用すれば他人の商標権侵害に該当するが、他人の登録商標を使用した場合であるとしても、それが商標の本質的な機能であるといえる出所表示のためのものでなく、サービス業の内容などを案内、説明するために使用されるなどで商標の使用として認識され得ない場合には商標権侵害行為と言えず、それが商標として使用されているかはサービス業との関係、当該標章の使用態様、登録商標の周知著名性、そして使用者の意図と使用経緯などを総合して実際の取引界で表示された標章がサービス業の識別標識として使用されているかによって判断する。
ロ)被告らのホームページなどで表示したサービス業の出所が被告らのものと認識されるか否か
- 被告らのホームページで本件標章「キンテックス/KINTEX」が表示されたホームページの画面を見るためには、各被告らのホームページにアクセスした後、「支店名」から「KINTEX店」を検索してクリックしてはじめて見ることができる点
- ホームページで本件標章は被告らの各営業標識である「THE HYUNDAI」、「Home Plus」、「MEGABOX」と同じ画面上に表示されているが、本件標章「キンテックス/KINTEX」はその書体の形状、色、太さが被告らの営業標識と差があって容易に区分される点
- ホームページに本件標章が表示されていても、単独でではなく、各被告らの営業表示とともに表示されていて、表示内容はいずれも被告らが自らの営業店で提供するサービス業関連の情報である点
- 被告1は韓国デパート業界3位であり、被告2は3大大型スーパーに属する周知の事業者であり、被告3も全国的な上映館を保有する映画館として被告らの営業標識は需要者に広く知られている点
- 被告らは、本件標章出願日以前から原告と別個に独自に自身らの営業(デパート業、大型スーパー業、映画館施設提供業)をしてきた点を総合的に考慮すると被告らが各ホームページなどで案内したサービス業の出所は各被告らのものと明確に認識される。
被告らの本件標章使用が位置を案内、説明するためのものか否か
- 原告展示場に対する支援、活性化施設開発のための事業によって被告らが原告展示場周辺に各デパート、大型スーパー、映画館を設立した点
- 原告と被告間に締結した本件約定は被告らが「キンテックス/KINTEX」を営業支店名として使用することができるという趣旨であり、被告らが提供する各サービス業の出所が原告であるという趣旨ではない点
- 実際に取引界で営業支店の位置表示のために近隣のランドマークになる建物や名所の名称で営業支店を特定する場合が多数ある点を総合的に考慮すると
被告らが各営業支店名を「キンテックス/KINTEX」という形態に特定して使用したことは、需要者に被告らが提供するサービス業の出所を原告として示すためのものではなく、被告の各営業支店が原告展示場近隣にあるということを案内、説明するための意図と言える。
小結論
被告らの本件標章使用態様、本件標章と被告ら営業標識の周知著名の程度、被告らの意図と本件標章使用経緯などを総合的に詳察すると、本件標章は被告らの各営業標識と結合して被告の各営業支店が原告展示場近隣に位置していることを案内するためのものであるだけで、被告らが提供するサービス業の出所を原告として表すためのものと言えない。従って、被告らは、本件標章を出所表示として使用したものではないので、商標権侵害に該当しない。
専門家からのアドバイス
実際に取引界では周辺に大きな建物や施設がランドマークになっている場合、各自独自的な営業標識とともにランドマークになった建物名などを位置表示として利用する場合がよくある。このような場合に、ランドマークになった建物名が特定人の商標であるとしても、営業支店名に使用された場合は、当該商標を出所表示よりは位置を示す表示として認識することが需要者の一般的な認識であると判断して、商標権侵害を否定した点で意義がある。
特に本事案では、被告らの営業標識である「HYUNDAI, Home plus, MEGABOX」が相当な周知性を有していて原告の出所表示と誤認、混同を引き起こすおそれはないと言える点及び被告は原告展示場の支援、活性化施設を開発するための一環として設立された点という特殊な状況を総合的に考慮して、商標的使用ではないとした。本判決に対して原告は控訴しており、このようなランドマーク名の使用にどのような法的解釈が付与されていくか高等法院での判断が期待される。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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