知財判例データベース エルメスバッグの写真をそのままプリントしたポリエステル布地で制作されたフェイクバッグは不正競争防止法違反
基本情報
- 区分
- 不正競争
- 判断主体
- ソウル高等法院
- 当事者
- 原告 エルメスアンテルナショナル v. 被告 シンサ物産株式会社
- 事件番号
- 2015ナ2012671
- 言い渡し日
- 2016年01月28日
- 事件の経過
- 確定
概要
489
世界的に有名なブランドバッグを製造・販売する会社である原告は、原告のブランドバッグを撮影してそのまま精巧にポリエステル織物地にプリントして製作されたフェイクバッグ製品を廉価で販売する被告に対して不正競争行為の中止を求め、一審法院および二審法院とも被告の行為が不正競争防止および営業秘密保護に関する法律(以下「不正競争防止法」)第2条第1号(ヌ)目所定の不正競争行為に該当すると判断した。
[注記]
[1]原告は控訴審で(イ)目(著名標識を使用することにより他人の商品と混同を生じさせる、いわゆる商品主体混同行為)に対する主張は撤回した。
[2]第2条(定義)この法律で使用する用語の意味は、次の通りである。
1. 「不正競争行為」とは、次の各目のいずれかに該当する行為をいう。
ハ. イ目又はロ目の混同を生じさせる行為のほか、非商業的使用等大統領令で定める正当な事由がないのに、国内に広く認識されている他人の氏名、商号、商標、商品の容器・包装、その他の他人の商品若しくは営業であることを表示した標識と同一若しくは類似のものを使用し、又はこのようなものを使用した商品を販売・頒布若しくは輸入・輸出して、他人の標識の識別力又は名声を害する行為
[3]第2条(定義)この法律で使用する用語の意味は、次の通りである。
1. 「不正競争行為」とは、次の各目のいずれかに該当する行為をいう。
ヌ. その他他人の相当な投資又は労力により作成された成果等を公正な商取引慣行又は競争秩序に反する方法により自身の営業のために無断で使用することにより、他人の経済的利益を侵害する行為
[4]ジェトロソウル知的財産チームの判例データベースに収録済み
事実関係
原告が製造・販売する「バーキンバッグ」、「ケリーバッグ」など(以下「原告バッグ」)は、革を素材とする、消費者価格が1,000万ウォンを超える高価のブランドバッグであるが、被告は原告のこのようなバッグを写実的に撮影した後、その写真を精巧にプリントしたポリエステル織物地を利用して生産したバッグ(以下「被告バッグ」)を約20万ウォンで販売した。原告はこのような被告を相手取って不正競争防止法第2条第1号(イ)目[1]、(ハ)目および(ヌ)目を根拠に不正競争行為の中止と損害賠償を求める訴訟を提起し、一審で法院は被告の行為は不正競争防止法第2条第1号(ヌ)目に該当するとして、被告に被告バッグの製造・販売等の中止および原告への損害賠償金5,000万ウォンの支払いを命じた。被告はこの一審法院の判断を不服として控訴した。
判決内容
原告のバーキンバッグ、ケリーバッグの写真をプリントした商品を製造・販売する行為が不正競争防止法第2条第1号(ハ)目[2]に該当するか否か
不正競争防止法第2条第1号(ハ)目における「国内に広く認識されている」という用語は、「著名な程度」に至ったことを意味すると解釈しなければならず、ある商品の形態が「著名な程度」に至るためにはその商品の形態が異なる類似商品と比較して、需要者の感覚に強く訴える独特のデザイン的特徴を有している等、一般需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを認識することができる程度の識別力を備えていなければならず、さらにその商品の形態が長期間にわたって特定の営業主体の商品として継続的・独占的・排他的に使用されてきたか、または短期間でも強力な宣伝・広告がされることによってその商品形態が持つ差別的特徴が一般公衆の大部分にまで特定出所の商品であることを連想させるほど顕著に個別化された程度に至らなければならない。
これに照らして、原告のバーキンバッグ、ケリーバッグの形状が原告の商品に対する出所表示として著名な程度に至ったかをみると、同製品らは非常に高価な製品で生産量も多くなく、一般公衆が容易に接したり購入できるものではない点で、バーキンバッグ、ケリーバッグの形態が持つ差別的特徴が関係取引者以外の一般公衆の大部分にまで特定出所の商品であることを連想させるほど顕著に個別化されるに至ったと、すなわち著名性を取得したとみるには無理があるため、被告の被告バッグの製造・販売行為が不正競争防止法第2条第1項(ハ)目に該当するという原告の主張は受け入れることができない。
- 原告バッグの写真をプリントした商品を製造・販売する行為が不正競争防止法第2条第1号(ヌ)目に該当するか否か
- 不正競争防止法第2条第1号(ヌ)目[3]の法理
不正競争防止法第2条第1号(ヌ)目が定める不正競争行為に該当するかの判断においては、(1)保護されるべきであると主張する成果などが「相当な投資又は労力」により作成されたかどうか、(2)侵害されたという経済的利益が「法律上保護する価値がある利益」に該当するとみることができるかどうか、(3)このような侵害が「公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法」と判断される競争者の行為に起因するかどうかを注意深くみなければならない。 - 原告バッグの形態が「相当な投資又は労力」により作成されたかどうか
アメリカの女優からモナコ王妃となったグレース・ケリーと、イギリスのモデル兼女優であったジェーン・バーキンが使い始めたことでそれぞれ広く知られるようになった原告バッグは、韓国では1997年から直営店を通じて販売されはじめ、2000年から2007年までの国内売上額が約610億ウォンにのぼり、2000年から2006年までに支出した国内広告費総額は約2億5千万ウォンである。これを総合してみれば、原告バッグの形態は原告の相当な投資や労力により作成された成果などに該当する。 - 原告バッグの形態が法律上保護する価値がある利益に該当するかどうか
原告バッグはそれぞれ、その形態によってその商品と特定され、需要者の購買欲求を刺激する当該商品のみの名声とイメージが商品の形態に化体されており、商品の形態が財産的価値を形成する核心的な要素になることから、これに対して法的保護が与えられなければならない。 - 原告バッグの形態をそのままプリントして利用することが「公正な商取引慣行又は競争秩序に反する方法」に該当するかどうか
原告バッグの形態が持つ独特のデザイン的特徴をそのままプリントした被告バッグは、一般的なポリエステル素材からなるバッグに比べれば高価な18~20万ウォンで販売されているが、このような価格は独特のデザイン的特徴を有する原告バッグの形態をそのまま利用したことに起因するものとみられるところ、原告バッグの外形がそのまま反映されたハンドバッグを非常に安く購入できるという点が話題となって被告バッグは消費者の間で人気を博し、被告もまたこのような点を広報に活用した。このような被告の行為は、原告が相当な労力と投資により作成した成果物から得るべき経済的利益を、その成果物の構築と関連していかなる投資もせず労力も投じなかった被告がかすめ取る行為といえ、これは公正な商取引慣行や競争秩序に反する不正な行為といえる。 - 被告の行為がその他の法律によって規制することができない新たな類型の「不正な競争行為」といえるかどうか
被告バッグの場合プリント技法を動員して製造され、原告バッグの特徴がそのまま表現されてはいるものの、平面的にプリントされているという限界があり、素材もポリエステルという点で原告バッグとは販売当時はもちろん、販売以後も誤認・混同を生じさせるとはみがたいため、不正競争防止法第2条第1号(イ)目の商品主体混同行為規定により規制することは難しい。また、原告バッグの形態についてデザイン登録を受けたしても、被告バッグはその審美感が類似するとはみがたく、デザイン権によっても規制することは困難であり、また、著作権法第2条第15号で規定する「応用美術著作物」としての保護可能性を考えてみることもできるものの、原告バッグの形態からその利用された物品と切り離して独自性を認めることができる著作物を抽出することは容易ではないため、著作権による規制も難しいと判断される。
しかし、原告バッグの形態の経済的価値に照らしてみるとき、知識財産権それぞれの特有の要件を満たすことができず、これらの権利によって保護を受けることが難しいのは、単なる法的保護の空白と見られるだけで、韓国の全体的法体系において原告バッグの形態を公共領域に属するものと扱ってその法的保護を拒否しているとも解釈されず、被告の行為は原告が相当な労力と投資によって構築した成果物の経済的価値にフリーライドする行為であるにもかかわらず既存の知識財産権体系によっては適切に規制されない、新たな類型の「不正な競争行為」ということができる。
- 不正競争防止法第2条第1号(ヌ)目[3]の法理
- 結論
被告が原告バッグの形態をポリエステルの布地にそのままプリントしたものを利用して被告バッグを製造・販売する行為は、不正競争防止法第2条第1号(ヌ)目の不正競争行為に該当する。
専門家からのアドバイス
不正競争行為に関する一般条項である不正競争防止法第2条第1号(ヌ)目が新設された2014年1月31日以降、本件の原審であるソウル地方法院2015年1月29日言渡2014ガ合552520判決[4]を含め、多くの地方法院判決が同条項の適用範囲に関して食い違う判断を下し、その当否に対する意見が入り乱れていたが、関連判例が少しずつ蓄積され、ある程度の方向性が示されつつある。
今回のソウル高等法院の判例は「(ヌ)目の立法目的は既存の法律によっては規制できない新たな類型の行為、つまり立法的な空白を埋めるためのものである」という趣旨のソウル高等法院2015ラ20710決定と同じ前提に立ったもので、被告の行為がその他の法律によって規制することができない新たな類型の行為に該当するという点を考慮して(ヌ)目を適用できると、一審判決にはなかった新たな判示を行った点で非常に意味がある。ただし、今のところは不正競争防止法第2条第1号(ヌ)目の適用について直接的に判断した二審判決や決定が前出の2つのみであるという点で、この判断が異なる事件でもそのまま適用されることが確実とは言い切れず、さらに多くの判例の蓄積が必要と判断される。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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