知財判例データベース 発明に特有の解決手段の基礎となる技術思想の核心が同一であれば、均等な構成に該当するか否か
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 クック電子(特許権者)vs 被告 リホームチェン電子
- 事件番号
- 2015ホ4804権利範囲確認(特)
- 言い渡し日
- 2016年06月30日
- 事件の経過
- 未確定(大法院上告)
概要
496
確認対象発明において特許発明の請求の範囲に記載された構成のうち変更された部分がある場合にも、両発明における課題の解決原理が同一で、そのような変更によっても特許発明と実質的に同一の作用効果を奏し、そのような変更がその発明の属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、誰でも容易に考え出すことができる程度の場合には、特別な事情がない限り、確認対象発明は特許発明の請求の範囲に記載された構成と均等なものとして依然として特許発明の権利範囲に属する。ここで「両発明における課題の解決原理が同一」かどうかを判断する際には、請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に抽出するのではなく、明細書中の発明の説明の記載と出願当時の公知技術などを参酌して先行技術と対比してみたときに、特許発明に特有の解決手段の基礎となっている技術思想の核心が何かを実質的に探求して判断しなければならない。
事実関係
2015年3月3日に被告(リホームチェン電子)は、本件特許第878255号(発明の名称「安全装置が備えられた内釜蓋分離型電気圧力調理器」)の特許権者である原告(クック電子)を相手取り、確認対象発明は本件特許請求項1の権利範囲に属さないという趣旨で消極的権利範囲確認審判を請求した。特許審判院は、上記事件を2015ダン675号として審理した後、2015年7月14日に被告の上記審判請求を認容する本件審決を下し、原告はこれについて不服を申し立てて控訴を提起した。
判決内容
(図及び図面符号は両発明の容易な理解のために一部編集している)
- 同一の構成に該当するか否か
本件第1項の発明の構成要素4は「ロック枠(60)一方側にロッキング溝(62)が備えられる構成」であり、構成要素6は「内釜蓋(40)が本体蓋(30)と分離されたとき、ロッキング溝(62)にロックされてロック枠(60)の回転を阻止するロッキング手段(90)」であり、構成要素4、6は連動して作動することにより内釜蓋(40)が本体蓋(30)と分離された場合、ロッキング手段(90)がロッキング溝(62)に挿入されて右回り左回り両方向にロック枠の回転が阻止される。
内釜蓋(40)が本体蓋(30)から分離されている時には、弾性部材により下向きに付勢されたストッパ(91)がロック枠(60)のロッキング溝(62)に挿入されることにより、ロック枠(60)が回転できなくなる。これにより、ロック枠(60)と連結されている本体蓋(30)上部の開閉ハンドルも回すことができず電気圧力調理器の作動が不可能になる。
確認対象発明も、飛散防止板(70)が圧力蓋(60)と分離された場合、ロック枠(80)のロッキング突起(81)がストッパ(90)のロッキング段(91)に当接するようになることによって「アンロック位置」から「ロック位置」方向へロック枠(80)の回転が阻止されるようにロッキング突起(81)とロッキング段(91)が連動する構成を有している。ただ、確認対象発明では「ロッキング突起とロッキング段」の一方面にそれぞれ「傾斜面(81a)と傾斜溝(91a)」が付加されて飛散防止板(70)が圧力蓋(60)から分離された場合、「ロック位置」から「アンロック位置」方向へのみロック枠(80)の回転が可能である。
従って、確認対象発明は傾斜面(81a)と傾斜溝(91a)が付加されたロッキング突起とロッキング段の構成を有する点で構成要素4、6のロッキング溝とロッキング手段の構成とは異なる。
- 均等な構成に該当するか否か
- 課題解決原理の同一如何
本件特許発明の明細書には、本件特許発明の目的が「内釜蓋を衛生的に管理できるように内釜蓋を必要に応じて分離できる電気圧力調理器で、内釜蓋が分離された状態では調理器の作動がなされないようになることにより、不意の事故を未然に防止することができる安全装置が備えられた内釜蓋分離型電気圧力調理器を提供することにある」と記載されている。 このような明細書の記載と出願当時の公知技術などを総合してみれば、構成要素4、6と関連した本件第1項の発明に特有の解決手段が基づいている技術思想の核心は、本体蓋から分離可能に結合する内釜蓋が本体蓋から分離されたときにロック枠と内釜がロック結合される「ロック位置」にロック枠の回転を阻止して圧力調理器の作動がなされないようにすることにある。 ところが、確認対象発明も、飛散防止板(「内釜蓋」に相当)が圧力蓋(「本体蓋」に相当)と分離可能に結合し、飛散防止板が圧力蓋から分離されたときには「ロック位置」にロック枠の回転が阻止されて調理器の作動がなされないようになっている。
したがって、確認対象発明は上記のような構成の変更にもかかわらず、課題の解決手段が基づいている技術思想の核心が本件第1項の発明と差がないので、本件第1項の発明と確認対象発明は、構成要素4、6と関連して解決原理が同一である。
- 置換の可能性と置換の容易性について
構成要素4、6の「ロッキング溝とロッキング手段」及び確認対象発明の「ロッキング突起とロッキング段」はいずれも「当接した対応側壁により回転を阻止する方式」として通常の技術者に広く知られている周知慣用の技術として、このような変更によっても内釜蓋が分離されたときに「ロック位置」にロック枠の回転を阻止する同一の機能及び作用効果を奏する。また、上記のように周知慣用の技術を利用して構成を変更することは、通常の技術者に困難でないといえる。
したがって、確認対象発明は、本件第1項の発明と同一であるか均等な構成要素とその構成要素の間の有機的結合関係をそのまま含んでおり、本件第1項の発明の権利範囲に属するので、これと結論を異にした本件審決は違法である。
- 課題解決原理の同一如何
専門家からのアドバイス
大法院2014年7月24日付言渡2012フ1132の判決以前まで、従来の「課題解決原理の同一性」判断においては、確認対象発明と相違する特許発明の構成が特許発明の目的を達成するために必須であるかどうかだけを判断し、必須の場合、必須構成が相違するので、課題解決原理が相違すると判断していた。このような判断方式では、必須構成の一部が変更されてさえいれば、課題解決原理が相違するとされ、結果的に均等関係が認められる場合が非常に低かったのである。
上記大法院判決では、先行技術と対比してみるとき、特許発明に特有の解決手段が基づいている技術思想の核心を判断しなければならないと判示することによって、発明の実質を保護することができるようにした。最近、日本の知財高裁大合議判決(知財高裁言渡2016年3月25日 平成27年第10014号)においても、製造方法で出発物質と中間体が幾何異性体として相違する控訴発明に対して、訂正発明の本質は出発物質をエポキシ化合物と反応して中間体を形成し、その後還元剤で処理した2段階の工程を提案したものであって、出発物質と中間体がcis体であることは、本質的な部分に含まれないと判断した後、控訴発明で出発物質と中間体がtrans体であることは、本質的な部分ではないので、均等要件を満すと判断したことも類似の趣旨と理解される。
本件特許発明の目的は、内部蓋が分離された場合には、調理がされないようにするものなので、本体蓋でロック枠が「ロック位置」- 即ち、調理が可能な位置-にならないことが核心であるといえるが、特許審判院では請求の範囲の解釈上、特許発明の保護範囲は双方向回転ができないようにしている反面、確認対象発明は一方方向(ロック位置になる側)への回転のみ防止されるようになっているため、確認対象発明の権利範囲がさらに広いと判断して権利範囲に属さないと結論づけた。
しかし、実質的に確認対象発明は、特許発明の構成(ロッキング溝とロッキング手段)に傾斜面と傾斜溝を追加して発明の核心とは関係がない機能を一つ追加したものに過ぎないと考えられ、本件のように技術思想の核心に立ち戻って審決破棄という判断を下した本判決は、均等論の本質を維持しようとするものとして大いに頷けるものであり、今後は、法院での判断を待たずとも、特許審判院の段階から、均等要件の判断においては「特許発明の技術思想の核心」に立ち返った考察が定着することを期待したい。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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