知財判例データベース 公知物質の純度限定にのみ特徴がある発明の新規性を認めることができるか

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 東国製薬(無効審判請求人) vs 被告 バイエル(特許権者)
事件番号
2017ホ1373
言い渡し日
2017年07月14日
事件の経過
上告せず判決確定

概要

構成要素の範囲を数値により限定して表現した特許発明が、その出願前に公知となった発明と比較して数値限定の有無または範囲においてのみ差がある場合、その数値限定が通常の技術者が適宜選択できる周知、慣用の手段に過ぎず、これによる新たな効果も発生しないのであれば、その特許発明は新規性が否定される。しかし、公知の精製技術によっても特許発明で限定した純度の化合物が得られず、その特許発明で初めてそのような純度の化合物を得る技術を開示したのであれば、その化合物純度の限定は、通常の技術者が適宜選択できる周知、慣用の手段と言えないので、その特許発明は、先行発明によって新規性が否定されない。

事実関係

原告の東国製薬は、被告の「高純度カルコブトロール」を発明の名称とする韓国特許第1251210号の特許請求の範囲第3項の発明 (以下「第3項発明」という)について、先行発明により新規性が否定されるという趣旨の無効審判を請求したが、特許審判院はこの請求を棄却し、原告はこれを不服として審決取消訴訟を提起した。

判決内容

第3項発明と先行発明の構成の対比

第3項発明と先行発明はいずれもガドブトロールとカルコブトロールを含む造影剤組成物であるという点では同じであるが、第3項発明はカルコブトロールの純度を99.0%以上に限定している一方、先行発明はカルコブトロールの純度を限定していないという点で差がある。

差異に関する検討

低分子化合物とその製造方法を開示した文献は、特別な事情がない限り、通常の技術者が所望の全ての水準の純度の化合物を開示したと言うべきなので、特許発明が先行発明に比べて単に化合物の純度を限定しただけに過ぎない場合には、特別な事情がない限り、新規性が否定されると言うべきである。しかし、公知の精製技術によっても特許発明で限定した純度の化合物が得られず、その特許発明で初めてそのような純度の化合物を得る技術を開示したのであれば、その化合物純度の限定は、通常の技術者が適宜選択できる周知、慣用の手段と言えないので、その特許発明は、先行発明によって新規性が否定されない。
弁論全体の趣旨によって認められる事情に照らしてみると、本件特許発明の優先権主張日以前に公知となった精製方法では、第3項発明で限定した純度99.0%以上のカルコブトロールが得られないことが認められる。この点を上記法理に照らしてみると、第3項発明でカルコブトロールの純度を99.0%以上に限定したことは、通常の技術者が適宜選択できる周知、慣用の手段に該当しないと言えるので、第3項発明は先行発明によって新規性が否定されない。

専門家からのアドバイス

本判決は、「純度を高める方法」ではなく「純度を限定した組成物」と記載されていたにもかかわらず新規性が認められたことに意義がある。従前の特許法院判例では、公知物質の純度限定にのみ特徴がある発明の新規性をおしなべて否定していた。
本判決では、公知となった精製方法では請求の範囲に記載した純度が得られないことが認められる場合、その純度限定が通常の技術者が適宜選択できる周知、慣用の手段に該当しないと判断した。
従って、公知となった精製方法では得ることができなかった純度が得られる新たな精製方法を発明した場合、この新たな方法をクレームとして記載するのはもちろん、純度を限定した物の発明を記載することがもっとも望ましいことになる。なお、当然のことながら、明細書には、公知となった精製方法で得ることができる純度及び該当精製方法を改良しても純度を高めることが難しかった理由等を具体的に記載し、請求の範囲に記載された純度限定が周知、慣用の手段に該当しないことを裏付けておくことが理想的である。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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