知財判例データベース 使用済みゴルフボールを再加工して販売する際に元の商標を使用したことに商標権の効力が及ぶと判断した事例
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- ソウル中央地方法院
- 当事者
- 原告 アクシネットカンパニー v. 被告 (株)リフィニッシュボールコリア
- 事件番号
- 2015ガ合539487
- 言い渡し日
- 2016年02月05日
- 事件の経過
- 確定
概要
486
使用済みの捨てられたボールに塗色/コーティングなどを施して再加工し本来の登録商標とともに「REFINISHED」、「LOSTBALL」を表示して販売した被告に対して原告が商標権侵害差止を請求した事案において、塗色/コーティングなどの再加工により被告が販売するゴルフボールは元のゴルフボールとの同一性を喪失したとみられ、このような被告の行為は実質的な生産行為に該当するので原告の商標権の効力が及ぶと判断された。
事実関係
原告は「TITELIST」、「PROV1」などの商標権者であって、これらの標章を使用してゴルフボール、ゴルフバッグなどを生産・販売する世界的なゴルフ用品メーカーであるが、被告は原告が生産して販売したゴルフボールのうち消費者によって使用済みの捨てられたゴルフボールを集め、自ら開発した剥皮技術などの工程を施したものを、原告商標とともに「REFINISHED」、「LOSTBALL」および「Refinished ball Korea」などと表示して販売していた。これに対し原告は二度にわたり原告商標の使用中止を求めたが、被告は商標権侵害を否認して原告製品との違いを目立たせるために製品パッケージを変更し、「LOSTBALL」をより明確に表示するという趣旨でのみ回答した。このため原告は被告を相手に被告が原告商標をゴルフボール、包装箱などに使用する行為は商標権侵害に該当すると主張してその中止を請求し、これに対し被告は2013年5月29日に廃業申告をしたので原告の請求は権利保護利益がなく、製品に「LOSTBALL」、「REFINISHED」という文句と被告の商号である「Refinished ball Korea」を表示しているため消費者が原告製品と被告製品を誤認・混同するおそれはなく、原告は消費者にゴルフボールを販売することにより当該ゴルフボールに対する商標権が消尽したため被告の行為に対しては商標権の効力が及ばず、原告の請求は棄却されなければならないと主張した。
判決内容
- 被告が原告の訴提起以前に既に廃業申告をしたため原告の請求に権利保護利益がないか否か
商標権侵害行為を継続している場合だけでなく、将来侵害するおそれがある者に対しても侵害停止などを求めることができるところ(商標法第65条第1項[1])、被告が廃業した後の2014年頃にも継続して原告の商標を使用しており、原告の販売中止要請を拒否したことがあるうえに、そのような拒否の回答をした時点が廃業日後の2014年3月および6月頃であった点に照らし、被告は将来原告の商標権侵害行為をするおそれがあるといえるため、被告の主張は被告が現在も原告の商標権侵害行為を行っているかどうかに関係なく、理由がない。 - 被告の製品に原告商標とともに「LOSTBALL」、「REFINISHED」という文句と被告の商号である「Refinished ball Korea」を表示して原告製品と被告製品の誤認・混同を生じさせるおそれがないからとして、このような原告商標の表示は商標的使用に該当しないか否か
(1)ゴルフボールに使われた「ロストボール(Lost ball)」や「リフィニッシュ(refinished)」という文句は「再使用ゴルフボール」ないし「再加工ゴルフボール」と認識されているところ、上記文句は商品の機能を表示する機能的標章に過ぎず、商標の同一・類似判断において識別力のある要部になり得ない点、(2)原告の登録商標のうち「TITELIST」は国内の消費者の間でかなりの認知度があるとみられるのに対し、被告の商号である「株式会社リフィニッシュコリア」が消費者の間で識別力を備えたと認める証拠がなく、このように識別力のある本件登録商標にロストボールないしリフィニッシュ等の文句が併記されて使われる場合、原告が再加工ゴルフボールを販売する企業であるかのように誤認される素地もある点、(3)被告は原告のゴルフボールを加工した後、本件登録商標を改めて表示して販売したところ、被告としても原告商標の認知度を使用する意図があったとみられる点などを総合すれば、消費者が原告製品と被告製品の誤認・混同を生じるおそれがないとか被告の標章使用行為が「商標的使用」ではないとみることはできない。 - 原告が消費者にゴルフボールを販売することにより当該ゴルフボールに対する原告の商標権は消尽し、被告が再加工ゴルフボールを販売する過程で原告の本件登録商標を使用することに原告の商標権の効力が及ばないか否か
特別な事情がない限り商標権者などが国内で登録商標が表示された商品を譲渡した場合には当該商品に対する商標権はその目的を達成したものとして消尽し、それにより、商標権の効力は当該商品を使用、譲渡または貸与する行為などには及ばないといえるが、元の商品との同一性を害するほどの加工や修繕をしたときは実質的に生産行為をするのと同じであるので、このような場合には商標権者の権利を侵害するものとみるべきで、同一性を害するほどの加工や修繕により生産行為に該当するか否かは当該商品の客観的な性質、利用形態および商標法の規定趣旨と商標の機能などを総合して判断しなければならない(大法院2003年4月11日言渡2002ド3445判決など参照)とされ、すでに販売されて商標権が消尽した商品を同一性を害するほどに加工・修繕する場合は実質的な生産行為とみて商標権侵害に該当する。
本案で被告は原告が一度販売し商標権が一応消尽したゴルフボールを収集後再加工して販売しているところ、被告のこのような行為が上記の大法院判例の基準によって実質的な生産行為に該当するか否かを判断すると、(1)被告のインターネットウェブサイトには被告の製品に関して「自ら開発した特許新技術適用」、「特殊熱処理と塗料・コーティングを均一に分布」と紹介している点、(2)ゴルフボールのリフィニッシュ過程で「剥皮」工程を経ると紹介し、特定特許番号を記載しているが、この特許発明は使用済みのゴルフボールを剥皮したあと、その表面に顔料を塗色する塗装装置に関するもので、剥皮過程を経たゴルフボールが元のゴルフボールと性能・品質が同じであるとはみがたい点等に照らしてみれば、被告のゴルフボールは原告のゴルフボールを同一性を害するほどに再加工したものとみられるところ、被告のこのような再加工行為は実質的な生産行為に該当し、再加工したゴルフボールに原告の本件登録商標を使用することには原告の商標権の効力が及ぶ。
よって、被告の以上のような主張はいずれも理由がなく、被告は原告の本件登録商標をその指定商品と同一・類似の商品であるゴルフボールおよびその包装箱、ゴルフボールポーチなどに使用したところ、これは原告の商標権を侵害する行為に該当する。
専門家からのアドバイス
権利消尽論とは、「商標権者など当該商標に関する正当な権限を持つ者が国内で登録商標が表示された商品を譲渡した場合には、当該商品に関する商標権はその目的を達成したものとして消尽し、それにより商標権の効力は当該商品を使用・譲渡または貸与する行為などには及ばない」という理論をいい、真正品の並行輸入やインクカートリッジなどの再生品などに関連してよく取り上げられる問題である。このような権利消尽理論は商標権者などによって適法に譲渡された「当該商品」に限って商標権が消尽するというものであり、譲受人が譲り受けた当該商品を他人に「そのまま」または「同一性が損傷されない程度の単純な修理・加工」を施して再譲渡するのではなく、元の商品との同一性を害するほどの加工や修繕をする場合は実質的に生産行為をするのと同じであるので、このような場合は商標権者の権利を侵害することになる。同一性を害するほどの加工や修繕が生産行為に該当するか否かは上記判決にもあるとおり、ケースバイケースとなるが、本案ではゴルフボールを再生させる行為を実質的な生産行為とみて権利消尽論が適用されないと判断しており、再生品に関する権利消尽論について大いに参考となろう。
注記
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第65条(権利侵害に対する禁止請求権等)
(1)商標権者または専用使用権者は、自己の権利を侵害した者または侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止または予防を請求することができる。
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