知財判例データベース 通常実施権の登録抹消が「特許権等の知識財産権に関する訴え」に該当して特許法院の専属管轄に属するか
基本情報
- 区分
- その他
- 判断主体
- 高等法院
- 当事者
- 原告(特許権者)vs 被告(通常実施権者)
- 事件番号
- 2016ナ2016427 通常実施権の登録抹消等
- 言い渡し日
- 2016年05月24日
- 事件の経過
- 特許法院移送
概要
494
民事訴訟法第24条第2項[1]、第3項[2]で「特許権等の知識財産権に関する訴え」の管轄について特別に規定されているのは、その審理判断に高度な技術的専門知識を必要とする場合が多く、審理の円滑な進行のためには、通常の民事事件とは異なるノウハウや経験の蓄積も必要とすることにより、特許権等の知識財産権に関する訴訟を取り扱う専門裁判部が設けられ、技術的専門知識を有する技術調査官が配置されている等、専門的処理体制を備えた高等法院所在地の地方法院の専属管轄とすることによって、このような訴訟の審理の充実と促進を図ろうとするためである。よって、特許権等の知識財産権侵害を理由とした差止・廃棄・信用回復等請求や損害賠償請求訴訟だけでなく、特許権等の実施契約に基づいた実施料支払い請求訴訟、特許権等の移転・抹消登録請求訴訟、専用・通常実施権等の設定有無、帰属等に関する訴訟、職務発明・考案・デザインに対する補償金請求訴訟等も含まれる。
事実関係
原告(特許権者)は被告(通常実施権者)に対し、次のような理由で原告の特許権に関する通常実施権の抹消登録と通常実施権の設定契約違反による損害賠償を求めた。
原告と被告は相互協力契約により通常実施権の設定契約の契約期間を5年に定めたので、締結日(2009年2月27日)から5年が経過した2014年2月26日に契約期間満了によって該当特許発明に関する被告の通常実施権は消滅し、設定登録に関する抹消登録手続を履行する義務があり、予備的に、通常実施権の設定契約により特許発明の実施製品をサムスン電子及び台湾企業にのみ販売することにしたにもかかわらず、被告が特許発明の実施製品を中国企業に販売して契約に違反し、原告は本件訴状の副本送達によって通常実施権の設定契約違反を理由にその設定契約を解約するので、被告は通常実施権の設定登録に関する抹消登録手続を履行する義務がある。そして、原告と被告の間の確約により契約違反行為については20億ウォンを賠償することで合意しているので、その一部請求として1億ウォンの支払いを求めるというものである。
これに対し、一審判決は2016年1月29日に、被告に対して原告の特許権に関する通常実施権の設定登録について2014年2月27日の失効を原因とした抹消登録手続の履行を命じ、原告の残りの請求を棄却した。これに対し、原告と被告がその敗訴部分を不服として高等法院に控訴した。
判決内容
特許権等の知識財産権またはそれに準ずる特許法等の知識財産権に関する法律上の権利の存否、帰属等に関する訴えのように、特許権等の知識財産権と密接に関連した訴えの場合には、その審理判断に技術的専門知識を必要とする可能性が類型的に存在する。さらに、民事訴訟法第24条第2項、第3項は「特許権等の知識財産権侵害に関する訴え」や「特許権等の知識財産権に基づいた訴え」ではなく、「特許権等の知識財産権に関する訴え」と包括的に規定している。このような種々の事情を考慮すると、上記「特許権等の知識財産権に関する訴え」には、特許権等の知識財産権侵害を理由とした差止・廃棄・信用回復等請求や損害賠償請求訴訟だけでなく、特許権等の実施契約に基づいた実施料支払い請求訴訟、特許権等の移転・抹消登録請求訴訟、専用・通常実施権等の設定有無、帰属等に関する訴訟、職務発明・考案・デザインに対する補償金請求訴訟等も含まれると解釈することが妥当である。
本件は原告の特許権に関する通常実施権の設定契約上の契約期間満了または通常実施権の設定契約違反による解約・解除に伴う通常実施権の抹消登録と通常実施権の設定契約違反による損害賠償を求める訴訟であって、特許権等の知識財産権と密接に関連し、通常その審理判断に技術的専門知識が必要になる可能性があるといえる類型の訴えに該当すると見ることが妥当なので(しかも、原告は予備的請求として被告が特許発明の実施製品を中国企業に販売して通常実施権の設定契約に違反したと主張しているので、被告が特許発明を実施して製品を生産・販売したかについて技術的専門知識が必要になる可能性が高く、実際に一審判決も相当部分を割いて被告が中国企業に販売した製品が本件第1特許発明の構成要素を全て含んでいるかについて判断している)、「特許権等の知識財産権に関する訴え」に該当するので、本件は法院組織法第28条の4第2号[3]、民事訴訟法第2条第2項により特許法院に管轄権がある。よって、本件は本法院の管轄に属さないためこれを特許法院に移送する。
専門家からのアドバイス
韓国は2015年の民事訴訟法改正により、「特許権等の知識財産権に関する訴え」について専属管轄が定められた。ところが、「知識財産権に関する訴え」として典型的な侵害差止や損害賠償請求以外に、どの範囲まで該当するか多少曖昧だった。特に、韓国の特許法、実用新案法、デザイン保護法、商標法の法文中には、訴訟と関連しては明示的に「侵害に関する訴訟」と限定的に表現されているため、他の訴訟も認められるかが問題になっていた。
本決定は、上記専属管轄において「知識財産権に関する訴え」の範囲が包括的に認められることを確認したという点で意義がある。また、具体的に含まれる訴訟の例として、特許権等の実施契約に基づいた実施料支払い請求訴訟、特許権等の移転・抹消登録請求訴訟、専用・通常実施権等の設定有無、帰属等に関する訴訟、職務発明・考案・デザインに関する補償金請求訴訟を列挙した点も意義深い(ただし、商標については言及されていないが意図的な含みがあるかどうかはここでは不明である)。
決定文にも説示されているが、実施権等の契約に関する訴えにおいても実際に製造・販売された製品が特許発明の実施製品と評価できるものか否かが重要な事実となり、その判断のためには、特許発明の内容以外に実際に製造・販売された製品の構造や性能等を理解することができる技術的専門知識が必要になる可能性が高い。このような点を考慮すると、列挙された訴訟以外にも知識財産権が関連した訴訟であれば専属管轄を有するものと判断することが望ましいと思われる。
なお、このように専属管轄が定められたので、今後「知識財産権に関する訴え」について特許、実用新案、デザイン、そして商標も含め、各権利による紛争等に関して処理の蓄積が進み有効な司法処理統計が得られることを期待したい。
注記
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特許権等の知識財産権に関する訴えを提起する場合には、第2条から第23条までの規定による管轄地方法院の所在地を管轄する、全国5ヶ所の高等法院に隣接する地方法院の専属管轄とする。ソウル高等法院がある所の地方法院は、ソウル中央地方法院に限定する。
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第2項にかかわらず、当事者は、ソウル中央地方法院に特許権等の知識財産権に関する訴えを提起することができる。
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法院組織法附則(2015年12月1日)第2条は「第28条の4第2号の改正規定はこの法施行前に訴訟係属中の特許権・実用新案権・デザイン権・商標権・品種保護権の知識財産権に関する民事事件に対してこの法施行(2016年1月1日)後に一審判決が宣告された場合についても適用する」と規定している。
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