知財判例データベース 商品の形態が備えられた日から3年経過後の模倣行為に対して不競法第2条第1号ヌ目の一般的不正競争行為に該当すると主張できるかどうか

基本情報

区分
不正競争
判断主体
ソウル中央地方法院
当事者
原告ナイキインターナショナルLTD. vs. 被告キム○○、チュ○○
事件番号
2013ガ合556587, 2014ガ合546662(併合)
言い渡し日
2015年08月31日
事件の経過
確定

概要

462

不正競争防止法第2条第1号ヌ目の補充的一般条項による差止請求を許容して商品形態の保護範囲を拡張することは、既存の保護要件の存在意義を退色させるおそれがあるので、商品形態がなした成果の程度と社会的・経済的価値、商品形態の模倣の程度、両当事者間の保護価値のある利益の形量など、諸般の事情を総合的に考慮して極めて例外的に慎重になされなければならず、リ目で定めた3年の商品形態保護期間後の模倣行為は自由な利用が許容された商品形態の模倣行為に該当するので、これに対しては不正競争防止法第2条第1号ヌ目規定を適用することはできない。

事実関係

原告は被告が販売する運動靴(以下「被告運動靴」)が、原告が販売する運動靴(以下「原告運動靴」)の形態を模倣したと主張し、被告を相手取って不正競争防止法第2条第1号リ目(デッドコピー)及びヌ目(一般的不正競争行為)を根拠として不正競争行為差止請求訴訟を提起した。

原告運動靴
原告運動靴 被告運動靴

判決内容

不正競争防止法第2条第1号リ目[1]の商品形態模倣行為(デッドコピー)の認定について

被告運動靴と原告運動靴の全体的な形態について見れば、その全体的な形状、模様、色彩はもちろん、機能及びデザインによっていくらでも多様な変形が可能な靴底の模様と靴底の形状、デザイン及び色彩、返し縫いの形態、靴の後面など細部的な形態が非常に類似し、単に付着された商標のみ異なるだけであるが、その商標が付着された位置さえも類似している。被告運動靴と原告運動靴はいずれも様々な色相で製作されているが、その色相の変更程度及び着想の難易度を考慮すると、その色相の差によって両製品の全体的な形態が大きく変わったとは見難く、その他に被告運動靴において原告運動靴との類似性を否定するだけの区別可能な特徴も発見し難い。

被告は、被告運動靴は運動靴が通常有する形態を模倣したものに過ぎず、不正競争防止法第2条第1号リ目のただし書の規定により、商品形態模倣行為に該当しないと主張している。しかし、商品形態模倣行為を不正競争行為と規定した立法趣旨に照らしてみて、「同種の商品が通常有する形態」というのは、その形態が同業界の市場において事実上標準となっているか、又は商品の機能上そのような形態を取らずには商品として成立し難い形態を意味するといえるので、原告運動靴の全体的な形状、模様、色彩はもちろん、靴底の模様など細部的な形態などが市場において事実上標準となっているとか、商品の機能上被告運動靴がそのような形状、模様、色彩、靴底などを取らずには商品として成立し難いと見られるような事実を認めるには不十分なので、被告の主張は理由がない。

被告は、原告運動靴の試作品が製作された日から3年を経過した後の行為は商品形態模倣行為に該当しないと主張し、原告は3年の起算点を原告運動靴の国内市場投入日とすべきと主張している。ただし書の規定で「商品の試作品製作」など商品の形態が備えられた日を3年の保護期間の起算点と明示している点、地域的に国内市場投入日を上記保護期間の起算点とする場合、外国で商品の形態が備えられた場合を国内で商品の形態が備えられた場合よりもさらに長く保護するようになる不合理がある点を勘案すると、「国内又は国外を区分せずに商品の試作品製作など商品の形態が備えられた日」をその保護期間の起算点と見るのが相当である。従って、原告運動靴の試作品が製作された日から3年に該当する日以降に、被告が被告運動靴を販売した行為は商品形態模倣行為の不正競争行為には該当しない。

従って、被告が被告運動靴を原告運動靴の試作品が製作された日から3年に該当する日までに販売した行為は商品形態模倣行為に該当するので、この被告の行為によって原告が受けた損害に対しては被告は賠償する義務がある。ただし、本件弁論終結日を基準として原告運動靴の保護期間の終了時期が経過したので、被告に被告運動靴の販売差止及び予防を求めることはできない。

不正競争防止法第2条第1号ヌ目[2]の一般的不正競争行為の認定について

不正競争防止法第2条第1号ヌ目は、技術の変化などにより示される新たなかつ多様な類型の不正競争行為に適宜対応するために新設された補充的一般条項として、従来の知識財産権関連制度内では予想できず、既存の法律では包含できなかった類型の行為を禁止する必要性が発生する場合に備えて立法されたものであるといえる。ところが、従来より予想できた模倣商品の場合、登録デザイン権に基づいて侵害差止請求をしたり、国内に広く認識された商品の場合、これと類似の商品形態の使用差止を求めたり(不正競争防止法第2条第1号イ目)、商品の形態が備えられた日から3年以内に該当商品の形態を模倣したデッドコピー商品の譲渡、貸渡しなどの差止を求めたり(不正競争防止法第2条第1号リ目)することで保護を受けることができる。そのためデザイン保護法による登録要件を備えず、不正競争防止法第2条第1号イ目が適用され得る程度に労力と費用を投資して該当商品形態を自身の営業標識として国内に広く知られておらず、商品形態が備えられてから3年を経過したりして、差止請求をできない者に対して、不正競争防止法第2条第1号ヌ目の補充的一般条項による差止請求を許容して商品形態の保護範囲を拡張することは、上記のように既存の法律体系が要求していた一定の保護要件の存在意義を退色させるおそれがある。従って、上記のような場合に不正競争防止法第2条第1号ヌ目を適用することは、商品形態がなした成果の程度と社会的・経済的価値、商品形態の模倣の程度、両当事者間の保護価値のある利益の形量など、諸般の事情を総合的に考慮して極めて例外的に慎重になされなければならない。

不正競争防止法第2条第1号リ目ただし書において商品形態保護期間を3年と定めた趣旨は、デザイン保護法との関係上緩和された要件による保護を長期間とすることができず、一方、短期間のみ保護してもデザイン開発にかけた投資費用を回収して先行利益を十分に享受できると判断したためであると見られる。また、リ目ただし書の保護期間規定は現在までもその効力を維持しており、その保護期間後の模倣行為に対して今度はヌ目を適用できるならばリ目の存在意義を失うことになるので、リ目で定めた3年の商品形態保護期間後の模倣行為は自由な利用が許容された商品形態の模倣行為に該当するといえる。

上記の事情を全て考慮すると、被告が原告運動靴の形態に対する保護期間の終了後に被告運動靴を製作、販売する行為に対して不正競争防止法第2条第1号ヌ目規定を適用することはできない。

専門家からのアドバイス

2014年11月にアイスクリームチェーン店の「trade dress」に対して不正競争防止法第2条第1号ヌ目規定(以下「一般条項」と略す)を適用した事例が出て以来、いくつかの有名商品の形態を模倣した行為に対しても一般条項を適用した判例が続けて下された。しかし、この一般条項を不正競争防止法第2条第1号イ目~リ目(以下「類型条項」と略す)で定めた9つの類型の行為にまで重複して適用できるかどうか、即ち、この一般条項が「補充的」であるかどうかに関しては様々な意見があった。ちなみに、類型条項に該当するので一般条項については別途判断しないと説示した判例(2014ガ合524716、控訴審係属中)や、一般条項に基づいた請求を受け入れる以上、類型条項に該当するかどうかについては別途判断しないと説示した判例(2014ガ合552520、控訴審係属中)があり、さらに、類型条項に該当するとして一般条項を適用できないと見ることはできないと説示した判例(2014ガ合529797、控訴審係属中)も存在しているのが実情である。

本件では本文からも分かるように一般条項を補充的一般規定の性格を有すると見て、類型条項の要件を備えていない行為に対しては一般条項を適用できないと判断したものであるが、上述のように地方法院の一審判決の判断が一致しないところ、上級審法院でこの条項をどのように適用するかについて大いに注目する必要があるといえよう。

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