知財判例データベース 間接侵害で他の用途が存在しないという事実の立証責任が権利者にのみあるか
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 実施者 vs 被告 実用新案権者
- 事件番号
- 2016ホ7305
- 言い渡し日
- 2017年05月25日
- 事件の経過
- 上告待機
概要
「登録考案物品の生産にのみ使用する物」に該当するという点は、権利者が主張・立証しなければならない。しかし、登録考案物品の生産に使用されるという点が証明された状態では、公平の原則上、実施者が登録考案物品の生産以外の他の用途を有するという旨の具体的かつ合理的な主張をする場合に初めて権利者の立証責任が現実化する。この場合、権利者は実施者が主張するその用途が社会通念上、通常用いられて承認され得る経済的、商業的ないし実用的な用途に該当しないという点を証明しなければならない。
事実関係
被告は考案の名称が「地域割増料金自動精算機能を備えたタクシーメーター器」である実用新案権者であり、原告の実施考案を日本特開2004-280329号に掲載された「タクシー料金計算システム」(先行考案)として特定し、当該考案が被告の第1項~第4項登録考案の権利範囲に属すると主張して権利範囲確認審判を請求した。審判院は、確認対象考案物の生産は第1項~3項登録考案の間接侵害に該当するので、第1項~3項登録考案の権利範囲に属するという趣旨で審決した。これに対し、原告が審決取消訴訟を提起した。
判決内容
確認対象考案物が第2項登録考案物品の生産に使用されるという事実は詳察した通りであり、それ自体で汎用性がある物ではないと見られるところ、原告主張の用途が社会通念上、通常用いられて承認され得る経済的、商業的ないし実用的な用途に該当しないかについて見てみる。
原告は、確認対象考案物が航行ナビゲーション、航行支援システム、GPSマイクと同一の機能を行うことができると主張しているが、このような特定装置や部品などに関する証拠が全く提出されていないところ、このような状態では原告が主張する用途を社会通念上通常用いられて承認され得る経済的、商業的ないし実用的な用途に該当すると評価するのは難しい。
次に、原告は確認対象考案物が「第2項限定構成 」を備えていないタクシーメーター器にも使用されるので、確認対象考案物が本件第2項登録考案物品の生産にのみ使用される物であると見ることができないと主張する。詳察したところ、確認対象考案物が連結して用いられながらも「第2項限定構成」を含まないタクシーメーター器は存在しないと見られるので、確認対象考案物が第2項限定構成を含まないタクシーメーター器に連結されて使用される用途も社会通念上通常用いられて承認され得る経済的、商業的ないし実用的な用途に該当するとは評価し難い。
従って、確認対象考案物は、本件第2項登録考案物品の生産以外の他の経済的、商業的ないし実用的な用途を発見し難い以上、本件第2項登録考案物品の生産にのみ使用されるといえる。
専門家からのアドバイス
間接侵害は、請求項の構成の一部が欠如していても「特許物の生産にのみ使用する物」は権利範囲に属すると認めており(いわゆる「専用品規定」又は「のみ規定」という)、侵害が成立するための構成要素完備の原則の例外に該当する。この時、「にのみ」は間接侵害の要件なので原則的に権利者に立証責任がある。
しかし、本判決の他の部分で判示したように、他の用途が存在しないという事実を立証することは社会通念上不可能であったり非常に困難であるのに対し、他の用途が存在するという事実を主張、証明する方がより一層容易で、確認対象考案物の実施者側が当該物の用途をさらに容易に把握できる。従って、公平の観点から当該物が特許発明の生産に使用されるという点が証明された状態では、実施者が他の用途に対する合理的な主張をしなければならないとして、両者に立証責任を分配した形である。
特に、本判決では実施者が他の用途の主張をしたが、他の用途に関する証拠がないため他の用途の存在を認めていない。本判決は過去の大法院判例(異なる用途が単に特許物以外の物に使用される理論的、実験的又は一時的な使用の可能性があるという程度に過ぎない場合には、間接侵害の成立を否定するだけの他の用途があるといえない)の延長線上にあるとともに「証拠がないため認められない」と判断したという点から実質的に他の用途の立証責任を実施者に課したものと理解してよい。この点で、特許権者としては、巧妙に一部の構成を欠如させて実施している実施者に対する権利行使が有利になったという点で歓迎できる。
ちなみに、本判決では権利範囲が広い請求項1、3は、先行考案により新規性が否定されるため権利範囲を認めることができないと判断し、権利範囲が狭い請求項2に対して間接侵害を認めた。従って、権利行使の面で必ずしも請求項の権利範囲が広ければよいとは見られず、狭い範囲の独立項、従属項などを適宜記載しておく必要がある。
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