知財判例データベース 二次的著作物の著作財産権の譲渡が原著作物の著作財産権に影響を及ぼすかどうかに関する判断基準
基本情報
- 区分
- 著作権
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告/上告人(株式会社ロジスキューブ) vs. 被告/被上告人(サムスンSDS株式会社、漢拏マイスター有限会社、株式会社ティーシス)
- 事件番号
- 2014ダ5333
- 言い渡し日
- 2016年08月17日
- 事件の経過
- 確定
概要
原告と被告1の間に締結されたプログラム開発委託契約によって原告が自身のプログラム(A)を改作して本件プログラム(B)を開発した後、被告1に納品したが、被告1が本件プログラム(B)を改作して別途のプログラム(C)を製作した後、他の被告らに販売した事案において、たとえ上記プログラム開発委託契約によって本件プログラム(B)に関する著作財産権が被告1に譲渡されたとしても、それによって直ちにその原著作物(A)に関する著作財産権までともに譲渡されたものと見るのは難しいが、本件プログラム(B)の著作財産権が被告1に譲渡されることによってそれに関する二次的著作物作成権も譲渡されたと見ることができ、諸般の事情に照らしてみると、被告1が本件プログラム(B)の作動環境を変えて改作する場合(C)に対しても、原著作物(A)の利用に関する原告の許諾があったと見るのが妥当であるという理由で原審の判断を支持した。
事実関係
原告は倉庫管理ソリューションの開発、普及などを目的とする会社であって、倉庫管理プログラムであるロジックキューブ(LogicCube)を開発して販売している。
D社は物流コンサルティングと関連した情報システム開発、販売業を目的とする会社であって、「レプシロン」という物流管理ソリューションを開発、販売している。被告2はナビゲーションなど自動車部品の製造、修理、販売業を目的とする会社であり、被告3はコンピュータ運営及び通信業を目的とする会社であって、それぞれD社からレプシロンの供給を受けて使用している。D社は2012年7月5日に被告1に吸収合併されて解散した。
原告は2002年5月頃、米国オラクル社が作ったデータベース管理システムであるオラクルを作動環境とする倉庫管理プログラム「ロジックキューブ」の基本モジュールを開発した。原告とD社はロジックキューブを韓国IBMが提供するサーバを利用して米国IBM社が作ったデータベース管理システムであるDB2を作動環境とし、ASP方式で倉庫管理システムのサービスをするために2004年1月5日に原告からEXE Onlineの開発・供給を受けることにするプログラム開発委託契約を締結しながら、「原告が提出した開発委託の産出物に関する全ての権利はD社に帰属する(第7条)」と約定した。これにより、原告は2004年2月26日にD社に開発を完了した産出物であるEXE Onlineを提供すると同時に、そのソースコードも提供した。
原告は2007年1月19日に名称を「Logic Cube WMS(Warehouse Management System)」としてロジックキューブを著作権登録し、2006年2月14日を創作した日として登録した。
一方、D社は2009年6月頃、オラクルを作動環境とする「レプシロン」という名称の倉庫管理システム(WMS)、運送管理システム及びその他拡張モジュールなどで構成された総合物流管理ソリューション「レプシロンスイート」を開発し、創作日を2009年6月30日として2009年11月27日にレプシロンを著作権登録した。D社は2010年3月11日に被告2らにレプシロンを含んだシステム構築を目的とする内容の開発委託契約とレプシロンを被告2が使用することができるようにする使用契約(ライセンス契約)を締結し、2010年7月頃、被告2に対してレプシロンなどを供給した。また、D社は2010年5月24日に被告3とも開発委託契約とライセンス契約を締結し、被告3に対してレプシロンを供給した。
本件紛争は原告が、D社(第1審訴訟係属中の被告1がD社を吸収合併してD社の訴訟手続を受継した)が無断でロジックキューブを改作してレプシロンという別途の倉庫管理プログラムを開発した後、被告2、3に供給して被告2、3がこれを使用していると主張し、被告1に対してはプログラム著作権侵害による不法行為に基づいた損害賠償(1億6千万ウォン)を求め、被告2、3に対してはD社から供給を受けたレプシロンの使用差止を求めた事案である。
第1審判決は、原告の被告1に対する請求のうち8千万ウォンと遅延損害金部分を認め残りの請求を棄却し、被告2、3に対する請求を全部受け入れ、原告と被告らがそれぞれその敗訴部分を不服として控訴を提起した。ところが、控訴審判決では、D社がEXE Olineに基づき改作してレプシロンを開発する権利を有しているので、D社の上記のような行為は原告のロジックキューブのプログラム著作権を侵害する行為に該当しないと見て、原告が全面敗訴した(ソウル高等法院2013年12月12日言渡2013ナ2032判決)。これに対し、原告が上告したものである。
判決内容
大法院の判断は次の通りである。
イ.原告が本件プログラムの開発・委託契約によって開発・供給したプログラムに関する著作財産権を全部譲渡したかどうかについて
D社は2004年1月5日に原告から倉庫管理プログラムを開発して供給を受けることにする内容のプログラム開発委託契約を締結したが、その契約書第7条には「乙(原告)が提出した役務遂行結果産出物に関する全ての権利は甲(D社)に帰属する」と記載されている。
本件開発委託契約によって原告は2004年2月26日にD社に開発を完了した産出物である本件プログラムを提供すると同時に、そのソースコードも提供した。
原審はこのような認定事実に基づいて、原告とD社は本件開発委託契約を締結しながら、開発成果物に含まれたプログラムである本件プログラムに関する全ての権利がD社に帰属するものとして約定し、原告とD社間に実質的な指揮・監督関係がある等、原告をD社の業務に従事する者と見るだけの特別な事情がないので、これは原告がD社に本件プログラムに関する著作財産権を全部譲渡する約定と解釈すべきであると判断した。このような原審の判断は正当で、ここに上告理由の主張のような契約の解釈に関する法理誤解、審理不尽などの違法はない。
ロ.原著作物の使用を含まざるを得ない二次的著作物の著作財産権を譲渡した場合、その譲渡の範囲に原著作物に対する譲渡や利用許諾が含まれるかどうか
二次的著作物は原著作物と別個の著作物なので、ある著作物を原著作物とする二次的著作物の著作財産権が譲渡された場合、原著作物の著作財産権に関する別途の譲渡の意思表示がなければ、原著作物が二次的著作物に含まれているという理由だけで原著作物の著作財産権が二次的著作物の著作財産権譲渡に伴って当然にともに譲渡されるわけではない。また、譲受人が取得した二次的著作物の著作財産権にその二次的著作物に関する二次的著作物作成権が含まれている場合、その二次的著作物作成権の行使が原著作物の利用を伴うならば、譲受人は原著作物の著作権者からその原著作物に関する著作財産権をともに譲り受けたり、その原著作物利用に関する許諾を受けなければならない。一方、原著作物と二次的著作物に関する著作財産権をいずれも保有している者が、そのうち二次的著作物の著作財産権を譲渡する場合、その譲渡の意思表示に原著作物利用に関する許諾も含まれているかは、譲渡契約に関する意思表示の解釈の問題であって、その契約の内容、契約がなされた動機と経緯、当事者が契約によって達成しようとする目的、取引の慣行などを総合的に考察して合理的に解釈すべきである。
本件開発委託契約では、本件プログラムに関する全ての権利がD社に帰属するとされており(第7条)、本件プログラムを改作する場合、原告から別途の許諾を受けなければならないか、本件プログラムを改作できる権利が一定の範囲内に制限されると見るだけの内容が記載されていない。
D社は本件プログラムのような倉庫管理プログラムを自ら使用する企業ではなく、物流事業を営む顧客を相手に倉庫管理プログラムを供給する企業であって、本件開発委託契約の締結当時からその後の利用環境などの変化に対応して本件プログラムを適宜修正することができる権利を確保する必要があり、原告もそのような事情をよく知っていたと見られる。
原告は、本件開発委託契約によって自身がこれまで保有していたプログラム(A)を利用して本件プログラムを開発した後、2004年2月26日にD社に本件プログラムのソースコードだけでなく、それに対応するオラクル基盤のソースコードもともに提供したが、このようにオラクル基盤のソースコードを提供するのは、D社がいつでもこれを参照して本件プログラムの作動環境をオラクルに転換できるようにする結果をもたらし得る。
二次的著作物は原著作物とは別個の著作物なので、たとえ本件開発委託契約によって本件プログラム(B)に関する著作財産権がD社に譲渡されても、それによって直ちにその原著作物(A)に関する著作財産権まで譲渡されたものと見るのは難しい。ただし、本件プログラムの著作財産権がD社に譲渡されることにより、それに関する改作権または二次的著作物作成権も譲渡されたと見ることができるが、D社が本件プログラムの作動環境をオラクルに転換して改作する場合についても原著作物の利用について原告の許諾があったと見るのが妥当で、D社が譲り受けた改作権の範囲が制限されると見る特別な事情もない。従って、D社が本件プログラムを利用して原告が自身のプログラム(A)と同様にオラクルを作動環境とするプログラムを製作・販売する行為は、原告が譲渡した本件プログラムを改作する権利に含まれるものであって、原告自身のプログラム(A)の著作財産権を侵害する行為に該当しないと見るべきである。従って、上告を全て棄却する。
専門家からのアドバイス
韓国著作権法には、コンピュータプログラムに関する著作財産権全部を譲渡する場合、他の著作物とは異なって、特約をしない限り二次的著作物作成権もともに譲渡されるものと推定する特則が存在する(第45条第2項)。本件契約の解釈においてこのような譲渡推定規定が前提とされ、被告らに本件プログラムに対する改作権が譲渡されたものと解釈されたと見られる。一方、原著作物と実質的類似性が認められる範囲に限って二次的著作物と見る概念定義上、二次的著作物に対する二次的著作物は、原著作物の内容を一部でも含むのが極めて自然である。このような点で二次的著作物に関する権利を改作権までともに譲渡したのであれば、その譲渡の範囲にその二次的著作物に含まれた原著作物の内容は利用する権利まで含まれているという理論構成が可能である。しかし、上記大法院判例は原則的にはそうでなく、譲受人は原著作物の著作権者から原著作物に関する著作財産権をともに譲り受けたり、その原著作物利用に関する許諾を別途に受けなければならないと判示しているのである(単に本件では譲渡契約の解釈で原著作物利用に関する原告の許諾があることを認めただけである)。プログラム著作権の譲渡取引においては、このような点に留意して交渉に臨むべきである。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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