知財判例データベース 特許発明の均等な発明を利用する場合にも、利用関係が成立するか否か

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告、上告人(特許権者)vs.被告、被上告人(アジア電気)
事件番号
2014フ2788権利範囲確認(特)
言い渡し日
2015年05月14日
事件の経過
原審判決破棄、特許法院差戻し

概要

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確認対象発明が特許発明を利用する関係にある場合には特許発明の権利範囲に属するものであるが、このような利用関係は、確認対象発明が特許発明の構成に新たな技術的要素を付加するものであって、確認対象発明が特許発明の要旨を全て含み、これをそのまま利用しながら確認対象発明内に特許発明が発明としての一体性を維持する場合に成立し、これは特許発明と同一の発明だけでなく均等な発明を利用する場合にも同様である。

事実関係

被告であるアジア電気は、発明の名称を「空気循環冷却型LED PL灯器具」とする特許第1280982号(本件特許発明)の特許権者である原告を相手取って、確認対象発明が本件特許発明の権利範囲に属さないという旨の消極的権利範囲確認審判を請求して勝訴した。これに対し、原告は、特許法院に審決取訴訟を提起したものの、敗れたことから大法院に当該判決の取消を求める上告を提起した。

判決内容

本件第1項の発明の構成2~6[1]は、原審判示の本件確認対象発明にそのまま含まれている。構成5に対応する本件確認対象発明の拡散カバーのうち、一部がインバータだけでなくLEDモジュールの一部まで共に包容するものと図示されてはいるが、これは「LEDモジュールの一部がインバータと重複配列」される技術的要素がさらに付加されたことによるものに過ぎない。

ただし、構成1に対する本件確認対象発明の対応構成は「平面がトラック形状であり、縁部が一定の高さのフランジで構成されて内部空間部が形成され、長く延びるベースの端部に近接した部位に凹溝で構成されるインバータ安置部が構成され、側面上部縁部に切り欠かれて内部空間部と連通する多数の空気排出口が構成された本体」として、構成1のインバータ安置部が「本体のベース中央部」に構成されているのとは異なり、本件確認対象発明のインバータ安置部は構成される位置が「ベース端部に近接した部位」に変更された点で差がある。


左側 [本件確認対象発明]右側 [本件特許発明]
図面は本稿向けに加工・簡略化している

明細書の記載と出願当時の公知技術などを総合してみれば、構成1のインバータ安置部と関連して本件第1項の発明に特有の解決手段が基づいている技術思想の核心は「ベース表面から内側方向に一定深さに入り込んだ空間を形成」するところにある。ところが、本件確認対象発明のインバータ安置部も「凹溝」で構成されることによって「ベース表面から内側方向に一定深さに入り込んだ空間を形成」したものと言える。従って、本件確認対象発明は上記のような構成の変更にもかかわらず、解決手段が基づいている技術思想の核心において本件第1項の発明と差がないので、課題の解決原理が同一であると見ることができる。そして、本件確認対象発明のインバータ安置部は上記のような構成の変更によっても「インバータがベース表面に突出するのを最小化」するという点で本件第1項の発明のインバータ安置部と実質的に同一の作用効果を奏する。

一方、本件確認対象発明の図面に示された内容を参酌してみれば、「LEDモジュールの一部がインバータを覆って重複配列」される構成が本件確認対象発明に更に加えられたものと見られる。ところが、本件確認対象発明の上記のような一部重複配列の構成は、本件第1項の発明の技術的構成に付加された新たな技術的要素として単にLEDモジュールが配列される領域が追加されたに過ぎないので、本件確認対象発明は、本件第1項の発明の要旨を全て含んで利用していると見ることができる。また、本件第1項の発明が構成全体を通じて達成することができる「拡散カバーの内部空気が本体の内部空間部に流入して本体の空気排出口を通じて排出される自然な対流によってLEDモジュールが冷却」されるようにするという作用効果は本件確認対象発明でもそのまま実現され得るので、本件確認対象発明内に本件第1項の発明が発明として一体性を維持していると見るべきである。たとえ本件確認対象発明はLEDモジュールの一部をインバータの領域にまで重複配列することによって「光の陰影部分がないように」する効果も追加で実現できるとしても、そのような事情を挙げて本件第1項の発明が本件確認対象発明内で発明としての一体性を維持していないと見ることはできない。

原審は、本件確認対象発明は、本件第1項の発明とは異なり、LEDモジュールがインバータ安置部を「覆って」いるというなどの理由を挙げて本件確認対象発明が本件第1項の発明と同一又は均等な構成を全て備えておらず、その権利範囲に属すると見ることができないと判断しており、このような原審の判断には特許発明の権利範囲判断に関する法理を誤解することによって判決に影響を及ぼした誤りがある。

専門家からのアドバイス

大法院2014年7月24日言渡2013ダ14361特許権侵害差止事件(2014年9月号掲載)は均等侵害を認めたものであるが、本判決はこの判決と軌を一にするものとして、利用関係にある場合でも均等物に対する利用関係を認めた。

本判決では、原審で構成1と異なると判断した確認対象発明の部分を、構成1の均等物に一部構成が追加されたものと判断し、均等物であるか否かに対する判断は明細書の記載から構成1が有する技術思想の核心が同一か否かで判断した。構成要素の対比において、請求の範囲に記載された構成の単純な相違を判断するのではなく、先ず当該構成要素の技術思想の核心を把握して、その部分が同一かどうかを判断したという点で、2013ダ14361判決に続き、改めて特許権者の権利保護を強化する鼓舞的な判決と考えられる。

ただし、請求の範囲のドラフトと関連して、構成1に「中央に」という表現を記載していなければ特許権者がもう少し容易に保護を受けられたのではないかと思われる。確認対象発明と関連して請求の範囲の保護範囲は最終的には法院で判断を受けることになるものであるが、不要に権利範囲を制限されるリスクを防止するためには、技術思想の核心と関係がない限定事項は請求の範囲に記載しないという原則を改めて振り返る必要がある。

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