知財判例データベース 他の共同著作者の合意なしに共同著作物を利用しても、著作財産権を侵害する行為にまでなると見ることはできない

基本情報

区分
著作権
判断主体
大法院
当事者
被告人(被上告人)vs.検事(上告人)
事件番号
2012ド16066
言い渡し日
2015年03月17日
事件の経過
上告棄却

概要

446

‎2人以上が単一の著作物を創作した場合、その著作物に対して共同著作者となるが、ここで、共同創作の意思は、法的に共同著作者になろうという意思を意味するものでなく、共同の創作行為によって各自の寄与した部分を分離して利用することができない単一の著作物を作り出そうという意思を意味するものと見るべきである。著作権法では「共同著作物の著作財産権は、その著作財産権者全員の合意によらなければ、これを行使することができない。」と定めているが、これ定はあくまでも共同著作者間で各自の寄与した部分を分離して利用することができない単一の共同著作物に係わる著作財産権を行使する方法を定めているだけであるため、共同著作者が他の共同著作者との合意なしに共同著作物を利用するとしても、それは共同著作物の著作財産権の行使方法に違反した行為にとどまり、著作財産権を侵害する行為にまでなると見ることはできず、刑事責任を問えない。‎

事実関係

被告人は、2004年8月頃、随筆「チンジョンオンマ[1]」を執筆して出版し、2006年6‎月頃、上記随筆を演劇として公演するために企画会社である株式会社Aとの作家契約を通じて本作品の台本の下書きを執筆したが、上記演劇の演出者から「演劇の技術的な要素が足りないので台本の修正が必要」との提議を受け、その修正に同意して、‎上記演出者は台本の下書きを修正する作家として告訴人を推薦し、告訴人は株式会社Aと脚色作家契約を結んだ。‎

告訴人は、2006年11月頃から2007年4月頃まで、被告人の原著作物である上記随筆と演劇の台本の下書きに基づいて全体的なあらすじは維持するものの、新たな人物を登場させ、場面の配列順序を変更しただけでなく、台詞など表現の一部を修正して脚色することにより、演劇版「チンジョンオンマ」の台本を完成させ、これを利用して演劇が製作・公演された。‎

被告人は、2010年1月頃、ミュージカル版「チンジョンオンマ」の製作・公演のために企画会社Aと原作契約及び台本契約を結び、その頃から同年3月頃まで、同ミュージカルの台本を執筆するにあたって、ミュージカルの構成要素である歌の歌詞を追加したり、母親の若かりし頃の場面などを追加した。この過程で、告訴人の同意な‎しに演劇版「チンジョンオンマ」に登場する人物、台詞などの表現をそのまま用い、‎ミュージカル版の台本を完成させ、これを各地で公演した。これに告訴人は被告人を、自らの著作権を侵害したとして告訴した。‎

判決内容

  1. 共同著作者の成立について

    著作権法上、「著作者」とは著作物を創作した者を、「共同著作物」とは2人以上が共同で創作した著作物であって、各自の寄与した部分を分離して利用することができないものをいうと規定している。上記各規定の内容を総合してみると、2人以上が共同創作の意思をもって創作的な表現形式自体に共同の寄与をすることにより各自の寄与した部分を分離して利用することができない単一の著作物を創作した場合、‎これらはその著作物の共同著作者になるといえる。ここで、共同創作の意思は、法的に共同著作者になろうという意思を意味するものではなく、共同の創作行為によって各自の寄与した部分を分離して利用することができない単一の著作物を作り出そうという意思を意味するものと見るべきである。‎

    このような法理に照らしてみると、(1)被告人は自身が作成した演劇台本の下書きが告訴人によって修正・補完されて新たな創作性が付与されることを容認しており、告訴人も被告人とは別の演劇台本を作成する意図ではなく、被告人が作成した台本の下書きに基づいてこれを修正・補完し、より完成度の高い演劇台本を作り上げるために最終版の台本作成作業に参画した点、(2)被告人は台本の下書きが告訴人により修正・補完され演劇として公演されるまで劇作家の地位を維持しながら台本作業に関与し、告訴人も本件著作物の作成過程で被告人から修正・補完作業の全体的な方向について一定部分統制を受けることはあったものの、相当な創作の自由または裁量権をもって修正・補完作業を行い、演劇の重要な特徴的要素になった新しいキャラクター、場面、台詞などを相当部分創作した点、(3)台本の最終版はその創作的な表現形式において被告人と告訴人が創作した部分を分離して利用することができない単一の著作物になった点などを鑑みると、被告人と告訴人は、本件著作物の共同著作者と見るのが妥当である。‎

  2. 著作財産権侵害罪の成立について
    著作権法第48条第1項前文は「共同著作物の著作財産権は、その著作財産権者全員の合意によらなければ、これを行使することができない」と定めているが、上記規‎定はあくまでも共同著作者間で各自の寄与した部分を分離して利用することができない単一の共同著作物に係わる著作財産権を行使する方法を定めていることに過ぎないので、共同著作者が他の共同著作者との合意なしに共同著作物を利用するとしても、それは共同著作者間で上記規定が定めている共同著作物に係わる著作財産権の行使方法に違反した行為になることにとどまるだけで、他の共同著作者の共同著作物に係わる著作財産権を侵害する行為にまでなるとは見ることができない。

専門家からのアドバイス

本件で上告人である検事は、まず被害者の告訴人が演劇台本の単独著作権者であり、仮に被害者が本件台本の共同著作権者であるとしても、被告人が被害者と合意なしに共同著作物である本件台本を単独で利用した行為は著作権法第136条第1項所定の刑事責任を負う著作権侵害行為に該当すると争った。

本件台本が共同著作物にあたるという判断は上記「判決内容」に説示された理由を詳察すると、妥当であると見られるが、何よりも本件では、共同著作物の一方の著作者が他方の著作者の同意なしに利用した行為について、刑事責任を負う著作権侵害行為とは見られないという点を明確にしたところに大きな意義があるといえる。

これまでは、著作者全員の合意がない状態でなされた著作権の行使は効力がないとするのにとどまるだけで、共同著作者のうちの1人の著作者が著作者全体の同意なしに直接著作権を行使した場合、これに対して刑事責任を追及できるかについては明確な論議が存在しなかった。ところが、上記大法院判決の原審判決(ソウル南部地方法院2012年1月6日言渡2012ノ979判決)は、この場合にも‎「民事上の損害賠償その他不法行為責任を負う可能性がある」としながらも、台本については被告人も著作権を有しているところ、共同著作物の特性上、分離して利用することが不可能であり、共同著作権者の1人が単独で共同著作物を利用しても、‎今後その利益を分配して利害関係を調節することができ、共同著作権者のうち1人の反対でもあれば無条件に著作権侵害行為として刑事処罰してしまうと、共同著作物の利用を過度に制限させる点などを挙げて、少なくとも刑事責任までは問うことができないと見たもので、大法院でもこのような趣旨の判断がそのまま維持された。‎

上記のような面で、本件は共同著作物利用関係と刑事責任との関係を明確にした先駆的な判決と評価できよう。しかし、この判決でも共同著作物の利用関係において共同著作者間の合意がない場合、民事責任まで免除されるという趣旨ではないので、この点は実際の共同著作物の運用側面において依然として留意が必要である。‎

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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