知財判例データベース ミュージカル「CATS」のハングル及び英文表記が不正競争防止法第2条第1号(ロ)目の「営業標識」に該当するかどうか(積極的)

基本情報

区分
不正競争
判断主体
大法院
当事者
原告(上告人)株式会社ソルアンドカンパニー vs. 被告(被上告人)個人A
事件番号
2012ダ13507
言い渡し日
2015年01月29日
事件の経過
確定

概要

444

韓国内外で周知・著名なミュージカル「CATS」の英文又はそのハングル音訳からなる本件標識は、そのミュージカルの内容を表示する名称にとどまらず、取引者又は需要者にミュージカルCATSの公演が有する差別的特徴を表象することによって、特定人のミュージカル製作・公演であることを連想させる程に顕著に個別化されるに至ったといえるので、不正競争防止法第2条第1号(ロ)目で定める「他人の営業であることを表示した標識」に該当する。

事実関係

原告はミュージカル「CATS」の韓国内公演業者であり、「オリニ・キャッツ」等の題目で子供向けの公演をする被告に対し、その中止を請求する訴を提起した。1審と2審の結論は異なったが、2審であるソウル高等法院では、被告の行為が不正競争行為に該当するためには原告の標識がミュージカル・キャッツに関して商品や営業の出典表示又は識別標識機能をしていなければならないが、ミュージカルの題名が単にそのミュージカルの内容を表示するための名前として使用されたことを越えて自他商品や営業の識別標識機能をすると言うためには、ミュージカルという公演商品や営業に表示されて使用された結果、需要者にその題名が商品や営業の出所を表示して、自身の営業に関する商品やその営業と、他人の営業に関する商品やその営業とを識別するための標識として認識されるに至らなければならないとして、原告請求を棄却した。これに対し、原告は大法院に上告した。

判決内容

ミュージカルは脚本、楽曲、歌詞、振りつけ、舞台美術などが結合され、音楽と踊りが劇の構成・展開に緊密に組み合わせられた演劇著作物の一種として、その題目は、特別な事情がない限り、該当ミュージカルの創作物としての名称又は内容を含蓄的に示すにとどまり、それ自体が直接商品や営業の出所を表示する機能を有するとは見難い。

しかし、ミュージカルはその製作・公演などの営業に使用される著作物であるので、同一の題目で同一の脚本、楽曲、歌詞、振りつけ、舞台美術などが使用されたミュージカル公演が回を繰り返して継続的になされたり、同一の題目が使用された後続シリーズミュージカルが製作・公演された場合には、その公演期間と回数、観覧客の規模、広告・広報の程度など、具体的・個別の事情に照らしてミュージカルの題目が取引者又は需要者に当該ミュージカルの公演が有する差別的特徴を表象することによって、具体的に誰であるかは分からないとしても特定人のミュージカル製作・公演などの営業であることを連想させる程に顕著に個別化されるに至ったと見られるならば、そのミュージカルの題目は単に創作物の内容を表示する名称にとどまらず、不正競争防止法第2条第1号(ロ)目で定める「他人の営業であることを表示した標識」に該当するといえる。

一方、「ミュージカルCATS」は、少なくとも2003年からはその著作権者及びそれから正当に公演許諾を受けた原告によってのみ韓国内で英語又は韓国語で製作・公演されてきており、また、その脚本、楽曲、歌詞、振りつけ、舞台美術などに対する著作権者の厳格な統制の下で一定の内容と水準で回を繰り返して継続的に公演がなされた点、英語によるミュージカルCATSの来韓公演が、2003年から2008年まで、ソウル、水原、大邱、釜山、大田、光州などの各地で、2003年191回、2004年58回、2007年140回、2008年172回行われ、韓国語によるミュージカルCATSの公演も全国で2008年146回、2009年59回、2011年数十回に至るなど、その公演期間と回数が相当である点、2003年から約5年間上記公演を観覧した有料観覧客数が84万9,859人に達し上記公演と関連して株式会社文化放送のテレビ広告などマスコミによる広告・広報も相当な程度になされた点、などの事情を、前述した法理に照らせば、「CATS」の英文又はそのハングル音訳からなる本件標識は、少なくとも本件原審弁論終結日(2011年10月26日)頃には単にそのミュージカルの内容を表示する名称にとどまらず、取引者又は需要者にミュージカルCATSの公演が有する差別的特徴を表象することによって、特定人のミュージカル製作・公演であることを連想させる程に顕著に個別化されるに至ったといえるので、不正競争防止法第2条第1号(ロ)目で定める「他人の営業であることを表示した標識」に該当する。それにもかかわらず、原審はCATSが営業の識別標識機能をできずにいると判断したのは不正競争防止法第2条第1号(ロ)目に関する法理誤解に起因するものであるため、原告の上告理由の主張は理由がある。

専門家からのアドバイス

ミュージカル、映画などが有名になった場合、類似の名前を持つ亜流作が作られることが多いものである。一方、韓国の法院はミュージカルや書籍の題目の著作権を否定しているので、著作権以外のどのような方法でミュージカルの題目などを保護できるかが問題になる。

商標登録を保有しているならば、商標権の行使を考慮できる。ただし、書籍の表題・タイトルなどは原則的に普通名称又は慣用標章のように誰でも使用できる標章であるため、商標権の効力が及ばないが、他人の登録商標を定期刊行著作物の表題として使用するなど、特別な場合にはその使用態様、使用者の意図、使用経緯など具体的な事情により、実際の取引界で表題の使用が著作物の出所を表示する識別標識として認識され得るので、その場合には商標権の効力が及ぶというのが大法院の態度である。このような論理は今回の大法院の判決でも適用されたといえる。

即ち、ミュージカルの題目も不正競争防止法上の周知・著名な他人の出所表示と認定され得るかに対し、大法院は同一の題目で複数回公演がなされ、顕著にその題目が個別化された場合には出所表示であると明確に認めたわけである。

2005年のレコードタイトルの無断使用事件でも、ソウル高等法院が同様な趣旨の判断を下したことがあり、この大法院の判決とも合わせ、今後このような論理はミュージカル、映画、書籍、レコードの演目・表題・タイトルなどで適用されていくと思われる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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