知財判例データベース 立体的形状に識別力のある文字が付加された構成の立体商標には識別力があると判断された事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告A vs.被告(特許庁長)
事件番号
2014ホ2344
言い渡し日
2014年09月19日
事件の経過
大法院上告

概要

437

特許庁は立体商標について、その文字、記号の結合如何に関係なく立体商標の形状だけで識別力の有無を判断するよう「審査基準第8条」で規定している。本件は、このような審査基準にもかかわらず、立体商標内に文字部分が記載された本件出願商標が全体的に識別力が認められるか否かが問題になった事件である。

事実関係

原告は、2012年1月18日に本件出願商標(下図参照)を商品類区分第10類「Hip joint balls(人工股関節用ボール)等」に指定して国際登録出願をしたが、韓国特許庁は、2013年5月31日に「本件出願商標は中央が凹んだ4つのピンク色の半球状に構成された立体商標であり、たとえ文字などが半球状表面に表示されていても、全体的な形状や模様が取引社会で通常採用できる指定商品の形状や模様の範囲を逸脱しないものなので識別力が不十分であり、商標法第6条第1項第3号に該当する」として拒絶決定をした。

原告はこれを不服として拒絶決定不服審判を請求したものの、特許審判院においても付記されている文字(下図参照)に識別力があるとしても、立体商標の識別力有無の判断には考慮されないので、本件出願商標は商標法第6条第1項第3号に該当すると判断した。これに対し、原告は特許法院に審決取消訴訟を請求した。

判決内容

  1. 商標法第2条1項第1号イ目は「記号・文字・図形、立体的形状又はこれらを結合し、又はこれらに色彩を結合したもの」を標章と規定して、立体的形状のみからなる標章に記号・文字・図形が結合した標章を認めている。
  2. 商標法第6条第1項第3号は、形状を普通に用いる標章のみからなる商標は登録を受けることができないように、また、同法第7条第1項第13号は、商品などの機能を確保するのに不可欠な立体的形状のみからなる商標は登録を受けることができないと規定しており、立体的形状に他の識別力のある構成が結合している商標について登録を受けることができないと規定していない。
  3. また、商標法には立体的形状に文字などが結合した商標において立体的形状のみで識別力を判断するようにする規定がない。
  4. 登録商標の保護範囲は出願書に記載した商標に従って定められるので、立体的形状に文字などが結合された商標はその全体によって保護範囲が定められるのであって、立体的形状のみで定められない。
  5. 本件出願商標の出願書には商標の種類が「立体商標」となっているが、これは単に書式がそうなっているだけで出願人が独自に立体的形状のみを限定して出願したものでもない。
  6. 立体的形状が識別力のある文字などと結合した場合、需要者は文字から商品間の出所を区別するはずである。
  7. 従って、上記のような立体的形状に文字・記号などが結合した商標の登録を許容することは公益や立体商標制度の趣旨に反すると見ることができず、立体商標と文字などの結合商標の識別力はその全体として識別力の有無を判断すべきである(これと関連して、特許庁の「審査基準第8条」は、審査の便宜上定めた内部審査基準に過ぎない)。
  8. これにより、本件出願商標の識別力を詳察すると、その立体的形状は指定商品「人工股関節ボール」の形状に認識され、ピンク色も識別力を付与するものではないと見られるが、「 」部分は造語商標として識別力が認められるので、本件出願商標は全体的に識別力が認められる。

専門家からのアドバイス

特許庁は、音・匂い・色彩など非典型商標については、それ自体が自他商品識別力がないとみて、必ず使用による識別力を取得した後に登録を認めるものとして審査基準で規定している。本審決取消訴訟においても、被告である特許庁側はこのような見解を固守し、立体商標も非典型商標の一種として、それ自体が識別力を備えてこそ商品の出所としてはじめて機能するものであって、識別力のある文字商標が付加されているか否かを考慮してはならないと主張した。たしかに、立体的形状が商品の形状をそのまま帯びている場合が多い点に照らしてみれば、公益的な側面で特許庁の見解も一理あると考えられる。しかし、出願人の商標選択の側面からすると、特許庁が法律で規定しているわけではない「物差し」(審査基準)を用いて出願人にあまりにも厳格な基準を求めていると考えられる側面があることも事実である(実際に立体商標の出願件数は韓国だけでなく世界的に見ても微々たるものである)。文字のみで構成された商標の場合も、識別力がない部分が識別力がある他の部分と結合して結合商標としていくらでも登録が可能な点に照らしてみれば(また、使用によって識別力がなかった部分も事後的に識別力を取得する場合もある)、立体商標だからといって法律で規定してもいない物差しを適用する法的根拠は非常に弱いということは否定できなかろう。このような点に照らしてみれば、特許法院の判決はある程度納得がいくものではあるが、立体商標に関する制度の根幹にかかる部分であるだけに、今後の大法院の判断がどうなるかは予断を許さないと思われ、それによって審査基準がどのような影響を受けていくのか、その帰趨を見守る必要があろう。

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