知財判例データベース 支配的特徴が類似すれば類似デザインといえるか、および未登録権利の侵害にも損害額推定規定を類推適用できるか

基本情報

区分
意匠
判断主体
ソウル中央地方法院
当事者
原告 個人 vs 被告 株式会社オットゥギ
事件番号
2017ガ合510534
言い渡し日
2017年12月01日
事件の経過
特許法院2017ナ2783(原告一部勝→原告敗)、大法院2018ダ280873審理不続行棄却(2019. 1. 18.確定)

概要

個人が、自らが開発した食用油容器デザイン試案を無断で出願し登録を受けた企業に対し、デザイン登録を受けることができる権利の侵害を根拠として損害賠償を請求した事件において、一審法院は侵害成立を認め、損害賠償部分についてはデザイン保護法上の関連規定ではなく民法上の一般原則を適用し損害額を算定することができるとした。

事実関係

原告デザイン試案 被告登録デザイン
原告デザインの正面と側面 被告登録デザインの正面 被告登録デザインの側面

デザイン専門会社の社員として包装用容器をデザインしてきたデザイナーである原告は、国内の大手食品メーカーである被告の食用油容器デザイン開発と関連し、被告と数回の打ち合わせを行い、原告デザイン試案を提供した。原告と被告との間に最終契約は締結されなかったが、原告は被告が原告デザイン試案と類似する被告登録デザイン(以下「本件デザイン」)の登録を受けたことを発見した。このため原告は、著作権侵害、不正競争防止法違反、および原告デザイン試案についてデザイン登録を受けることができる権利の侵害を根拠に、著作権法、不正競争防止法およびデザイン保護法による損害賠償を選択的に請求した(本件で被告が盗用したかが問題になった原告のデザイン試案は2件だが、争点が類似するためうち1件のみをご紹介する) (注1)

判決内容

原告デザイン試案と被告が登録を受けた本件デザインの類否

両デザインは、(1)全体的に縦長の形態で、蓋、首、胴体上下部からなり、各構成部分の位置、大きさ、比率感が類似する点、(2)首から胴体上部につながる肩部が曲線をなして自然に流れ落ちる点、(3)胴体上部は上方が相対的に広く、下方はそれより狭まりながら傾斜をなし、あたかも腰がくびれているような形状で胴体下部につながっており、胴体上下部が丸みをおびた帯状により明確に区画される点、(4)胴体下部には角が丸みを帯びた縦長の長方形ラベルが貼り付けられる場所がある点などが共通する。

一方、(1)原告デザイン試案は、胴体上部の丸く湾曲した部分にラベルを貼り付けることができる部分(原告デザインの上部)があるが、本件デザインには該当部分がない点、(2)原告デザイン試案の蓋は外側に反り上がっているか(原告デザインの蓋の正面)又は凸状に見える形(原告デザインの蓋の背面)であるが、本件デザインは蓋が上方に向かって緩やかに曲線をなして広がっている(被告デザインの蓋)点などが異なる。

詳察するに、両デザインは目立つ正面部の主要構成形態が共通し、その審美感が類似する。特に、共通点(2)および(3)は機能や構造上必須の形状とは言い難く、その中でも共通点(3)は需要者の注意を引いて印象を残す重要な部分に該当するところ、両デザインは支配的な特徴が互いに類似する。これに比べて両デザインの差異は原告デザイン試案の構成要素の一部を省略したものであったり容易に加えることができる変形に過ぎず、細部構成のわずかな違いに過ぎないので、このような違いだけでは両デザインの支配的な特徴である共通点などを相殺して全体的に相違する審美感をもたせるほどであるとは言い難い。したがって両デザインは類似する。

類似部分の容易創作に対する判断

被告は、本件デザインが他社のデザインなど(比較対象デザイン1および比較対象デザイン2)を結合して創作したものであって、原告デザイン試案と本件デザインは各比較対象デザインを結合して容易に創作できるものであるか、又は本件デザインは自由実施デザインに該当すると主張する。しかし原告デザイン試案と本件デザインの支配的な特定といえる腰がくびれているような形状などの共通点は、他の差異点に照らしてみるとき、比較対象デザインを変形および結合して導出するためにはかなりの創作的努力がさらに必要な、通常のデザイナーが容易に創作することが難しい部分と判断されるので、被告の主張は受け入れられない。

損害賠償範囲

原告は、デザイン登録を受けることができる権利の侵害に対して、デザイン保護法上の損害額推定規定である第115条第3項(注2)が適用されるべきであると主張するが、当該条項は明白にデザイン権あるいは専用実施権の侵害に対して適用される規定であるので、デザイン登録を受けることができる権利の侵害に対しては当該条項が適用または類推適用されることはできない。しかしデザイン登録を受けることができる権利に対する侵害行為も民法上の不法行為に該当するため、民法上の一般原則(注3)が適用される。これにより原告に発生した損害額を算定すれば、原告が被告会社にデザイン試案に関する権利を「デザイン開発用役契約」を通して移転していた場合に受けることができた正当な報償金相当額である1億ウォン(2つのデザイン試案に対してそれぞれ5千万ウォンずつ)と定めるのが妥当である。

専門家からのアドバイス

デザイン保護法はデザインを創作した者またはその承継人がデザイン登録を受けることができる権利を有すると規定しており(同法第3条第1項)、このような権利を有しない者が出願、登録したデザインに対しては拒絶理由、無効事由に該当すると規定しているため(同法第62条第1項第1号および第121条第1項第1号)、無権利者によるデザイン登録に対しては無効審判を請求することができる。

とはいえ、デザイン登録を受けることができる権利を侵害された者は、無効審判を通じてしか権利救済を受けられないものではない。本件でみるようにデザイン登録を受けることができる権利の侵害に対して損害賠償を請求することも可能で、一審法院は民法上の不法行為要件を満たすとして被告に損害賠償責任を認めたわけである(被告は一審判決を不服として特許法院に控訴)。

一方、韓国では最近不正競争防止法が改正され(2018年7月18日施行)、「交渉または取引過程で、経済的価値を有する他人の技術的または営業上のアイデアをその提供目的に違反して自己または第三者の営業上の利益のために不正に使用し、または他人に提供して使用させる行為」を不正競争行為の新しい類型として新設した。今後は本件と類似する事案で不正競争防止法に基づいた請求が提起される可能性も高くなるものとみられ、これと関連する法院の法適用の推移を見守る必要もある。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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