知財判例データベース 著作権法上非親告罪の要件である「営利を目的として又は常習的に」の判断基準

基本情報

区分
著作権
判断主体
水原地方法院城南支院
当事者
検事 vs. 被告人1外1人
事件番号
2016コジョン432号
言い渡し日
2016年08月18日
事件の経過
非公開のため不明

概要

504

非親告罪が適用される著作権法第140条ただし書第1号の「営利を目的として」著作権を侵害した行為は、「著作財産権などの侵害行為を通じて直接対価の支払いを受けて不法な収益を得ようとする目的」を意味するものと限定して解釈することが妥当である。1回性又は小規模になされる各種著作権侵害事件において「間接的な営利の目的」がある場合まで告訴権者の意思と無関係に一律的に処罰する必要性があると見ることはできない。この場合、権利者の告訴は刑事訴訟法第230条第1項本文、即ち「親告罪に対しては犯人を知った日から6月が経過したら告訴できない」とする規定でいう6カ月以内という告訴期間を遵守してなされなければならない。

事実関係

デンマークに所在を置くA社はローズヒップ(Rose Hip、バラの果実)原料を生産する会社であり、韓国の株式会社B商社はA社の韓国独占総代理店である。株式会社B商社は2007年頃、食品医薬品安全処(以下「食薬処」)にローズヒップを健康機能食品機能性原料として認めてほしい旨の申請をし、A社から提供を受けたC教授などの臨床実験論文(以下「本件論文」という)を提出した。本件論文はA社がC教授などに研究役務を与えて作成されたもので、2005年頃、リウマチに関するデンマーク学術誌であるスカンジナビアジャーナルに掲載された。

被告人である株式会社D社は、2012年頃にチリ産ローズヒップを輸入しようとし、D社の研究所副所長である被告人Eは2012年6月5日頃、食薬処に健康機能食品機能性原料の認可申請をする際に不詳の方法でインターネットを通じてダウンロードした上記論文全体をそのまま出力してともに提出した。

株式会社B商社は2013年7月中旬、被告人らが論文を許諾なしに使用した事実を知り、その後C教授などに連絡し、C教授は2013年8月7日及び2014年8月25日に本件に関する意見を株式会社B商社及びA社に伝えた。C教授らは2015年2月18日、A社に告訴権を委任し、A社は2015年3月30日に株式会社B商社にさらに告訴権を委任し、株式会社B商社は2015年4月20日に清州地方検察庁に告訴状を提出した。

被告人らは複製権の侵害と関連し、上記論文は原則的に複製が許容されたものであって、ただしこれを個人的な目的でのみ使用する付随的義務だけがあるものであるため、著作権侵害罪には該当しないと主張した。また、本件論文の配布行為は「公衆」ではなく「特定少数人(食薬処の担当公務員)」にだけなされたので、配布権の侵害行為に該当しないと主張した。さらに被告人らは、1)著作権法第140条ただし書第1号で非親告罪と規定している「営利を目的として」著作権を侵害した場合というのは、著作物の複製及び配布などにより直接的な利益を得ようとする「直接的な営利の目的」の場合と限定解釈すべきであり、2)被告人らが本件論文を食薬処に提出した行為は単に企業活動において業務上の目的に使用したものであり、「間接的な営利の目的」に該当するので、3)結局、被告人らの侵害行為は親告罪に該当し、告訴期間が徒過したと主張した。

判決内容

法院の判断は次の通りである。

  1. 本件論文は海外学術情報サイトにて有料で提供されており、著作権者が一般大衆にインターネットを通じた自由な複製を事前に許容したと見ることはできない。被告人らは不詳の方法でインターネットを通じて上記論文を対価を支払わずにダウンロードした後、その複製本を作成して食薬処に提出したところ、これは著作権者の同意なしに著作物を無断複製したもので、複製権の侵害行為に該当する。また、本件論文の末尾には「個人的な用途(individual use)」で出力、ダウンロード又はE-Mail伝送する行為は許容しているが、会社の業務遂行のために行った上記のような行為が個人的な用途に該当すると見ることもできない。

    大韓民国著作権法第2条第32号で「公衆」とは「不特定多数人(特定多数人を含む)」と規定しており、第2条第23号で「配布」とは「著作物等の原本又はその複製物を公衆に対価を受け、又は受けないで譲渡又は貸与することをいう」と規定しているが、これは著作権法によって保護を受ける著作権者の排他的権利である「配布権(著作権法第20条)」の保護範囲を説明したものに過ぎず、著作権法第136条第1項第1号によって処罰を受ける配布権の侵害行為が必ず「公衆」を対象になされることを要件とすると解釈するとは言えない。配布権の侵害行為において配布の相手が1人であるか多数であるかは著作財産権侵害の量的な問題に過ぎず、著作権者の同意を受けない特定人に対する配布行為を著作権法の保護対象から除外する理由がないためである。また、被告人が本件論文を提出した当時、これを検討又は使用する担当公務員が誰であるか特定されてもおらず、その人員及び内部で担当する者が限定されてもいない点を考慮すれば、被告人が「不特定多数人」に上記論文を配布したものと見る余地もある。従って、被告人が本件論文を著作権者の許諾を受けずに担当公務員に配布した行為は著作権者の配布権を侵害する行為に該当する。

  2. 旧著作権法では著作権法違反罪が全て親告罪と規定されていたが、著作権侵害の公益的な害悪に関する論議が提起され、2006年12月28日の改正当時「営利のために常習的に」著作財産権を侵害した場合には、非親告罪として改正され、その後、韓米FTAの履行のための2011年12月2日付改正(2011年12月2日法律第11110号で一部改正されて2012年3月15日施行、本件適用法律)により「営利を目的として又は常習的に」著作財産権などを侵害した場合には、非親告罪に該当すると再度改正された(著作権法第140条ただし書第1号)。これと関連し、法改正後の判例中「営利を目的として」という文句を直接的に解釈した事案は見出し難く、学説では「著作財産権侵害物などを他人に販売したりそのような侵害行為を有償で代行する等、侵害行為を通じて直接利得を取得する目的を意味すると見ることが妥当である」という見解が提起されたことがある。詳察するに、刑罰法規の解釈は厳格でなければならず、明文規定の意味を被告人に不利な方向で過度に拡張解釈したり類推解釈することは罪刑法定主義の原則に反するものとして許容されないところ(大法院2002年2月8日言渡2001ド5410全員合議体判決、大法院2004年2月27日言渡2003ド6535判決など参照)、非親告罪が適用される著作権法第140条ただし書第1号の「営利を目的として」著作権を侵害した行為は、「著作財産権などの侵害行為を通じて直接対価の支払いを受けて不法な収益を得ようとする目的」を意味すると限定して解釈することが妥当である。これは会社及び商人など営利活動をする全ての経済主体の活動は最終的には営利の目的があると見ることができるが、このような業務活動で発生する全ての著作権侵害行為が非親告罪に該当すると広く解釈するならば、これは制限的に非親告罪を規定した著作権法の立法趣旨に反するためである。本件のように1回性又は小規模になされる各種著作権侵害事件において「間接的な営利の目的」がある場合まで告訴権者の意思と無関係に一律的に処罰する必要性があると見ることはできないであろう。

    とすれば、本件論文を無断利用した被告人らの著作権侵害行為は「直接的な営利の目的」に該当しないので著作権法第140条ただし書第1号が適用されないため、親告罪に該当する。刑事訴訟法第230条第1項本文は「親告罪に対しては犯人を知った日から6月が経過したら告訴できない」と規定しており、ここで「犯人を知った」というのは、通常人の立場から見て告訴権者が告訴をすることできる程度に犯罪事実と犯人を知ったことを意味し、犯罪事実を知るというのは、告訴権者が親告罪に該当する犯罪の被害があったという事実関係について確定的な認識があることをいう(大法院2010年7月15日言渡2010ド4680判決など参照)。株式会社B商社は2013年7月中旬頃、被告人らが本件論文を許諾なしに使用した事実を知り、これをC教授などに知らせ、C教授は2013年8月7日及び2014年8月25日、これに関する意見を株式会社B商社及びA社にそれぞれ伝えたところ、本件論文著作権者のC教授は2013年8月7日頃に被告人らが本件論文を許諾なしに使用した事実を既に知ったと見るべきである。その後、株式会社B商社はC教授及びA社の委任を受けて2015年4月20日になって初めて告訴状を提出したところ、著作権者であるC教授の告訴は告訴期間6カ月が徒過したものとして、公訴提起の手続が法律の規定に違反しており、無効な時に該当する。従って、被告人らに対する公訴を全て棄却する。

専門家からのアドバイス

上記判例は非親告罪の要件である「営利を目的として又は常習的に」の意味を相当厳格に解釈したものとして、このような法院の判断が今後も維持されるかは見守る必要がある。上記のような法理が維持されるならば、著作権者としては1回性又は小規模になされる著作権侵害行為に対しては刑事手続を進めるために、犯人を知った時から6カ月以内に告訴しなければならないという親告罪の告訴期間に留意する必要があることになる。

しかし、侵害行為が非親告罪要件を満たせず、犯人を知った日から6カ月以内という刑事訴訟法上、告訴期間の制限を受けるようになっても、著作権者の著作物を侵害者が継続的に複製、配布した場合のように侵害行為が一定の期間持続的になされた場合には、数個の侵害行為が包括的に1つの罪と評価される、いわゆる包括一罪に該当し、最終侵害行為の終了時を基準に告訴期間が起算されると見る余地もある。この場合、侵害者によって複製、展示、配布などの著作権侵害行為が現在も続いているのであれば、犯罪がまだ終了したわけではないので告訴期間の徒過問題は発生しない。また仮に、侵害行為が上記のように包括一罪と解釈されずに個々の侵害行為を別個の罪と見るとしても、告訴した日から逆算して告訴期間である6カ月以内になされた著作権侵害行為に対しては処罰が可能であると言えるであろう。

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