知財判例データベース 非営利社団法人の類似商号使用が商法上の他人の営業として誤認させる商号使用行為や不正競争防止法上の営業主体の混同招来行為に該当するか否かについて

基本情報

区分
商標,不正競争
判断主体
ソウル南部地方法院
当事者
原告(社団法人 大韓医師協会)vs. 被告(社団法人 大韓韓医師協会)
事件番号
2013ガ合102542‎
言い渡し日
2015年06月12日
事件の経過
控訴審(ソウル高等法院2015ナ2037144)係属中

概要

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本件は、英文名称をKorean Medical Associationとする原告(社団法人 大韓医師協会)‎が、The Association of Korean Medicineを英文名称として使用する被告(社団法人 大‎韓韓医師協会)を相手取り、商法第23条第1項で定める他人の営業と誤認する商号使用行為及び不正競争防止法第2条第1号ロ目で定めた営業主体の混同招来行為に該当するとして、その英文名称の使用中止を求めた事案で、法院は、非営利の社団法人である原告と被告間に商法又は不正競争防止法が適用されるものの、原告に被告の英文名称に対する使用差止請求権は認められないと判断された。‎

事実関係

原告は設立当時からその英文名称として「Korean Medical Association」を使用してきており、被告は「The Association of Korean Oriental Medicine」という英文名称を従来使用してきたが、2012年7月頃から「Oriental」部分を削除し、「The Association of Korean Medicine」に英文名称を変更して使用しはじめた。原告は、被告が「韓医学」をより正確に指すために「traditional」などの単語を結合した形態の英文名称を使用できるにもかかわらず、原告の英文名称と類似して混同を引き起こし得る本件標章を英文名称として使用することは商法及び不正競争防止法違反であると主張し、その使用中止を求めた。‎

判決内容

‎原告・被告は共にサービス業その他事業を行う事業者である「医師」及び「韓方医」が構成員になって共同の利益を増進する目的で設立された団体である点、原告・被告の活動のうちの一部は利益を発生させる営利行為に該当する点などを考慮すると、原告・被告に商法及び不正競争防止法が適用され得ると見るのが妥当であり、被告の営利行為によって発生した収益に対して付加価値税が免除されるという事情だけでこれを妥当でないということはできない。‎

次に、関連法規を詳察すれば、商法第23条第1項[1]の不正の目的とは、「ある名称を自らの商号に使用することにより、一‎般人に自らの営業をその名称によって表示された他人の営業と誤認させようとする意図」‎をいい、不正競争防止法第2条第1号ロ目[2]の他人の営業標識と混同させる行為に該当するかは営業標識の周知性、識別力の程度、標識の類似程度、営業実態、顧客層の重複などによる競業・競合関係の存否、及び模倣者の悪意(使用意図)の有無などを総合して判断すべきである。‎

一方、商標、商号間に類似の部分があるとしても、要部をなす部分が互いに異なり、これを全体的に観察するとき、取引上商品の出所について誤認・混同を引き起こすおそれがなければ類似商品でないと見るべきであり、もし商標の構成要素のうち、当該指定商品の普通名称や慣用標章又は記述的標章などで表された部分が含まれているのであれば、そのよ‎うな部分は自他商品の識別力がなく、上記で述べる商標の要部になると見ることができないので、商標の類否を判断するにおいてもこれを除いた残りの部分のみを対比して観察することが妥当である。‎

商法及び不正競争防止法で他人の商号商標に対する使用差止請求権を認めているのは営業上の利益を保護する趣旨からであるが、原告・被告は非営利法人であって、その活動の一部に営利性があるとしても、営利行為が原告・被告の設立目的及び活動内容の根本的な部分に該当すると見られない点、そして、原告の英文名称のうち「Medical」、「Association」‎は記述的標章であり、「Korean」は地理的標章に過ぎず、原告の英文名称に自他商標の‎識別性のある部分があるとは見難い点、さらに、WTOで定めた「韓医学」に対する正式英文名称は‎「Korean traditional medicine」であり、多数の国の伝統医学に対する英文名称に「traditional」という単語が含まれているが、ウィグルの伝統医学に対する英文名称は「Uyghur medicine」、チベットの伝統医学に対する英文名称は「Tibetan medicine」であり、‎韓国の伝統医学については漢字名称が「韓医学」であることを考慮すると、被告の英文名称のうち、「Korean medicine」はそれ自体で「韓医学」を意味するとも見られるという点といった事情から判断して、原告には被告の英文名称に対する使用差止請求権が認められない。‎

専門家からのアドバイス

本件は、原告・被告をはじめとして特定職業の構成員の集まりである非営利社団法人の間で、類似の名称を使用する場合、どのような法理がどのように適用されるのかが具体的に判断された、稀な事案である。本事案では原告・被告が非営利社団法人であっても原告・被告の活動の一部は営利行為に該当するという点を考慮して商法及び不正競争防止法が適用されるとしながらも、商法と不正競争防止法で他人の商号商標に対する使用差止請求権を認めることは営業上の利益を保護するためのものと見て、原告・被告の活動中の一部に営利性があるとしても、そのような活動が原告・被告の根本的な部分に該当すると見ることができない点を考慮して、最終的に原告に対して被告の英文名称に対する使用差止請求権を認めなかったことは、非営利社団法人の名称は商法及び不正競争防止法に基づいて保護を受けることが実質的に容易ではない点を示すものと判断され、果たして高等法院で一審法院の判断を維持するか否かも注目される。‎

参考までに、大韓民国商法第23条第1項では「何人も不正の目的で他人の営業と誤認し得る商号を使用することができない」と規定しており、同条第4項では「同一の特別市・広域市・市・郡において同種営業で他人が登記した商号を使用する者は不正の目的で使用するものと推定する」と規定しており、商業登記法第30条では「同一の特別市・広域市・市又は郡内では、同一の営業のために他者が登記したものと同一の商号は登記することができない。」と規定していることから、日本企業が韓国に現地法人を設立し、商号を選定する際には、先登記された同一の商号の企業が同一の特別市・広域市・市・郡に存在するかどうかを検討してみる必要がある。アルファベット略称や漢字の羅列からなる商号など、韓国内でもありふれて用いられる可能性のある商号の場合には特に注意を払うようにしたい。‎

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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