知財判例データベース 登録されておらず周知商標にも至っていない文字商標に対して、不正競争行為及び民法上の一般不法行為規定の適用を否定した事例

基本情報

区分
不正競争
判断主体
ソウル高等法院
当事者
債権者 株式会社ナナ&カンパニー vs. 債務者個人
事件番号
2015ラ20710
言い渡し日
2016年01月12日
事件の経過
上告期間徒過前

概要

480

債権者は登録されていない自身の商標を無断で商号として使用していた債務者に対し、不正競争防止法第2条第1号イ目及びヌ目を根拠として商号使用差止仮処分を申し立てたが、債権者の商標は国内需要者に広く知られている周知商標に至る程度に知られておらず、不正競争防止法第2条第1号イ目に該当せず、周知商標に至っていない債権者の商標の使用を通じて債権者が積み重ねた信用と顧客吸引力は、債権者の「相当な投資又は労力により作成された成果」に該当せず、たとえ債務者が債権者の商標を無断で利用しても、それによって債権者の「法律上保護する価値がある利益」が侵害されたと見ることはできず、その利用行為が「公正な商取引慣行や競争秩序に反するもの」と見ることもできないとし、不正競争防止法第2条第1号ヌ目に該当せず、さらに民法上の不法行為にも該当しないと判断した。

事実関係

債権者は「リボンタイ(ribbontie)」という商号のインターネットショッピングモールを運営し、「NAH」商標(以下「債権者の商標」という)が表示された女性用衣類を販売してきた。債権者のショッピングモールの会員数は約30万人であり、毎月約85万~180万人がアクセスしている。債権者の会社の全売上高は、2013年には約95億5千万ウォン、2014年には約81億2千万ウォンであり、債権者の商標が表示された衣類の売上高は約3億2千万ウォン(2014年10月~2015年8月)である。

債務者は「NAH」という商号のインターネットショッピングモールを運営しており、この債務者を相手取って債権者は不正競争防止法第2条第1号イ目、ヌ目の不正競争行為に該当し、予備的に民法上の不法行為にも該当すると主張して、商号使用差止を求める仮処分を申し立てた。

判決内容

  1. 不正競争防止法第2条第1号(イ)目[1]の不正競争行為の主張に対する判断
    他人の商標が「国内に広く認識されているか」どうかは、その使用期間、方法、態様、使用量、取引範囲などと商品取引の実情及び社会通念上、客観的に広く知られているかどうかなどで判断する。この法理に鑑みて詳察したところ、債権者の商標は約1年2カ月使用され、累積売上高も約3億2千万ウォンであるが、このような使用期間と売上高だけでは国内に広く認識されていると見難い。ショッピングモールの会員数や月平均アクセス者数、会社売上高などの資料は、債権者のショッピングモールの営業標識あるいは債権者の商号が広く認識されていることを裏付ける証拠になり得るだけであって、債権者の商標の周知性は裏付けられない。従って、不正競争防止法第2条第1号イ目と関連した債権者の主張は受け入れられない。
  2. 不正競争防止法第2条第1号(ヌ)目[2]の不正競争行為の主張に対する判断

    不正競争防止法第2条第1号ヌ目が定める不正競争行為に該当するかを判断するにおいては、(1)保護されるべきであると主張する成果等が「相当な投資又は労力」により作成されたか、(2)「法律上保護する価値がある利益」を侵害すると見ることができるか、(3)そのような侵害が「公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法」によるものか、などを詳察すべきである。即ち、保護されるべきであると主張する成果等が公共の領域に属するものとして取り扱われ、これについてはこれ以上法的保護をしてはならない性質のものであるか、あるいはヌ目新設前の知識財産権関連の法律体系のもとでは保護を受けることができなかったが、「法律上保護する価値がある利益」として法的保護が与えられるべき性質のものかを究明して判断すべきである。 本件で債権者が「相当な投資又は労力により作成された成果等」として保護されるべきであると主張するものは、債権者の商標を商品の出所を表示する識別標識として使用してきたことと関連して債権者が積み重ねた信用と顧客吸引力であるといえる。従って、債務者の行為が不正競争防止法第2条1号ヌ目に該当するためには、債務者が、債権者の蓄積した信用と顧客吸引力を利用して債権者の「法律上保護する価値がある経済的利益」を侵害したか、さらに債務者の行為が「公正な商取引慣行や競争秩序」に反するかを詳察して判断すべきである。 しかし、大韓民国商標法と不正競争防止法の規定及び関連法理に鑑みると、競争者の無断商標使用行為によって「法律上保護する価値がある利益」が侵害されたと認められるためには、その商標が登録されていたり、国内に広く認識されていなければならないが、債権者の商標は登録されていたり、国内に広く認識されていると見られない、いわゆる公共領域に属しているものであって、債権者の「相当な投資又は労力により作成された成果」に該当すると見るのが難しいだけでなく、債務者がこれを無断で利用したとしても、債権者の「法律上保護する価値がある利益」が侵害されたと見られず、その利用行為が「公正な商取引慣行や競争秩序に反するものであると見ることもできない。従って、不正競争防止法第2条第1号ヌ目と関連した債権者の主張は受け入れられない。

    そして、不正競争防止法第2条第1号ヌ目に該当しない以上、民法上の不法行為に該当すると見ることもできない。

専門家からのアドバイス

不正競争防止法第2条第1号ヌ目の規定はまだ施行初期段階であり、その適用範囲をどのように定めるべきかに関しては、蓄積された判例が多くない状況であり、この問題を正面から取り扱った控訴審の判決も今のところないと見られるが、この判決は少なくとも「未登録文字商標」の場合に上記規定を適用できるかに関する基準を明確に説示した初の高等法院判決であるという点で意味がある。 この判決は、「未登録文字商標」の場合、不正競争防止法第2条第1号イ目で保護されないならばヌ目でも保護されないという趣旨を宣言したものと理解される。ただし、このような論理が全ての「未登録文字商標」に対して例外なく一般的に適用される性質のものであるか、文字商標以外の「商品の形態」などその他識別標識の場合にも同じ論理が適用されるか等に関しては、この判決では解決されておらず、今後より多くの判例の蓄積を待たざるを得ないと見られる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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