知財判例データベース 同一の商号商標を使用していたグループ会社が系列分離された場合、分離された系列会社がその商号商標が含まれた商標を出願登録することが可能かに関する事案

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
原告(被上告人)現代重工業株式会社 外1人 vs. 被告(上告人)現代IBT株式会社
事件番号
2012フ3657
言い渡し日
2015年01月29日
事件の経過
確定

概要

443

計算機などの商品について「現代」の登録商標を保有しており、現代グループの系列会社として出発した中小企業が、旧現代グループが2002年に大規模に系列分離された後、指定商品追加登録出願をしたが、この当時を基準とする限り、「現代」が表示する営業主体に含まれない他人であると見るのが妥当であり、その追加指定商品が現代グループと特殊な関係がある等の出所の誤認混同を一般需要者に引き起こさせるおそれが多大であると言えるので、商標法第7条第1項第10号に該当し、登録を受けられないと判断された。

事実関係

被告は、2000年5月にその商号を「現代イメージクエスト株式会社」として旧現代グループの系列社だった現代電子産業株式会社の子会社として設立された会社であり(それ以降、何回か商号変更があった)、かつ1986年に登録された本件登録商標「現代」(指定商品9類電子複写機、コンピュータ周辺機器、計算機等)の分割移転を受けた登録権利者でもある。被告は、現代グループが大規模に系列分離された後である2003年10月に光ディスクなどを追加する1次の指定商品追加登録出願をして登録を受け、2008年にはパーソナルコンピュータなどを追加する2次の指定商品追加登録出願をし、同様に登録を受けた。

これに対し、原告である現代重工業らは、本件登録商標の指定商品中、1次、2次の追加登録指定商品は韓国の大規模な企業集団である現代重工業グループ、現代自動車グループなどを象徴する「現代」、「HYUNDAI」との関係で商標法第7条第1項第10号[1]等に該当して無効審判を請求したところ、特許審判院は、1次、2次の指定商品追加登録は無効事由に該当しないとして請求棄却したものの、特許法院では、「被告は一時、汎現代グループのように旧現代グループの系列社であったが、1次、2次の指定商品追加登録日当時は汎現代グループの系列社ではなく、認知度がそれほど高くない中小企業に過ぎず、一般需要者や取引者が「現代」の営業主体として現代グループの外に被告までも認識していたと見難いので、被告は1次、2次の指定商品追加登録日当時を基準とする限り、「現代」が表示する営業主体に含まれない他人であると見るのが妥当である」として無効であると判断した。これに対し、被告は大法院に上告した。

判決内容

先使用標章の「現代」は、1998年から2002年まで現代グループが大規模に系列分離されるまで国内の代表的グループだった旧現代グループ及びその系列各社が商標またはサービスマークとして使用してきた著名な標章である。

ところが、被告が1次、2次の指定商品追加登録出願をした2003年、2008年当時は、既に旧現代グループの主要系列社だった原告現代重工業、現代自動車、現代百貨店、現代産業開発グループなどが自社の系列社とともに現代重工業グループ、現代自動車グループ、現代百貨店グループなどの個別グループを形成しており、これらは、資産規模が大きく国内の企業順位で上位グループに入っており、各事業分野を長期間リードしてきた大企業を中心に多数の系列社を抱えながら、各社の商標及びサービスマークなどとして先使用標章を使用し続けている。

一方、被告は、2000年に現代電子産業株式会社の子会社として設立されはしたが、2001年に「イメージクエスト株式会社」に商号を変更し、商号を「株式会社ハイニックス半導体」に変更した現代電子産業株式会社とともに2001年7月に現代グループから系列分離された。また、被告は、1次、2次の指定商品追加登録決定日当時、汎現代グループをなす個別グループとは経済的、組織的に何らの関係も結んでいなかった。

上記のような事情に鑑みると、汎現代グループをなす個別グループは、旧現代グループの主要系列社を中心に形成された企業グループとして先使用標章の採択、登録及び使用に中心的な役割を担うことによって、一般需要者間にその先使用標章に化体された信用の主体と認識されるとともに、その先使用標章を承継したと認められるので、これらの個別グループは先使用標章の権利者であるといえる。

一方、1次、2次の追加登録決定日当時、旧現代グループは系列分離されて社会的実体がなくなったが、旧現代グループの系列社だった被告は、先使用標章の採択、登録及び使用に何らの中心的な役割も担っていなかっただけでなく、「現代」という名称が含まれていない商号に変更したこともある点に鑑み、一般需要者間に被告がその先使用標章に化体された信用の主体と認識され、またはその先使用標章を承継したとも見られないので、被告は本件先使用標章の権利者になり得ない。

さらに、先使用標章は、1次、2次の追加商品登録出願日当時、既に著名商標だっただけでなく、原告らは、追加登録出願商品と密接な関連があるIT事業を営んでいる点に鑑みると、本件1次、2次の指定商品追加登録は、その追加指定商品が汎現代グループをなす個別グループなどと特殊な関係がある等の出所の誤認混同を一般需要者に引き起こさせるおそれが多大であるといえ、本件登録商標は、商標法第7条第1項第10号に該当する。

専門家からのアドバイス

特許庁の発表によれば、韓国には商標権の権利関係が比較的複雑な企業がいくつか存在する(例:錦湖アシアナ、大成、大宇、ロッテ、韓進、現代等)。このような大企業は大部分、系列分離過程を経て同一のグループ名称を数十社が登録して使用しているが、それらの会社が再度分離、売却過程を経る場合、グループ商号商標の識別力が低下したり、ブランド価値が下落するリスクを抱いているといえる。また、需要者の側から見ても、系列分離されて何らの関係もない会社がグループ会社の名称を使用する場合、需要者は同じ系列社と誤認し得る問題があるといえる。本件でも、法院ではこのような事情を考慮し、被告がたとえ系列会社として出発したとしても、需要者の認識の中で現代グループと認識される会社かどうかを厳格に把握したと見られる点で至極納得の行くものである(ただし、系列分離前に分割移転を受けた「現代」の商標については、被告は今後も登録を維持することができると判断されている)。

一方、これと関連して特許庁でも最近、大企業の名称の商標審査に関して新たな指針を出した。即ち、これまでは同一の名称を含んだ先登録商標が存在するとしても、同じ系列社であればその登録を許容したが、今後は法人格が異なる会社であれば他人と見て同一の名称を含んだ先登録商標との関係でその登録を拒絶するという見解を出したのである。ただし、特許庁は、既に登録されている本人の先登録商標と同一性が認められるならば例外とするとしているが、本件大法院判決に照らしてみると、その場合でも、出願人が出願の登録決定日当時、当該グループと経済的、組織的に何らの関連もなければ、汎グループ商標との関係で商標法第7条第1項第10号に該当する場合もあると思われる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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