知財判例データベース 分離利用が可能な大衆歌謡の歌詞と編曲部分が共同著作物に該当するかどうか

基本情報

区分
著作権
判断主体
大法院
当事者
原告A独立当事者参加人/上告人B vs. 被告/被上告人株式会社C、被告補助参加
事件番号
2013ダ58460著作者確認
言い渡し日
2015年06月24日
事件の経過
確定

概要

463

本件歌は歌詞部分は原告が、編曲部分は編曲者らが各自創作したものであって、歌詞部分と編曲部分を分離して利用することができるので、本件歌は著作権法上の共同著作物ではなく、結合著作物に該当する。

事実関係

原告Aは有名な大衆歌謡作詞家であって、1996年4月26日に独立当事者参加人Bである著作権協会(以下「B協会」)との間に「原告が現在享有している著作権及び将来取得する著作権を5年間信託財産としてB協会に移転し、B協会は原告のために著作権を管理し、これによって得られた著作物使用料などを原告に分配する」という内容の著作権信託契約を締結した。

2002年1月頃、原告Aは被告補助参加人である株式会社D社が発売予定の歌手BoAの第2集アルバムに収録される本件歌の曲(メロディー・和音・リズムなどを含む演奏)が入ったデモテープに合う歌詞の依頼をD社から受け、題名を「ナンバーワン(No.1)」とした歌詞を完成した。このデモテープの曲は、ノルウェー出身の有名な作詞作曲家兼プロデューサーであるZiggyが作ったものであったが、上記アルバムのタイトル曲になり、2002年4月9日にB協会によって本件歌の作詞家として原告が、作曲家としてZiggyが仮登録され、また、韓国と日本で発売された音盤にも本件歌の作詞家として原告が、作曲家としてZiggyが、その他編曲者E、Fらが各々表示されたが、発売当時B協会には作品申告がなされておらず、著作権使用料は原告に分配されなかった。

ところが、音楽出版社である被告C社はB協会に2003年3月6日に本件歌に関する作品申告をするとともに、「被告C社が国内の100%の権利を有している」という書類及び編曲者E、F作成の「著作権持分放棄確認書」を添付し、これに追加して2003年6月26日に「本件歌の作詞、作曲者はいずれもZiggyであり、被告C社が国内管理持分の100%を永久に有する」という内容の確認書を添付した。これによりB協会は2003年3月13日に上記仮登録を解除し、その頃から被告C社に著作権使用料を継続して支払い、その後放映された放送番組やカラオケプログラムでは作詞・作曲ともZiggyと表示されるようになった。原告Aは後になってこの事実を知り、2011年10月頃、B協会に被告C社に対する著作権使用料支払いの保留を要請し、それ以降、本件歌に関する著作権使用料の支払いが停止された(すなわち、被告C社はB協会から2003年6月から2011年10月までの本件歌に関する著作権使用料の支払いを受けた状態である)。

1審法院(ソウル中央法院の単独判事管轄)は、被告C社がB協会に、本件歌の作詞家を原告ではなくZiggyとして申告することにより、放送番組やカラオケプログラムで本件歌の作詞家が原告ではなくZiggyと表示されたため原告Aの氏名表示権を侵害したとし、これによる損害賠償を認め、さらに被告C社がB協会に本件歌の歌詞の著作財産権者として作品申告して得た著作権使用料も法律上の権原なく得たものであるから被告C社は原告Aに上記金額相当を不当利得として返還する義務があると判示した(ソウル中央地方法院2012年5月26日言渡2011ガダン432697判決)。

2審のソウル中央法院の合議体でも、氏名表示権侵害による損害賠償は、1審法院の判決をそのまま認めた。しかし、不当利得返還請求部分については、原告AとB協会の間に著作権信託契約を締結することにより、対内外的に本件歌の歌詞に関する著作財産権中の管理権が原告AからB協会に完全に移転され、著作権使用料を請求する権利は専らB協会のみ有するので、原告Aが著作権使用料を直接請求できることを前提とするこの部分の請求は理由がないとして排斥した。ただし、控訴審法院は、控訴審で独立当事者として訴訟に参加したB協会の不当利得返還請求についてはこれを認容したが、関係権利者に作曲者、作詞者、編曲者がいる場合、作曲者と作詞者の分配比率は各5/12ずつであり、編曲者の分配比率は2/12となっているB協会の音楽著作物使用料分配規定に従って、作詞者の分配比率のうち5/12に該当する金員を被告C社がB協会に支払う義務があると判断した(ソウル中央地方法院2013年7月5日言渡2012ナ24964判決)。

これに対しB協会は、本件歌の音源は共同著作物であって、編曲者の持分放棄による持分率は原告の持分率に従い原告にさらに分配されるべきであるという趣旨で大法院に上告した。

判決内容

著作権法第2条第21号は「共同著作物」を「2人以上が共同で創作した著作物であって、各人の寄与した部分を分離して利用することができないもの」と規定しているので、著作物の創作に複数の者が関与したとしても、各人の創作活動の成果を分離して利用することができる場合には、共同著作物ではなく、いわゆる結合著作物に過ぎないと見るべきである。本件歌中の歌詞部分は原告が、編曲部分は編曲者らが各自創作したものであって、歌詞部分と編曲部分をそれぞれ分離して利用することができるので、本件歌は著作権法第2条第21号で規定する共同著作物ではないと見るのが妥当である。同じ趣旨で、編曲者らが自身の著作財産権の持分を放棄したかどうかと関係なく、作詞者に帰属する著作権使用料を算定するにおいて分配比率として5/12を適用した原審の判断は正当である。

専門家からのアドバイス

著作権に関連する権利侵害など訴訟ケースは、とかく事実関係が複雑でたくさんの当事者が絡む場合が多いが、著作権に関する基本的な考え方を学ぶ意味で、本ケースを観望しておきたい。先ず、一般に大衆歌謡曲などは、曲(メロディ)と歌詞と編曲にそれぞれ独立した著作権が存在している。そして、共同著作物の成立要件として著作権法第2条第21号に「分離利用が不可能であること」が定義されているが、歌詞と編曲を含む楽曲部分は、「ある部分の利用が他の部分の利用と一体化している」とは見難く、したがって、歌詞と楽曲は「分離利用が不可能」なものではないとするのが社会通念にも符合するものである。このような側面において、歌詞と編曲を結合著作物で‎はなく共同著作物と観念付けることには無理があると見られ、この点で大法院の説示は至極妥当であり、共同著作物に関する法理を再確認したところに本件は意味があるといえる。なお、独立当事者として訴訟に参加した著作権協会が主張するように編曲者の持分を作詞家や作曲家に分配しようとするためには、持分放棄の意思ではなく、持分譲渡の意思が表示されるべきであると思われる。‎

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