知財判例データベース あんぱん売場の形態および外観、内部デザイン、装飾、表示板など「営業の総合的イメージ」を模倣した行為が不正競争防止法第2条第1号ヌ目に該当するかどうか
基本情報
- 区分
- 不正競争
- 判断主体
- ソウル高等法院
- 当事者
- 原告 株式会社スローフードコリア v. 被告 個人(AおよびB)
- 事件番号
- 2015ナ2044777
- 言い渡し日
- 2016年05月12日
- 事件の経過
- 確定前
概要
492
「ソウル恋人 あんぱん」というあんぱん店を運営している原告は、自身の店舗の特徴をそのまま模倣して「ヌイ あんぱん」というあんぱん店を運営する被告に対して不正競争行為の差止めを請求したところ、「営業の総合的イメージ」をトレードドレスとして不正競争防止法第2条第1号ヌ目所定の不正競争行為に該当すると判断すると共に、デザイン登録することができた一部の「営業の総合的イメージ」についてデザイン登録をしていなかったとしても、上記ヌ目を適用できると判示した。
事実関係
原告はソウル駅などで「ソウル恋人 あんぱん」という商号であんぱん店を運営している者で、被告Aは原告会社に製パン技能士として入社したものの退社した後、被告Bとともに地下鉄の市庁駅構内[1]で「ヌイエ あんぱん」という商号であんぱん店を運営したが、被告Bは被告Aとの共同経営関係を解消し、「ヌイ あんぱん」に商号を変更して営業する者である。原告は被告A・Bを相手取り、被告A・Bの店舗で原告店舗の標章、看板の形状、売り場の配置およびデザインを模倣したものを使用する行為は不正競争防止法第2条第1号ヌ目所定の一般的不正競争行為に該当するとして、その差止めおよび損害賠償金1億ウォンの支払いを求める訴訟をソウル中央地方法院に提起した。一審で法院は被告A・Bの行為は不正競争防止法第2条第1号ヌ目に該当するとして原告の損害賠償請求は認めたものの、原告が予防的に使用差止めを求めた被告A・Bの店舗の特徴はすでに使用されていない点を考慮し、これに対する原告の請求は排斥した。これに対し原告と被告双方が控訴した。
判決内容
原告は一審で上表中の標章についてのみ使用差止めを求めたが、被告は当時、当該標章らの使用はすべて中止し、以下のような標章を使用していたところ、原告は二審で同標章に対する使用差止め請求も追加した。
- トレードドレスが不正競争防止法第2条第1号ヌ目で規定する「当該事業者の相当な投資または労力により作成された成果物」に該当するといえるか
不正競争防止法第2条第1号ヌ目は、インターネットおよびデジタルに代表される新しい技術の発達によって企業の開発成果物が様々な形態で表されており、そのような開発努力に対してこれを法的に保護する必要があるにもかかわらず、他人がその成果物を自身の経済的利益のために盗用することは非常に簡単な一方で、特許法、実用新案法、商標法、デザイン保護法、著作権法のような既存の知識財産権法はもちろん、不正競争行為を具体的に限定して列挙する列挙主義方式をとっていたこれまでの不正競争防止法条項ではその保護が不可能という状況がしばしば発生したことにより、新しい類型の不正競争行為に対する不正競争防止法の包括範囲を拡大するために従来の限定的・列挙的方式に制限されていた不正競争行為に対する補充的一般条項として不正競争防止法に新設されたものである。
このような不正競争防止法の改正理由などに照らしてみるとき、不正競争防止法第2条第1号ヌ目の保護対象である「他人の相当な投資または労力により作成された成果物」には新しい技術のような技術的成果の他にも、特定の営業を構成する営業所建物の形態や外観、内部デザイン、装飾、表示板など「営業の総合的イメージ」の場合、その個別要素は不正競争防止法第2条第1号イ~リ)目をはじめとしてデザイン保護法、商標法などの知識財産権関連法律の個別規定によっては保護を受けられないとしても、その個別要素の全体あるいは結合したイメージは、特別な事情がない限り不正競争防止法第2条第1号ヌ目が規定している「当該事業者の相当な投資または労力により作成された成果物」に該当するとみることができる。
- 原告店舗の看板、内部インテリアなどを含む原告営業の総合的イメージが原告の相当な投資または労力により作成された成果物に該当するか
商品企画のために数回日本を訪れて食品店舗の品目、インテリア、各種広報物デザインなどを調査した事実、製品開発のために製菓製パン学校で技術を習得した点、デザイン会社数カ所に店舗の標章およびデザインなどの開発を依頼した点、細部的な企画をした点、デザイン専門会社と広告物製作業務契約を結び、標章、看板、店舗配置およびデザインを使用した原告店舗を改装したという事実などをみるとき、原告の店舗は相当な投資または労力により作成された成果物に該当するとみるのが相当である。 - 被告らの行為が原告の成果物を違法かつ無断で使用したものかどうか
原告店舗の標章などに対応する被告店舗の標章などがその形状や配置形態などにおいて原告店舗のそれと類似する点、被告Aが原告会社を退社後、わずか4カ月ほど後に被告Bと被告店舗を改装して営業を開始した点、その過程で被告Aは原告店舗の構造、インテリア、各種広報物等の写真を無断撮影していた点、販売製品や立地条件等において特色が同じである等、全体的な店舗のコンセプトが非常に類似する点、一般消費者の間でも被告店舗が原告店舗の支店であるという誤認もあった点などを考慮すれば、被告がこのように被告店舗を運営することは、原告が成し遂げた成果を公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で被告らの営業のために無断で使用した行為に該当するといえる。 - 被告が原告の成果物を無断で使用することにより原告の経済的利益を侵害したかどうか
原告店舗の共通的な特徴である標章、看板、売り場の配置およびデザインは、それ全体として原告の営業または原告店舗のみの独特の雰囲気を形成し、原告の営業または店舗を他の店舗らと差別化したという点、原告は開店からわずか5カ月で一日平均7,000個以上を売り上げる実績を上げた点、原告の営業または原告店舗が各種インターネット新聞等で数回にわたって報道され、ブログなどでも広く紹介されることにより消費者に比較的広く知られたとみられる点、実際に一般消費者も被告店舗を原告店舗の支店と誤認する等、原告店舗と被告店舗の違いを明確に区別できないケースもあるという事情までを踏まえてみると、被告は原告店舗だけの上記のような独特の雰囲気を模倣して原告と同種の営業であるあんぱんの販売営業をすることにより、原告の相当な投資と労力にフリーライドして原告店舗イメージが有する顧客吸引力を自身の営業のために無断で使用し、原告のあんぱん販売営業と関連した経済的利益を侵害したとみるのが妥当である。 - 原告店舗の特徴のうちインテリア要素はデザイン保護法により保護されるべき部分であるが、不正競争防止法による請求が認められることができるか
不正競争防止法第15条第1項は、特許法、実用新案法、デザイン保護法または商標法に第2条から第6条までおよび第18条第3項と別段の規定があるときはその法律によると規定しているところ、上記規定の趣旨は、互いに密接な関係にありながらも具体的な立法目的と規律方法を異にするために相互間に抵触・衝突の可能性があるデザイン保護法等と不正競争防止法の関係を明確にすることで、このような抵触・衝突に備えるということであるため、デザイン保護法などの他の法律によって保護される権利であっても、その法に抵触しない範囲内であれば不正競争防止法を適用できる。ところがデザイン保護と関連して、不正競争防止法は第2条第1号イ目の商品主体混同行為に関する規定と第2条第1号リ目の他人の商品形態模倣行為に関する規定をおいているだけでなく、前述のとおり不正競争防止法第2条第1号ヌ目の成果盗用行為を規定しており、そこで規定している不正競争行為はデザイン権侵害行為とは異なるため必ずしも登録されたデザインと同一または類似のデザインを使用することを要するものではないことから、デザイン登録の有無に関わらず他人の相当な投資または労力により作成された成果などを公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で自身の営業のために無断で使用することにより他人の経済的利益を侵害する行為も上記ヌ目に含まれるといえる。
したがって、仮に原告店舗のイメージのうち内部インテリア部分にデザイン保護法で規定しているデザイン的要素が含まれていて、原告がこれに対しデザイン登録をしていなかったとしても、上でみたとおり被告が内部インテリアを含んだ「営業の総合的イメージ」として原告の相当な投資または労力により作成された成果などを公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で自身の営業のために無断で使用することにより原告の経済的利益を侵害した以上、ヌ目を適用できるとみるのが妥当である。
したがって、被告が原告店舗イメージを模倣するなどして被告店舗を運営した行為は、競争関係にある原告の相当な投資または労力により作成された成果などを公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で自身の営業のために無断で使用することにより原告の経済的利益を侵害する行為であり、不正競争防止法第2条第1号ヌ目所定の不正競争行為に該当する。
専門家からのアドバイス
この判決は、未登録文字商標(ソウル高等法院2015ラ20710決定)および製品デザイン(ソウル高等法院2015ナ2012671判決)に続き、特定営業を構成する営業所建物の形態および外観、内部デザイン、装飾、表示板など「営業の総合的イメージ」、すなわち「トレードドレス」に関して不正競争防止法第2条第1号ヌ目が適用されるか否かについて判断した二審判決として大きな意味がある。さらにこれら2つの判決では、他の法律で規制することができない新たな類型の行為に対してのみヌ目を適用できるかのように判示し、ヌ目の適用範囲が相対的に狭いと解釈される余地もあったが、今回の判決では「権利を主張している要素にデザイン的要素が含まれていて、これに関してデザイン登録を受けなかったとしても、これを含んだ権利を主張する要素全体が相当な投資または労力により作成された成果物である『営業の総合的イメージ』に該当し、これを公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で自身の営業のために無断で使用することにより経済的利益を侵害した以上、ヌ目を適用できる」と明確に示しており、ヌ目をより柔軟に適用できるように判示したという点で大きく注目される判例とみられ、今後のヌ目の適用可否において重要な参考判例になると予想される。
注記
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原告と被告A・Bの店舗は電車でひと駅ほどの距離である。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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