知財判例データベース 医薬という物の発明において投与用法と投与用量が発明の構成要素となり得るか
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告、上告人(特許権者ブリストル・マイヤース)vs 被告、被上告人(第一薬品)
- 事件番号
- 2014フ768権利範囲確認審判(特許)
- 言い渡し日
- 2015年05月21日
- 事件の経過
- 確定(上告棄却)
概要
461
医薬という物の発明において対象疾病または薬効とともに投与用法と投与用量を付加する場合に、このような投与用法と投与用量は、医療行為そのものではなく、医薬という物が効能を完全に発揮するようにする属性を表現することによって医薬という物に新たな意味を付与する構成要素になり得ると見るべきであり、このような投与用法と投与用量という、新たな医薬用途が付加されて新規性と進歩性の特許要件を備えた医薬に対しては、新たに特許権が付与され得る。
事実関係
被告の第一薬品は、2012年9月13日に原告を相手取り、確認対象発明は本件特許第757155号の請求項1[1]の権利範囲に属さないという趣旨の消極的権利範囲確認審判を請求した。特許審判院は2013年4月30日にこの請求を認容する審決し、原告は同年7月5日付で特許法院に審決取消訴訟を提起したものの、2014年4月11日付で棄却されたため大法院にこの判決の取消を求め上告した。
判決内容
- 投与周期及び投与用量が発明の構成要素であるかに関する上告理由について
医薬用途発明に対して特許を付与するかについて、旧特許法第4条は医薬用途発明を特許の対象から除外していたが、特許開放政策導入の一環として1986年12月31日の法改正を通じて上記規定を削除した。これにより韓国特許法上、医薬用途発明の特許対象性を否定する根拠はもはや存在しなくなった。
一方、人の疾病を診断・軽減・治療・処置し、予防したり健康を増進するなどの医療行為に関する発明は特許の対象から除外されるので、人の治療などに関する方法自体を特許の対象とする方法の発明としては医薬用途発明を許容することはできないが、医薬という物に医薬用途を付加した医薬用途発明は医薬用途が特定されることによって当該医薬物質そのものとは別個に物の発明として新たに特許の対象になり得る。ここでの医薬用途は、医療行為そのものではなく、医薬という物が効能を発揮する属性を表現することによって医薬という物に新たな意味を付与することができる発明の構成要素となる。
さらに、医薬が副作用を最小化しながら効能を完全に発揮するためには、薬効を発揮することができる疾病を対象として使用しなければならないだけでなく、投与周期・投与部位や投与経路などといった投与用法と、患者に投与される用量を適切に設定する必要があるが、このような投与用法と投与用量は、医薬用途になる対象疾病または薬効とともに、医薬がその効能を完全に発揮するようにする要素としての意味を有する。このような投与用法と投与用量は、医薬物質が有する特定の薬理効果という未知の属性の発見に基づいて新たな用途を提供するという点で、対象疾病または薬効に関する医薬用途と本質が同じであるといえる。
また、同一の医薬でも、投与用法と投与用量の変更によって薬効の向上や副作用の減少または服薬利便性の増進などのように、疾病の治療や予防などに予想し得なかった効果を発揮することがあるが、このような特定の投与用法と投与用量を開発するのにも、医薬の対象疾病または薬効そのものの開発に劣らず相当な費用と労力が要される。従って、このような投資の結果として完成した公共の利益に貢献することができる技術に対して、新規性や進歩性などの審査を経て特許を付与するか否かを決定するに先立ち、特許としての保護を根本的に否定することは、発明を保護・奨励し、その利用を図ることにより、技術の発展を促進し、産業発展に寄与するという特許法の目的にそぐわない。
であれば、医薬という物の発明において、対象疾病または薬効とともに投与用法と投与用量を付加する場合に、このような投与用法と投与用量は医療行為そのものではなく、医薬という物が効能を完全に発揮するようにする属性を表現することによって、医薬という物に新たな意味を付与する構成要素になり得ると見るべきであり、このような投与用法と投与用量という新たな医薬用途が付加されて新規性や進歩性などの特許要件を備えた医薬に対しては、新たに特許権が付与され得るものである。
このような法理は、権利範囲確認審判で審判請求人が審判の対象とした確認対象発明が公知技術から容易に実施できるかを判断する際にも同様に適用される。
専門家からのアドバイス
本判決は大法院全員合議体判決で、「投与周期と単位投与量は組成物である医薬物質を構成する部分ではなく、医薬物質を人などに投与する方法であるため特許を受けることができない医薬を用いた医療行為であるか、又は組成物発明において比較対象発明と対比対象になるその請求の範囲の記載によって得られた最終的な物自体に関するものではないので発明の構成要素と見られない」という趣旨で判示してきた過去の大法院判決及び同趣旨の判決を変更した。
請求の範囲は出願人が権利化を希望して選択した部分であるという点で、原則的に記載された部分全てを構成要素と見るべきであり、任意にある記載を除外してはならないものである。ただし、本件の全員合議体の中でも別意見として「医薬物質とその医薬用途としての対象疾病または薬効が特定されている以上、そこに投与用法と投与用量を付加するからといって別個の新たな医薬用途発明になると見ることはできない」との考え方が示されているように、投与用法と投与用量は物の発明に対して当該物そのものを構成するものではなく、当該物の実施を限定するものであるとして、権利範囲の解釈が問題となる可能性もある。
とは言え、この合議体判決で判示されたように、物に医薬用途を付加した医薬用途発明は、医薬用途が特定されることによって当該医薬物質そのものとは別個に物の発明として新たに特許の対象になることができ、投与用法と投与用量はその医薬用途の効果が変わることがあるという点から、物に新たな意味を付与する構成要素になり得るという判断は妥当であると考えられる。
今年初めにプロダクト・バイ・プロセスクレームの判決でも物の発明に記載された製造方法を当該物の構成要素と認めるべきであるという趣旨の判断が下されたが、請求の範囲に記載された事項は全て発明の構成要素として認めるという点で軌を同じくする判断であるといえる。
実務者としては、請求の範囲を記載する際に不要な要素が付加されないよう万全を期する一方で、出願後の審査経過(または権利紛争)で先行技術に対して新規性、進歩性が認められるために、投与用法又は投与用量を追加することが有効な場合も考えられることになるので、明細書に投与用法及び用量による効果の差を具体的かつ詳細に記載しておく必要がある。
注記
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[請求項1]担体基質の表面に付着された0.5~1.0mgのエンテカビル(entecavir)を含む、B型肝炎ウイルス感染を治療するための1日1回の投与に効果的な製薬組成物。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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