知財判例データベース 国内で広く知られた製品と標章の文字部分は相違するが全体的なイメージ(トレードドレス)を模倣したものが不競法上の商品・営業出所の誤認混同行為に該当するか

基本情報

区分
不正競争
判断主体
ソウル中央地方法院
当事者
債権者 済州特別自治島開発公社 vs 債務者 株式会社ジェイクリエーション
事件番号
2017カ合80606
言い渡し日
2017年09月04日
事件の経過
抗告

概要

1998年から「サムダス(三多水)」というミネラルウォーターを販売してきた債権者が、「ハルラス(漢拏水)」というミネラルウォーターを販売した債務者に対して、商標権侵害ならびに不正競争防止法上の商品および営業出所の誤認混同行為に該当することを根拠に仮処分申立をし、債権者の申立が一部認容された事例。

事実関係

債権者は1998年に水源地が済州島である「サムダス」というミネラルウォーターを発売し、標章は「サムダス」の文字のほかに空と山を図案化して現在まで使用しており、これと関連した登録商標も保有している。一方債務者もミネラルウォーターを販売する過程で、「ハルラス」という文字および空と山の図案を含む5つの標章を使用し、これに対し債権者が商標権侵害ならびに不正競争防止法上の商品および営業出所の誤認混同行為などに該当することを根拠に使用差止仮処分を申し立てた。

判決内容

1.関連法理

不正競争防止法上の商品および営業出所の誤認混同行為禁止規定では、(1)国内で広く認識された他人の標章などと(2)同一・類似のものを使用して商品および営業出所の混同を生じさせる行為を規制している。

    1. 国内で広く認識されているか否かは、その使用期間、方法、態様、使用量、取引範囲など、ならびに商品取引の実情および社会通念上客観的に広く知られているか否かなどが基準になる。
    2. 標章の類否は、全体的・客観的・離隔的に観察し、具体的な取引実情上、一般需要者や取引者が営業出所を誤認混同するおそれがあるかによって判断しなければならない。特に標章が図形、模様、文字、記号、色など様々な要素からなる場合、その標章の構成要素を恣意的に分けてその一部だけに焦点を合わせて標章等の類否を判断するのではなく、商品または営業の出所を表示するのに寄与している一切の資料を考慮して、その標章が需要者や取引者に与える印象、記憶、連想などを総合的に観察・比較するいわゆる全体的観察が必要である。

2. 本件商品および営業標章が需要者に広く知られているか

    1. 債権者が1998年に「サムダス」ミネラルウォーターを発売して以降、継続的に使用している点
    2. 債権者商品は2015年~2016年の年売上額が2,000億ウォンを超え、発売以来、国内のミネラルウォーター市場の占有率首位であり、2007年から2016年まで「国家競争力ブランド指数」のミネラルウォーター部門1位に選ばれた点を総合すれば、本件商品および営業標章は周知である。

3. 債務者実施標章1乃至4の使用行為が出所の誤認混同行為に該当するか

本件商品および営業標章と債務者実施標章1乃至4は次のとおりである。

本件商品および営業標章

債務者実施標章1乃至4

    1. 両標章はいずれも上段を青色の背景として青い空を表し、左下に黄色と緑色で表現した火山噴火口が描かれているため色や図形の全体的な配置が類似する点
    2. 両標章は赤色で「チェジュ(済州)」をやや傾けて記載し、その下に青色で「サムダス」または「ハルラス」という文句を相対的に大きく記載した点
    3. 「サムダス」または「ハルラス」の文字の背景に白色の楕円形を施した点
    4. 両標章の下段に緑地の帯があり、当該部分に水源地を記載した点
    5. 両標章はいずれもミネラルウォーターに使用され、両商品ともに水源地が済州島である点
    6. 債務者実施標章1乃至4が表示された債務者商品が販売された際、債権者の商品「サムダス」の語句が検索キーワードで同じく記載され、一部需要者が債務者商品を債権者商品と誤認していた点を総合的に考慮すれば両標章は同一・類似であり出所の誤認混同があると判断される。

4. 債務者実施標章5の使用行為が出所の誤認混同行為に該当するか

本件商品および営業標章と債務者実施標章5は次のとおりである。

本件商品および営業標章

債務者実施標章5

債務者実施標章5の下段の山と「チェジュ」部分の文字の色の違いによって両標章は外観が類似せず、また呼称および観念が異なるため非類似である。

5. 債務者実施標章5が商標権侵害に該当するか

本件登録商標

債務者実施標章5

上の本件登録商標と債務者の実施標章は「チェジュ ハルラス」と呼称・観念される点が共通する。しかし本件登録商標は英文字と漢字の「hallasu水」が縦書きされている一方、債務者実施標章5は韓国語「ハルラ」と漢字「水」とが結合して横書きされてなる点、本件登録商標は文字のみからなる一方、債務者実施標章5は図形と色が組み合わされた商標で外観が顕著に異なるため、両標章は需要者が誤認混同を生じるおそれがあるとは言えず非類似である。

6. 小括

したがって、債権者は債務者を相手に債務者実施標章1乃至4を使用したミネラルウォーター製品の販売禁止と、飲食品販売業を営むにおいて債務者実施標章1乃至4の使用禁止を求める被保全権利がある。また債務者が以上のような債務者の行為が不正競争行為に該当しないという趣旨で争っている点、債務者が債務者実施標章1乃至4を実施していないと主張しているが、本件記録上、債務者が上記標章を使用していないとは断定できない点等に照らしてみるとき、本件仮処分を命じる保全の必要性および間接強制を命じる必要性も疎明される。

専門家からのアドバイス

不正競争防止法上の出所の誤認混同行為に該当するかを判断する場合、標章の類否は、商標法上の登録要件の判断時とは異なり、具体的な取引実情上の誤認混同があるかを考慮して判断する。具体的な混同の有無は、標章が表示された位置や大きさなど使用態様、全体的な印象やイメージ、標章に表れた悪意など、該当事件に表れた総体的かつ実質的な取引実情を意味する。本件でも債権者および債務者の標章の文字部分が非類似で、商標の類似判断時に最も重要視される呼称がまったく類似しないにもかかわらず、標章を構成する色および空と山の配置が共通し、全体的なイメージ(トレードドレス)が類似するとして両標章を類似と判断した点が注目に値する。また、標章の構成そのものの他に、両標章の商品がミネラルウォーターで共通し、水源地も同一で需要者が混同を生じる可能性があり、実際に一部需要者が混同を起こし債権者の商品であると考えて債務者の商品を購入したことがあるという具体的な取引実情を考慮した。
このように、不正競争防止法では両標章を形式的に対比して類否を判断するのではなく、各事案別に具体的事情を考慮して出所の誤認混同の可能性を判断するところ、標章の文字部分のみを異ならせ商品の全体的なイメージを模倣するといったようなケースにおいては、不正競争防止法を積極的に活用することが考えられる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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