知財判例データベース 著作権法第99条第1項の「著作物の映像化」により許諾が推定される公演権の対象には映像に使われる音楽著作物も含まれると判断した事例

基本情報

区分
著作権
判断主体
大法院
当事者
原告、上告人:社団法人韓国音楽著作権協会 vs. 被告、被上告人:○○○株式会社
事件番号
2014ダ202110号
言い渡し日
2016年03月29日
事件の経過
確定

概要

487

音楽著作物を特別な変形なしに映像の著作物に使用することも「著作物の映像化」として、著作権法第99条第1項によって著作権者がそれに関する許諾をした場合、特約がない限りそれには映像の著作物を公開上映する形態の音楽著作物の公演権に関する利用許諾も含まれるものと推定され、当該映画のために創作された音楽著作物の場合、原告である音楽著作権協会がその著作者から著作財産権を信託されたとしてもその移転登録までは行っていない以上、著作権法第54条によって、上記著作者から少なくとも利用許諾を受けた映画製作者及び映画製作者から映画を供給されて上映した被告に対して著作財産権信託による譲渡をもって対抗できないと見た事例。

事実関係

原告は、文化体育観光部長官から著作権信託管理業の許可を受けて音楽著作物を必要とする利用者に音楽著作物の利用を著作権者の代わりに許諾し、利用者から使用料を徴収して当該著作権者に分配する業務などを行う非営利社団法人である。被告は、多数の映画上映館を運営すると共に映画上映をする会社である。原告が信託を受けて管理する音楽著作物を映画に利用しようとする者は、原告が準備した使用申請書様式に従って使用方法及び条件に関する事項を記載して使用承認を申請し、これに対して原告は使用承認書を発行する方式でその利用を許諾している。

被告が2011年6月頃から2012年3月14日頃までに上映した28編の映画には、当該映画のために新たに創作された音楽著作物として音楽著作者からそれに関する著作財産権の信託を受けて管理する原告から利用許諾を受けていない曲が含まれていた。この映画の映画製作者は音楽監督との間に、音楽監督は映画に使用される音楽を直接製作して映画製作者にその著作権を譲渡又は利用許諾をし、直接製作しなかった音楽については利用権限を獲得する等の役務業務を包括的に行い、映画製作者はそれに対する報酬を支払う内容の音楽監督契約を締結していた。

原告は、映画上映館で映画を上映することは全て著作権法上の公演に該当するので、被告は原告から上記のような音楽著作物の公演に対しては利用許諾を受けなければならないにもかかわらず、何らの利用許諾もなしに映画を上演したので、原告の公演権を侵害したものと主張した。これに対し、被告は、著作権法第99条第1項第2号によると、著作財産権者が著作物の映像化を他人に許諾した場合に特約がないときは、映像の著作物を公開上映できる権利を含み許諾したものと推定するところ、原告と映画製作者の間に上記条項と異なる別途の内容の特約がなかったため、結局、映画製作者が原告から音楽著作物を映画に使用することに対して受けた許諾には音楽を複製するだけでなく公演することも含まれているといえるので、被告は原告に別途の公演使用料を支払う義務がないと主張した。

原審(ソウル高等法院2013年12月19日言渡2013ナ2010916判決)は、先に本件映画と関連して音楽著作者の正当な複製の許諾があったと見て、原告敗訴の判断を下した。

判決内容

原審は、本件創作曲が当該映画に使用される目的で映画製作者又は音楽監督などの委託及び報酬の支払いによって新たに創作されたというその本質的特性に照らしてみれば、当該映画に本件創作曲を使用することに対する音楽著作者の許諾はあったものと見なければならないと判断した。原審判決理由を詳察すると、原審の判断は正当であり、そこに上告理由の主張のように本件創作曲に対する利用許諾と関連して採証法則に違反する等の違法はない。 また、原告である韓国音楽著作権協会が本件創作曲の著作者からそれに関する著作財産権の信託を受けたとしてもその移転登録までは行っていない以上、著作者から著作財産権を二重譲渡されたり、又は著作物の利用許諾を受けた映画製作者と映画製作者から映画を供給されて上映した被告に対して著作財産権信託による譲渡をもって対抗できないと判断した。また、記録を詳察しても映画製作者が本件創作曲の著作者の背任行為を誘導して助長し、著作権の譲渡や利用許諾を受けたと見るだけの事情が見られない。 著作権法第99条第1項は「著作財産権者が著作物の映像化を他人に許諾した場合に特約がないときは、公開上映を目的とする映像の著作物を公開上映する等の権利を含み許諾したものと推定する」と規定している。映像著作物の製作に関係した者の権利関係を適切に規律し、映像著作物の円滑な利用と流通を図ろうとするこの条項の趣旨及び規定内容などに照らしてみれば、ここでいう「映像化」には映画の主題曲や背景音楽のように音楽著作物を特別な変形なしに使用することも含まれ、これを必ず二次的著作物を作成したと制限解釈しなければならないわけではない。

専門家からのアドバイス

映画に使用される音楽は、製作段階で音楽監督と映画製作者間の契約により著作権処理が完了し、このような契約は映画の今後の利用行為、即ち公演・放送などを全て包括すると見るのが従来の一般的な理解であったと思われる。ところが、本件において韓国音楽著作権協会は、過去の大法院判例でカラオケ機器製作業者に対する利用許諾の効力がその機器を購入して営業するカラオケ営業者には及ばないと判断されたのと同じ脈絡[1]で(大法院1996年3月22日言渡95ド1288判決)、映画の製作段階で音楽著作物を複製して使用する行為を許諾したからといって、映画の上演段階における公演行為を許諾したものではないという主張を展開したのである。しかし、映像の著作物においては、映像の著作物特例規定によって著作物の映像化を許諾した場合、映画の本来の使用のための目的で行った著作物の利用は全て含み許諾したものと推定されるので(著作権法第99条第1項)、これと異なる前提に立った原告の主張は不当であるとした法院の判断は非常に頷けるものである。

一方、この判決には原作者と信託管理団体間の著作権移転登録に関する判断も含まれている。著作権移転登録をする場合、時間と費用が多少かかるが(現在オンライン登録には1件当り78,240ウォンのオフィシャルフィーが発生)、このような行政的負担のため信託管理団体は会員から著作財産権の信託を受けてもこれに関する移転登録は行わないのが慣例である。著作権の移転は登録しなければ第三者に対抗できないが(著作権法第54条)、この場合の第三者は、登録が存在しないということを主張できる正当な利益を有する第三者に限定されるというのがこれまでの判例である(大法院2002年11月26日言渡2002ド4849判決)。従って、無断複製者のような著作権を侵害する単純な不法行為者は、上記法条でいう「第三者」に該当しない。しかし、著作権信託管理団体に著作権を信託的に譲渡した後にも利用許諾を個人的に個別に行い二重譲渡する著作者が存在し得るが、その場合には、今回の判例によって侵害行為者に対して信託管理企業が著作権侵害を主張するためには、著作権を二重譲渡する背任行為であるという事実を知りながらこれに積極的に加担した第三者(いわゆる背信的悪意者)を除いては移転登録を経ずには効果的な侵害訴訟を行えない点が明らかになったわけである。よって多少行政的負担が生じても会員の個別の許諾などが特に問題となり得る領域では、著作権信託管理団体で移転登録を省略していたこれまでの慣行に変化が予想される。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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