知財判例データベース 通関保留になった被疑物品が後日非侵害となった場合に、権利者の侵害品であるという趣旨の鑑定や捜査過程での陳述は反社会的な不法行為を構成しない
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- ソウル中央地方法院
- 当事者
- 原告(被控訴人)A vs.被告(控訴人)株式会社バーバリーコリア
- 事件番号
- 2013ナ56227
- 言い渡し日
- 2014年08月28日
- 事件の経過
- 大法院上告
概要
432
税関での商標権や著作権侵害の被疑物品に対する通関保留の際には、権利者に鑑定結果に対する民・刑事上の責任を負うという内容が記載された鑑定書の提出が要求されるが、この被疑物品が、後になって商標権侵害でないと判断された場合でも、権利者による鑑定や陳述は捜査機関が参考にするための意見の提示に過ぎず、また、事実関係に対する虚偽の陳述や通関申請者を害する目的がないことが明白であるなら、国の捜査要請に協力したに過ぎない行為として、反社会的な不法行為とは言えない。
事実関係
被控訴人(原告、以下「原告」)は、中国のショールメーカーJ社から製品を買い入れることにしたが、そのデザインが控訴人(被告、以下「被告」)の登録商標と類似して見えることから、デザインを一部変更して再びJ社に同製品の製造を依頼し、2010年10月に中国で生産したショール(以下「本件製品」)を輸入しようとした。しかし、仁川税関は被告の商標権(以下「本件登録商標」)を侵害するおそれがあると見て、被告に対して真偽の確認を依頼した。
このような依頼を受け、被告は2010年11月に「鑑定の結果、本件製品は模倣品と見られ、同鑑定結果により発生する全ての民・刑事上の責任を負うことを確約する」という内容の確認書を作成して仁川税関に提出した。本件製品は、仁川税関によって通関保留とされるとともに、仁川税関所属の特別司法警察官による捜査手続が開始され、その結果、本件製品は本件登録商標の商標権を侵害したとして検察に送致、商標法違反で起訴された。しかし、ソウル中央地方法院は本件製品の地の色、線の太さ、格子柄の反復度等で多くの差があり、本件登録商標と非類似であると判断し、その控訴審でも同じ事由で却下して結局無罪判決が確定した。その後、原告は、無実であるにもかかわらず商標法違反で起訴され裁判にまで巻き込まれて相当な精神的・財産的被害を被ったとしながら、国と被告を相手取って損害賠償を請求したところ、ソウル中央地方法院は両社の製品にはかなりの差があり、専門家であれば商標権侵害でないことが十分に分かったにもかかわらず、これをよく知る被告が積極的に商標権侵害を主張して原告に財産上の損害を負わせたとして、被告に1000万ウォンの賠償を命じた(ただし、共同被告である国に対しては、税関は確認書を信じて通関を保留としたため職務上過失があるとは断定し難いとして責任を認めなかった)。この原審判決に対して被告は控訴をするに至った。
判決内容
- 本件捜査は仁川税関長の認知事件であり、原告も最初のモデルが誤認混同のおそれがあると見て自らデザインを修正、削除した点に照らしてみれば、たとえ後で商標権侵害が無罪と確定したとしても、本件製品は一見有名な被告の本件登録商標と類似すると見られる余地もある点、
- 税関に提出する侵害についての陳述者の見解は、捜査機関が参考にするための意見の提示に過ぎず、確認書上の「鑑定結果により発生する全ての民・刑事上の責任は被告が負う」という表現は、事実関係に対する虚偽の陳述や相手方を害する目的が明白な場合に限定して解釈すべきである点、
- 原告に対する通関保留の根拠である関税法第235条第7項は、税関長の職権保留を規定したもので、知的財産権者が担保及び損害賠償の覚書を提供して通関保留を要請するようにするその他の規定とは責任を異にして見るべき点、
- 被告が原告の業務を妨害したり損害を与えるために虚偽の証拠を提出する等の状況が見られない点、
- 通関保留及び裁判で発生した原告の損害について、被告に全ての責任を負わせるようにすると知的財産権者の権利保護を大きく後退させ、不当な通関保留による被害の補填は他の方法を模索することが妥当な点、
以上を総合してみれば、被告は国の捜査要請に協力したに過ぎず、原告に対する反社会的な不法行為を構成するとはいえないので、損害の範囲に関して詳察する必要なく原告の主張は理由がない。よって被告敗訴部分を取り消し原告請求を棄却する。
専門家からのアドバイス
模倣品であるか否かについて税関から鑑定の要請があった場合、権利者側としては自社商標の保護のために迅速かつ積極的に協力せざるを得ない。また、商標権の侵害か否かは最終的に法律的判断が伴うものであり、本件は特に標章の外観の類否が問題になった件で、容易でない類否判断が必要であった。原告も当初、ショールのデザインが被告の商標と類似すると考え、デザインを多少変更した点に照らしてみると、一審法院が被告にだけ民事責任を負わせたことは権利者にとって苛酷過ぎる面がある(一審判決が下された当時は、権利者の「勇み足」を懸念する向きもあったが、現実的にはバーバリーコリアは今も税関から模倣の疑いのある商品に対する鑑定書の要請を数多く受けているはずである)。また、虚偽の証言をするなどの特別な事情がないにもかかわらず、確認書の提供や模倣品である旨の陳述など、権利者の捜査過程への協力に対して責任を問うことは、今後、権利者が商標権等の権利保護を主張するのに大きく影響するおそれがあり、模倣品に対する税関の積極的な捜査を萎縮させることもあり得るという面で、控訴審の判決には確かに一理ある。ただし、同時に考慮すべきことは、確認書の提出によって通関保留処分を受ける(善意で無実の)輸入業者の利益である。本件でも輸入業者は3500万ウォン以上の仕入れ代金のうち約2500万ウォンを支払った状態で、2年もの間、商品の通間保留と捜査を受けるなどの不便さと苦痛を経験した末に損害賠償を請求するに至っている。
本判決は、現在大法院に上告中ではあるが、仮に大法院でも権利者が確認書を提供する等の行為は不法行為ではないと判断されるとしても、確認書のような法律文書は、将来面倒な争いが起きるのを防ぐためにも提出する前に権利侵害や商標類否に係る慎重な法律的判断が必要な点(本件登録商標は色彩商標であり、模様や柄だけではなく色合いも十分に考慮する必要がある)や、簡単な書面でも法律用語の使用にはより万全を期するべき点など、示唆するところが大きい事案である。
なお、2013年7月1日から施行されている「関税庁告示第2013-61号」では、権利者に偏った侵害判定手続を補完するために、「権利者の鑑定書」による職権通関保留基準を削除し、「物品の性状、包装状態、原産地、積出国、申告金額などを総合的に判断して当該物品が知識財産権を侵害したことが明白な場合など」に税関長が職権で通関保留措置をとれると関連規定を改正した。ただし、実務的には、税関長が侵害が明白な物品であるか否かを判断する際、鑑定書や確認書は依然として補助的手段として活用されている。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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