知財判例データベース エルメスの「ケリーバッグ」、「バーキンバッグ」のフェイクバックの販売行為が不正競争行為に該当するかどうか
基本情報
- 区分
- 不正競争
- 判断主体
- ソウル中央地方法院
- 当事者
- 原告エルメスアンテルナショナル、エルメスコリア有限会社 vs. 被告株式会社ソワユナイテッド
- 事件番号
- 2014ガ合552520
- 言い渡し日
- 2015年01月29日
- 事件の経過
- 未確定(控訴中)
概要
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高価な有名カバン製品を撮影し、これを極めて写実的にプリントした布地で作ったフェイクバック製品を非常に低廉な価格で販売する行為は、不正競争行為に該当し、購買時に商品出所の誤認・混同のおそれはない低廉な摸造カバンの販売行為は、2014年1月31日に施行された不正競争防止及び営業秘密に関する法律(以下「不正競争防止法」)第2条1号ヌ目の一般不正行為に該当する。
事実関係
原告の代表的商品中の一つである、いわゆるバーキンバッグ(1984年に英国のモデル兼俳優だったジェーン・バーキンのために製作され、バーキンバッグとして知られる)及びケリーバッグ(1956年にモナコ王妃になった俳優グレース・ケリーが使用した写真が雑誌に載ることにより、ケリーバッグとして広く知られる)は、韓国内で原告の製品として広く認識されており、その価格はいずれも1000万ウォン以上という高価である。被告は原告のカバンを撮影し、これを極めて写実的にプリント[1]した布地でほぼ同サイズのフェイクバックと言われる被告製品を生産して20万ウォン程度で販売したところ、原告は被告を相手取って不正競争行為差止請求訴訟を提起するに至った。
判決内容
- 「他人の相当な投資又は労力により作成された成果」に該当するかどうか
原告エルメスは、全世界200余りの直営店とその他販売網を通じてバーキンバッグ、ケリーバッグ等を販売しており、韓国でも原告エルメスコリアを通じて1997年から各デパートに直営店を設けて上記製品を販売しており、原告らの2000年から2007年3月までの国内売上高は約610億ウォンに至る。また、ハンドバッグのような商品は形状、色彩またはこれらが結合して示される視覚的美しさと商品を製作、販売する者が有している商標価値、イメージ等が主要な購買動機になって、特に少量のみ製作されて少数の消費者が購入する高価なブランドのハンドバッグの場合、その形状、色彩等を含めた該当商品の形態が広く広告、宣伝されるので、その商品形態がその商品を他の商品と区別させる独特の個性を付与する手段として使用され、商品の出所表示機能を獲得する場合が多い。
これを総合してみれば、原告のバーキンバッグ、ケリーバッグはHERMESという商号または商標で広く知られている原告エルメスが数十年間、生産、販売してきたハンドバッグであって、その使用期間、方法、態様、使用量等の取引実情及び社会通念に鑑み、原告らによって長期間、継続的、独占的、排他的に使用されてきただけでなく、持続的な宣伝、広告等によって、それが有する差別的特徴が取引者または一般需要者に原告エルメスの商品であることを連想させる程度に顕著に個別化されることによって、商品の出所表示機能を有するようになるに至ったと見るのが相当である。そうであれば、原告のケリーバッグ、バーキンバッグの商品形態は、原告らの相当な投資や労力により作成された成果物に該当するといえる。
これに対して被告は、原告製品の形態は一般にハンドバッグによく使用される形態であると主張するが、不正競争防止法第2条1号ヌ目[2]によって保護される商品の形態が必ずしも新規のものであることを要さず、類似のデザインを有する多数の製品中、原告らの製品以上の名声とイメージを獲得した製品はないと見られ、被告製品で本需要者は原告製品を思い浮かべると見られるので、被告の主張は理由がない。
- 「公正な商取引慣行又は競争秩序に反する方法」に該当するかどうか
被告製品は、原告製品を撮影し、これをポリエステル素材の布地に極めて写実的にプリントした製品であるので、革製品である原告製品とは素材が異なるとしても、被告製品を遠くから肉眼で見る場合、原告製品と容易に区別が難しい。従って、被告製品を購買する際には商品の出所に対する誤認、混同の可能性がなく、直接触ってみるなどして分かる差により原告製品と区別が可能であるとしても、原告製品の形状をそのまま撮影し、これをプリントした製品を生産、販売したことは、公正な商取引慣行又は競争秩序に反する方法であるといわざるを得ない。 - 「他人の経済的利益の侵害」
被告製品は約20万ウォンで販売されているが、その素材に比べて比較的高価な理由は、原告製品であるかのような感じを与えたり錯覚させるという要素が作用したところが相当あると見られ、被告製品は、原告製品の外形がそのまま反映された低廉な製品であるという点が話題になって消費者の人気を博すようになり、被告もこの点を製品広報に活用したところ、これは原告製品の形態だけでなく、原告エルメスの名声、イメージ、顧客吸引力等に便乗する行為である。
また、被告製品の販売によって原告製品の販売量が減少しなくては、原告らの利益が侵害されたといえないわけでは必ずしもなく、被告が無断で被告製品を生産するだけでも、原告らに有形無形の損害が発生したと見るのが相当である。
従って、被告製品の生産、販売行為は、不正競争防止法第2条1号ヌ目に該当し、被告は原告らに各5000万ウォンの損害賠償を支払わなければならない。
専門家からのアドバイス
2014年11月に蜂の巣をトッピングしたアイスクリーム商品及びその売り場のトレードドレスに対して不正競争防止法上の一般条項を適用した事例が初めて出て以降、韓国では有名商品の形態を模倣する行為にも上記一般条項を適用した事例が続けて出されている。商標法、著作権法、デザイン保護法の領域でアプローチできない模倣の領域に正当な権利者が主張できるもう一つの手段が生じたという点、これを法院が認めているという点で非常に権利者にとっては非常に心強い追い風になるといえるが、一方では、権利保護の期間や保護範囲に制限が定められている他の知財権利に比べ、包括的・永久的に解釈される余地がある不正競争防止法上の一般条項をどの程度までバランスよく適用するかは、今後も法院の判断を見極める必要があると見られる。本件は、ケリーバッグ、バーキンバッグという著名なブランドのカバンに関連した件である点、同カバンの使用期間が非常に長く、被告はこれを単にプリントして自身の売上高を上げ、これを積極的に宣伝していたという点が考慮されて判断されたと思われ、例えばケリーバッグ、バーキンバッグほどには有名でも高価でもなく、一部のマニア層にのみ知られているバックの場合や、普通の紙袋にこのような写実的な写真が印刷され遠目にも紙製の袋であると分かる場合には、法解釈技法や適用範囲をどのように整合させて行くべきかソウル高等法院での判断が待たれる。
注記
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バックの留め金、取っ手からぶら下がったタグや鍵などを含め非常に立体的で縫い目や皮の切り替えの陰影まで精巧に印刷され、手で触ってみればそれが布地に印刷されたものとすぐ分かるが、触ってみなければ遠目で見る限り本物のカバンと見間違えるレベルである。すなわち購入時の誤認・混同は皆無であり、ジョークグッズに近いとも言えるが、市中では人気を呼び、本件原告以外の有名ブランドバックのものを含め免税店などでも広く陳列・販売され、さらにはネットなどにはこれよりさらに安い便乗商品まで氾濫している。
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不正競争防止法第2条第1号ヌ目
他人の相当な投資又は労力により作成された成果等を公正な商取引慣行又は競争秩序に反する方法により自身の営業のために無断で使用することにより、他人の経済的利益を侵害する行為
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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