知財判例データベース 著作権法違反行為を幇助するウェブサイトに対して不法情報の流通禁止条項を適用し、ウェブサイト全体に対する接続遮断の是正要求をした行政処分が適法かどうか

基本情報

区分
著作権
判断主体
ソウル行政法院
当事者
原告(A社)vs. 被告(放送通信審議委員会)
事件番号
2015グ合3461号
言い渡し日
2016年01月28日
事件の経過
控訴審係属中

概要

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情報通信網法第44条の7(不法情報の流通禁止)は「その他に犯罪を目的とし、若しくは教唆又は幇助する内容の情報」を不法情報の一種として流通を禁止しているところ、これは厳格に解釈する必要があるもので、他人の犯罪を容易にする内容を含んでいる情報であって、この著作権法違反行為などの犯罪を幇助する行為自体を意味するものではないと解釈される。また、アップロードされた音楽、写真などのファイルを他の利用者が検索したあとダウンロードする、いわゆる検索型サイトである本件ウェブサイト全体に対する接続遮断の是正要求をした本件処分は比例原則に違反して違法である。

事実関係

原告は外国に住所をおいて○○ウェブサイトを運営している会社であるが、本件ウェブサイトは会員加入した利用者がこれを通してアップロードした音楽、写真などのファイルを他の利用者が本件ウェブサイトで検索したあとダウンロードする方式の、別途の掲示板などが併設されていない検索型サイトである。文化体育観光部長官は2014年7月15日、被告の放送通信審議委員会(以下「被告委員会」)に本件ウェブサイトが国内外のテレビ番組、映画、音楽、ゲームなどのコンテンツを不法に複製、伝送して著作権を侵害しまたは幇助しているという理由で是正措置を要請した。被告委員会は本件ウェブサイトの情報を審議したあと、2014年10月16日に株式会社KTなど9か所のネットワーク事業者に対して接続遮断の是正要求をした。これに対し原告は本件接続遮断の是正要求処分の取消しを求める行政訴訟を提起した。

[参考:関連条文]
情報通信網利用促進及び情報保護などに関する法律第44条の7(不法情報の流通禁止等)

  1. 何人も情報通信網を通じて次の各号のいずれかに該当する情報を流通してはならない。
    1. わいせつな符号・文言・音響・画像または映像を配布・販売・貸渡し、又は公然展示する内容の情報
    2. 人を誹謗する目的で公然に事実や偽りの事実を明らかにし他人の名誉を毀損する内容の情報
    3. 恐怖心や不安感を誘発する符号・文言・音響・画像又は映像を反復的に相手側に到達させる内容の情報
    4. 正当な事由なしに情報通信システム、データ又はプログラムなどを毀損・滅失・変更・偽造し、又はその運用を妨害する内容の情報
    5. 「青少年保護法」による青少年有害媒体物として相手側の年齢確認、表示義務など法令による義務を履行せずに営利目的で提供する内容の情報
    6. 法令により禁止される射幸行為に該当する内容の情報
    7. 法令により分類された秘密など国家機密を漏洩する内容の情報
    8. 「国家保安法」で禁止する行為を遂行する内容の情報
    9. その他に犯罪を目的とし、又は教唆若しくは幇助する内容の情報
  2. 放送通信委員会は第1項第1号から第6号までの情報については審議委員会の審議を経て、情報通信サービス提供者又は掲示板管理・運営者をしてその取扱いを拒否・停止又は制限するよう命じることができる。ただし、第1項第2号及び第3号による情報の場合には、当該情報によって被害を受けた者が具体的に明らかにした意思に反してその取扱いの拒否・停止又は制限を命じることができない。
  3. 放送通信委員会は第1項第7号から第9号までの情報が次の各号のいずれにも該当する場合には、情報通信サービス提供者又は掲示板管理・運営者に当該情報の取扱いを拒否・停止又は制限するよう命じなければならない。
    1. 関係中央行政機関の長の要請があったこと
    2. 第1号の要請を受けた日から7日以内に審議委員会の審議を経たあと「放送通信委員会の設置及び運営に関する法律」第21条第4号による是正要求をしたこと
    3. 情報通信サービス提供者又は掲示板管理・運営者が是正要求に従わなかったこと
  4. 放送通信委員会は第2項及び第3項による命令の対象となる情報通信サービス提供者、掲示板管理・運営者又は該当利用者にあらかじめ意見提出の機会を与えなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合には意見提出の機会を与えないことがあり得る。
    1. 公共の安全又は福利のために緊急に処分する必要がある場合
    2. 意見聴取が明らかに困難であり又は明らかに不要な場合であって、大統領令で定める場合
    3. 意見提出の機会を放棄する意思を明確に示した場合

判決内容

ソウル行政法院は次のように判断した。

表現の自由を萎縮させないように明確ながらも真正な不穏通信を効果的に規制することができるように立法することは容易なことではない。しかし規制対象が多岐多様であるとしても、個別化・類型化を通した明確性の追求をあきらめてはならず、やむを得ない場合国家は表現規制の過剰よりはむしろ規制の不足を選択しなければならないはずである。害悪が明確に検証されたものではない表現を規制することは得より損失が大きいとみるのが表現の自由の本質であるためである(憲法裁判所2002年6月27日言渡99憲マ480決定参照)。旧電気通信事業法第53条に対する上記の憲法裁判所の違憲決定の趣旨およびそれに伴い改正された電気通信事業法が禁止対象を不穏通信から現行法上の不法情報に限定して規定した趣旨などを考慮すれば、情報通信網法第44条の7第1項第9号を厳格に解釈する必要がある。ところが、本件ウェブサイトは直接犯罪の目的で開設されたとはみがたいので、情報通信網法第44条7第1項第9号の「犯罪を目的とする内容の情報」とはみられず、また「犯罪を幇助する内容の情報」に該当するものとしては、犯罪の手段や方法または犯罪に至る過程や結果を具体的に描写して犯罪を助長するおそれがある情報などを挙げることができるが、特定ウェブサイトが著作権法違反を幇助しているからといって、そのウェブサイトを犯罪を幇助する内容の情報ということはできない。本件ウェブサイトは利用者がアップロードした情報を他の利用者が検索してダウンロードする方式の構造と運営体系を有しているだけで、著作権法違反など犯罪を幇助する内容を含んでいるとはみがたいためである。

かりに著作権法違反行為を幇助するウェブサイトに対して情報通信網法第44条の7第1項第9号を適用できるとしても、特定ウェブサイト全体に対する接続遮断は当該ウェブサイトをインターネット上で閉鎖させる結果を招くため、表現の自由を侵害するおそれがある。したがって原則的にウェブサイト内に存在する個別情報全体が情報通信網法第44条の7第1項第9号の不法情報に該当しなければならないが、ウェブサイト内に存在する個別情報のうち一部がこれに該当するとしても、当該ウェブサイトの製作意図、ウェブサイト運営者と掲示物作成者との関係、ウェブサイトの体系、掲示物の内容および掲示物のなかで違法な情報が占める割合など諸般の事情を考慮して全体ウェブサイトに対する接続遮断が不回避な場合には例外的に該当ウェブサイトに対する接続遮断の是正要求をできる(大法院2015年3月26日言渡2012226432判決参照)。ところが、本件ウェブサイトは会員加入した利用者が本件ウェブサイトを通してアップロードした音楽、写真などのファイルを他の利用者が本件ウェブサイトで検索したあとダウンロードする方式で、別途の掲示板がない検索型サイトであり、性売買斡旋サイトや麻薬取引サイトのようなサイトの開設自体が犯罪に該当するケースとはみがたく、本件ウェブサイトの開設目的が著作権侵害ファイルの不法共有など犯罪目的であるともみがたい。本件ウェブサイト内に存在する個別情報のうち一部が著作権法に違反する情報とはみられるものの、本件ウェブサイトの開設目的が著作権侵害ファイルを不法共有することとはみられない点、掲示物作成者がウェブサイト運営者と同一人ではなくその下部機関でもない点、ウェブサイト内の情報の大部分が違法な情報とは断定しがたい点などを総合してみるとき、本件ウェブサイト全体が情報通信網法第44条の7第1項第9号に違反する情報とは判断できない。併せて、本件ウェブサイトは著作権侵害資料の申告を受けてその資料を削除する等の措置をとっており、個別ファイルに対しURLが付与されていて、著作権に違反したファイルに対しては当該URLへの接続を遮断する方法で個別情報に対する接続遮断が可能なものとみられる。したがって本件全体に対する接続遮断は比例原則に違反して裁量権を逸脱・濫用したものである。

専門家からのアドバイス

文化体育観光部長官は、著作権法に基づき、情報通信網を通じて著作権を侵害する複製物または情報が伝送される場合にオンラインサービス提供者に当該情報の削除または伝送中断の措置を命ずることができ、上記命令が3回以上出された掲示板で、当該掲示板が著作権利用秩序を著しく毀損すると判断される場合には、オンラインサービス提供者に6か月以内の期間を定めて当該掲示板のサービスの全部または一部の停止を命じることができる(著作権法第133条の2)。しかし、外国のオンラインサービス事業者には著作権法第133条の2に基づく個別的な行政措置が実効性を持ち難いため、外国の著作権侵害サイトに対しては情報通信網法第44条の7第1項第9号の「犯罪を目的とし、若しくは教唆又は幇助する内容の情報」を流通するものとみなし、文化体育観光部長官が放送通信委員会に、国内のネットワーク事業者をしてこれらウェブサイトへの接続を遮断させるよう要請をしてきている。

本判決は、このような行政措置の適法性に対し根本的な疑問を提起するものである。特にこれまでにも多く問題になったように、著作権侵害物を一目瞭然に目録化して提示し、その違法性や弊害が明白なサイトではなく、本件のように著作権侵害物が多数存在することは明らかではあるものの、侵害物と非侵害物の割合などを数量化して提示することが困難な検索型サイトに対する法的判断はそれほど容易ではないものとみられる。本件は控訴審係属中であり、今後実際のサイトの運営実態などについてより具体的な判断が行われるものと見られるが、それらの帰結が非常に注目される事例である。

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