知財判例データベース 特許法36条1項で定められている発明の同一性を判断する基準
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告:無効審判請求人 vs 被告:特許権者
- 事件番号
- 2014ホ8175無効(特許)
- 言い渡し日
- 2015年05月08日
- 事件の経過
- (上告せず)判決確定
概要
458
構成の差があり、これによって効果の差がある場合、両構成は実質的に同一であると見難い。
事実関係
原告は2014年4月30日、特許審判院に被告を相手取って、本件特許第935937号の請求項1、2は比較対象発明1と同一であるため、特許法第36条第3項、第1項に該当すると主張して登録無効審判を請求した。特許審判院は2014年10月21日、請求項1は比較対象発明1と同一ではなく、請求項2は比較対象発明1と同一であるという理由で、審判請求のうち請求項2に関する部分は認容し、残りの請求部分は棄却する審決を下した。そこで、原告は請求項1[1]に関する部分の取消を請求する訴えを提起した。
判決内容
請求項1構成2の「連結突出部(120)」は、比較対象発明1の「パイプ連結具のボディ(11)に長手方向パイプ側に直角に形成され、長手方向パイプの端部に一体に接合されるやや小径の連結部(15)」に対応する。しかし、構成2の連結突出部はパイプの内周面が当接して嵌められるのに対し、比較対象発明1の連結部は長手方向の浮力パイプの端部と一体に接合(融着)するものであるため、パイプとの結合方式に差がある。上記のような結合方式の差によってパイプと連結突出部(連結部)間の結合強度において差が生じると見られるだけでなく、請求項1は、比較対象発明1のように連結部とパイプの端部間を接合(融着)する過程が不要であり、パイプ連結作業の利便性が増大するので、両構成は効果の面でも差がある。
原告は、パイプの内周面に連結突出部を嵌合してパイプを連結する方式は、パイプの連結に関する技術分野において周知・慣用技術に過ぎず、上記のような連結方式を採択することによって比較対象発明1から期待できない新たな効果が生じると見ることもできないので、両構成は実質的に同一であると主張している。しかし、先に見た通り構成2の連結突出部(120)と比較対象発明1の連結部(15)はパイプとの結合方式に差があり、上記のような差によってパイプ連結作業の利便性が増大する等の新たな効果が生じるので、両構成は実質的に同一の構成であるとは見難い。従って、両構成が実質的に同一であるという原告の上記主張は受け入れられない。
専門家からのアドバイス
36条の先出願主義(及び新規性、拡大された先願も同様)を判断する場合には、先行技術と特許請求の範囲に記載された発明が同一であるかどうかを判断する。ところが、この「発明の同一性」は全面的に一致する場合はもちろん、実質的に同一の場合を含むので、実務上差がある場合にも同一であると判断されることが多い。例えば、構成が相違する場合には「単純な慣用手段の置き換え」、構成が欠如している場合には「単純な慣用手段の付加又は削除」として、発明の目的及び効果に格別な差が生じないと判断されるケースである。
しかし、このような判断を濫用する場合、同一性の判断がともすると進歩性の判断のようになり得、その場合、出願人(特許権者)としては出願前に公開されていなかった文献に基づいて進歩性の判断を受けることとなり、非常に不当であると思われる。今回の判決では先行技術と構成2の差による効果を大きく認め、実質的に同一ではないと判断した(判決文に添付された特許明細書の抜粋記載によると、この効果は別途に明細書に記載されてはいなかったものと思われる)。従って、従来「格別な効果の差」がないとして単純な慣用手段の付加又は設計変更に該当し、実質的に同一であると判断されがちだった実務の対極にあるケースとして記憶しておきたい。
[参考]
- 本願の図面
連結リングの斜視図
パイプを連結した実施例
- 比較対象発明1の図面
パイプ連結具の斜視図
パイプ連結具の使用状態図
注記
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[請求項1]前面には、パイプの外周面と当接してパイプを嵌合することができるパイプホール(110)を備え(以下、「構成1」)、背面には、パイプの内周面に当接して嵌合することができる突起型の連結突出部(120)を備え(以下、構成2」)、前記連結突出部の外郭には、少なくとも2つ以上の結合孔(130)を備えること(以下「構成3」)を特徴とする多目的パイプ接続リング。
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