知財判例データベース 先行発明に出願発明の技術的課題が開示・内在されていない場合に周知慣用技術であることを根拠として進歩性を否定できるか

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 ソウル大学(出願人) vs 被告 特許庁長
事件番号
2017ホ547
言い渡し日
2017年08月17日
事件の経過
判決確定

概要

先行発明に本件出願発明の技術的課題が開示・内在されていない場合、本件出願発明の技術的課題が当該技術分野の一般的課題であり、課題を解決するための手段が周知慣用技術であることを根拠として先行発明とともに進歩性を否定する主張をすることは、単に先行発明の技術的意義を明らかにしたり、先行発明を補充したり、容易導出過程で補助的に使用することを超えて、先行発明が有していない新たな構成要素を主張するも同然なので、審決の取消訴訟手続において許容されない。

事実関係

原告であるソウル大学の、発明の名称「超高性能コンクリート(UHPC: Ultra-High Performance Concrete)プレミックスセメント混合物を用いた超高性能コンクリートの製造方法」という出願に対して、特許庁の審査官は、先行発明1、2から進歩性が否定されるという理由で拒絶決定とし、拒絶決定取消審判でも特許審判院は第1項の発明が先行発明1、2から容易に発明できるという理由で棄却審決をした。これに対し、原告は審決取消訴訟を提起した。

判決内容

第1項の発明と先行発明1は、セメント、シリカフューム(silica fume)、及び充填材などで構成されたUHPCセメントプレミックス混合物に液相材料である水、高性能減水剤を混入・ミックスし、凝集・分散段階を経て液相化することによって高流動性が確保される段階を含む超高性能コンクリートを製造する方法であるという点で実質的に同一である。
ただし、材料を投入する順序に関して、第1項の発明は、UHPCプレミックスセメント混合物を第1混合物及び第2混合物に分割した後、第1混合物に液相材料を全て投入し、1次ミキシングして1次凝集及び分散を誘導した後、残りの第2混合物を投入し、2次ミキシングして2次凝集及び分散を誘導する段階を含む一方、先行発明1は配合水とモルタルの混合後に鋼繊維を投入しているだけで、プレミキシング型モルタル材料を分割して投入する方法については明示的に記載していないという点で差がある。 差に関する検討
本件出願発明の出願当時、当該技術分野ではコンクリートの性質を向上させようとする技術的課題を解決するために、固相材料又は液相材料の投入順序・時期・分量を調節する解決手段を採択していたものと見られはするが、コンクリートの性質向上という抽象的・包括的課題の中には「ミキシング時間の短縮」、「強度の向上」、「フロー値の向上(流動性の向上)」など互いに異なる具体的な技術的課題が存在し、各技術的課題を解決するために採択された具体的手段も「減水剤の分割投入」、「混練水の分割投入」、「結合材の分割投入」、「粉体の分割投入」、「シリカフューム等の後発投入」など、様々である点に鑑みると、第1項の発明と先行発明の技術的課題が上記のように抽象的・包括的な上位概念の段階で同一・類似し得るという理由をもって先行発明に第1項の発明の技術的課題が内在していると言うことはできない。
先行発明に第1項の発明の技術的課題が開示されていたり内在されていると言い難い本件では、第1項の発明の技術的課題が当該技術分野の一般的課題であり、課題を解決するための手段が周知慣用技術であるという理由で先行発明とともに進歩性を否定する主張をすることは、単に先行発明の技術的意義を明らかにしたり、先行発明を補充したり、容易導出過程で補助的に使用することを超えて先行発明が有していない新たな構成要素を主張するも同然なので、審決の取消訴訟手続において許容されない。さらに、被告が主張する周知慣用技術は、第1項の発明の技術的特徴と関連するものであるため、進歩性が否定されるかを判断するにおいて核心的な役割をするものと言えるので、上記のような主張は許容され難い。

専門家からのアドバイス

拒絶理由で、出願発明が先行発明と差異はあるが、これは当該技術分野で周知慣用技術なので進歩性を認め難いという判断がしばしば下される。この場合、出願人はその差に基づいて先行発明からは期待できない効果を提供するという趣旨の主張を試みるが、明細書の記載などから効果を見出し難い場合もあり、このような効果を主張しても依然として担当審査官は、進歩性を認める程ではないと判断することも少なからずある。 本判決は「周知慣用技術」であるという理由で進歩性を否定できないという点を段階的かつ具体的に判断したという点で出願人/特許権者の反論に有用であると期待される。
例えば、まず、先行発明に出願発明の技術的課題が開示・内在されていないという点を主張する。拒絶理由では、例えば「ディスプレイ」において画質の向上は共通課題であるという形で具体的な課題を判断せずに、上位概念で同一であると判断する場合が多い。これに対し、抽象的・包括的課題の中に互いに異なる具体的な技術的課題が存在し、各技術的課題を解決するために採択された具体的手段も様々である点に鑑みると、先行発明に出願発明の技術的課題が内在していないと主張できる。この場合、先行発明の具体的な技術的課題と採択された具体的な手段が異なるという点を例示とすることができるであろう。
次に、このように出願発明の技術的課題が開示・内在されていない場合、出願発明の技術的課題が当該技術分野の一般的課題であり、課題を解決するための手段が周知慣用技術であるという理由で先行発明とともに進歩性の否定を主張することは先行発明が有していない新たな構成要素を認容したものであるので、当業者が先行発明だけでは出願発明に至るのは難しいという主張が可能であると思われる。

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