知財判例データベース 2人以上が時期を異にして順次創作に寄与することによって各自が貢献した部分を分離して利用できない単一の著作物が作られた場合の、共同創作意思の判断基準

基本情報

区分
著作権
判断主体
大法院
当事者
検事 vs.被告人1 外1
事件番号
2014ド16517号
言い渡し日
2016年07月26日
事件の経過
確定

概要

502

2人以上が時期を異にして順次創作に寄与することによって単一の著作物が作られた場合に、先行著作者に自身の創作部分が1つの著作物として完成していない状態で、後行著作者の修正・増減などを通じて分離利用が不可能な1つの完結した著作物を完成させようとする意思があり、後行著作者にも先行著作者の創作部分を基礎としてこれに対する修正・増減などを通じて分離利用が不可能な1つの完結した著作物を完成させようとする意思があれば、これらには各創作部分の相互補完によって単一の著作物を完成させようという共同創作の意思があったと認めることができる。一方、先行著作者に上記のような意思がなく、自身の創作として1つの完結した著作物を作ろうという意思があるだけであれば、仮に先行著作者の創作部分が1つの著作物として完成していない状態で後行著作者の修正・増減などによって分離利用が不可能な1つの著作物が完成したとしても、先行著作者と後行著作者との間に共同創作の意思があるとは認めることができない。

事実関係

被告人1は放送キー局であるMBCの社員として、MBC歴史ドラマ「キム・スロ」(以下「本件ドラマ」)の総括企画者であり、被告人2は本件ドラマの製作のために設立された公訴外有限会社代表者であり、被告人らは上記ドラマの製作及び広報のための重要事項をともに協議して対応してきた。被告人らは2009年7月30日に作家である公訴外被害者と32話分と予定された本件ドラマの脚本執筆契約を結んだが、上記契約は被害者がドラマ製作及び放送日程を守れない場合といった一部の例外的な状況ではない以上、被害者がドラマの脚本を完成させることを前提としている。被告人らはまた、上記契約でドラマの脚本を小説化して出版する場合、出版に先立って事業内容、収益分配の条件について被害者と事前に協議することを約定し、2010年3月9日に上記ドラマの広報のために株式会社図書出版イレと上記ドラマの脚本を脚色した小説を出版するという契約を結んだ。一方、本件執筆契約には被害者が作成したドラマの脚本の著作財産権を上記執筆契約の当事者である公訴外1有限会社などに譲渡する内容はない。

被害者が本件執筆契約で予定された32話分のドラマの脚本のうち、第1話から第6話まで一部を作成した状態で被告人らが本件執筆契約の解除を通知するや、被害者はこれに対応して自身の既存の作業成果を利用しないように通報し、公訴外1有限会社を相手取って執筆契約の不当解除通報による契約違反に対する違約金請求の訴えを提起した。上記民事事件の第一審と控訴審は、公訴外1の有限会社が被害者のこれといった帰責事由や契約の解除を正当化するに値する他の事情がないにもかかわらず、本件執筆契約を任意に解除して被害者に損害を加えたことを認めて、公訴外1の有限会社に損害賠償を命じ、その判決は後続の大法院判決で確定した。

本件ドラマの脚本は被害者が創作した部分に基づいて上記契約解除通知以後に他の作家によって合計32話分として完成されたが、被告人らは2010年10月4日ごろ図書出版イレから本件ドラマの脚本を脚色した小説が出版される予定であるという連絡を受けてもこれを被害者に知らせたり出版中断を要請せず、上記小説の原作者を「MBC週末特別企画〈キム・スロ〉原作」と表記して出版するよう要求したことにより、2010年10月25日に被害者が執筆した本件被害者の脚本を脚色した部分を含んで作成された「鉄の王キム・スロ」という題名の小説が出版された。

被告人らは、本件全体の脚本が共同著作物と見られることを前提として、被告人らが被害者と合意なしに本件小説が出版されるようになったとしても、被害者の著作財産権を侵害する行為に該当しないので、これに反する原審の判断には共同著作物の成立に関する法理を誤解するなどの誤りがあるという趣旨で上告した。

判決内容

法院の判断は次の通りである。

  1. 2人以上が共同創作の意思をもち、創作的な表現形式自体に共同の寄与をすることによって各自が貢献した部分を分離して利用できない単一の著作物を創作した場合、これらはその著作物の共同著作者になるといえる。ここで共同創作の意思は法的に共同著作者になろうとする意思を意味するものではなく、共同の創作行為によって各自の貢献した部分を分離して利用できない単一の著作物を作り出そうとする意思を意味するものと見るべきである(大法院2014年12月11日言渡2012ド16066判決参照)。また、2人以上が時期を異にして順次創作に寄与することによって単一の著作物が作られる場合に、先行著作者に自身の創作部分が1つの著作物として完成していない状態で後行著作者の修正・増減などを通じて分離利用が不可能な1つの完結した著作物を完成させようとする意思があり、後行著作者にも先行著作者の創作部分を基礎としてこれに対する修正・増減などを通じて分離利用が不可能な1つの完結した著作物を完成させようとする意思があれば、これらには各創作部分の相互補完によって単一の著作物を完成させようとする共同創作の意思があると認めることができる。一方、先行著作者に上記のような意思があるわけではなく、自身の創作として1つの完結した著作物を作ろうとする意思があっただけであれば、仮に先行著作者の創作部分が1つの著作物として完成していない状態で後行著作者の修正・増減などによって分離利用が不可能な1つの著作物が完成したとしても、先行著作者と後行著作者との間に共同創作の意思があると認めることができない。したがって、このとき、後行著作者によって完成した著作物は、先行著作者の創作部分を原著作物とする2次的著作物と見ることはできても、先行著作者と後行著作者による共同著作物とは見ることができない。
  2. 初めから本件執筆契約において特別な事情がない限り被害者が本件ドラマの脚本を完成させることが約定されているだけでなく、被害者が特に帰責事由なしに被告人らから本件執筆契約の解除通知を受けた後、これに対応して被害者が作成したドラマの脚本の利用禁止などの通報までも行っていた。とすれば、仮に本件被害者の脚本を含んで被害者が創作した部分が本件脚本全体の一部構成部分として被害者が創作した部分と残りの部分が分離して利用できない単一の著作物になったとしても、被害者には自身の創作部分が1つの著作物として完成していない状態で後行著作者の修正・増減などを通じて分離利用が不可能な1つの完結した著作物を完成させようとする意思があったわけではなく、自身の創作として1つの完結した著作物を作ろうとする意思があっただけで、被害者と本件脚本全体を最終的に完成させた作家との間に共同創作の意思があったと認めることができない。したがって、本件脚本全体は被害者の創作部分を原著作物とする2次的著作物と見ることはできても、被害者と上記作家による共同著作物と見ることはできない。これらの事情とは異なって、本件脚本全体が共同著作物と見ることを前提として、被告人らが被害者と合意なしに本件小説が出版されるようにしたとしても被害者の著作財産権を侵害する行為に該当しないので、これに反した原審の判断には共同著作物の成立に関する法理を誤解するなどの誤りがあるという趣旨の上告理由の主張は受け入れられない。

専門家からのアドバイス

共同著作物と認められるためには、客観的要件として各自の創作的寄与が認められなければならないだけでなく、韓国著作権法には明文化された規定はないものの、主観的要件として共同創作の意思が存在しなければならないという方向で意見がまとまりつつある。ところが、従来「共同創作の意思」を解釈する基準として、共同で著作物を作成するという意思の伝達が当事者間でなされる場合が普通であるが、共同意思の存在を外部から識別することは困難なので、このような主観的要件を過度に厳格に要求するものではないと主張する客観説と、共同著作の参加者間に主観的にも明確に共同創作の意思がなければならないという主観説(意思説)との間で解釈の対立があった。今回の大法院判例は、共同創作の意思は、共同の創作行為によって各自の貢献した部分を分離して利用できない単一の著作物を作り出そうとする意思を意味するものと見るべきであるという大法院判決(大法院2014年12月11日言渡2012ド16066判決)以来、法院の見解と見られる主観説をより一層支持する判断である。本件事実関係を見ると、先行著作者の著作物完結の意志が強かったにもかかわらず、もしこれを共同著作物と認定してしまうことになると、被告人らに著作権侵害の責任を負わせることが難しいことになり、このような結果は被害者にとってかなり不当なものになってしまう。これらを考えてみれば、判例の見解は至極妥当なものと言えよう。

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