知財判例データベース 職務発明の発明者が社外の共同発明者に自身の「特許を受ける権利」を譲渡し、単独で特許権者になった状況で、会社側が損害賠償及び特許権移転登録を請求した事案

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告(使用者)vs. 被告1(社外発明者)、被告2(従業員)、他
事件番号
2011ダ77313特許出願人名義変更 2011ダ77320(併合)損害賠償
言い渡し日
2014年11月13日
事件の経過
被告ら敗訴部分を破棄差戻し

概要

438

職務発明を完成した従業員(発明者)が、その事実を使用者(会社)に知らせず「特許を受ける権利」を社外の共同発明者に譲渡し、この社外の共同発明者が単独で特許権登録まで終えた場合に、上記職務発明の完成事実を知るようになった使用者は、上記従業員に対して従業員の持分について特許権移転登録請求権を有すると見るのが相当である。また、上記譲渡は民法第103条で定めた反社会秩序の法律行為として無効といえるので、使用者は上記特許権移転登録請求権を被保全債権として従業員が有する社外発明者に対する特許権移転登録請求権を代位行使することができるといえる。ただし、使用者が社外発明者に対し直接移転登録を請求することは認められない。

事実関係

原告会社は2007年4月30日に精密アルミニウムダイカスティング部品の製造・供給等を目的として設立された法人であって、2007年10月頃、株式会社カンタムエンジニアリング(以下「被買収会社」という)から資産を譲り受け、情報通信機器用部品の製造及び販売等を目的とする被買収会社の事業を引き継いで営為している。携帯用電子製品の部品製造に適した軽量高強度ダイカスティング用合金である「Q22合金発明」は、被買収会社の代表理事であった被告2(以下「従業員」とする)と被買収会社外の第三者である被告1(以下「社外発明者」とする)が共同で開発した後、従業員の有する「特許を受ける権利」を原告会社に移転せず、上記社外発明者の単独名義で特許登録を受け、従業員他の斡旋で社外発明者は株式会社サンムン、株式会社ソンプン非鉄金属との間にQ22合金に関するライセンス契約を締結した。これに対し原告会社は、従業員と社外発明者を相手取って損害賠償を請求すると共に社外発明者に原告会社への特許権移転登録を請求した。

これについて原審は、従業員がQ22合金を単独で発明したという前提で、株式会社ソンプン非鉄金属から技術料として支払われた1565万8814ウォン全額を損害額と判断すると共に、社外発明者の特許は、「無権利者の特許出願」[1]であるため、特許権登録の無効後に原告会社名義で改めて出願をして特許を受けられるかどうかは別論とし、原告会社への移転登録を求めることはできないと判断した。従業員と社外発明者は損害賠償の敗訴部分に関して上告し、原告会社は特許権移転登録請求の敗訴部分に関して附帯上告を提起した。

判決内容

原審判決の理由及び記録から、Q22合金の発明者は、被告2(従業員)、被告1(社外発明者)であることが認められ、従業員と原告会社との約定により、従業員がその職務発明について原告会社に「特許等を受ける権利」や特許権等を承継させる場合には、原告会社に対して正当な補償を受ける権利を有しており、そして、携帯用電子製品の部品製造に適した軽量高強度ダイカスティング用合金の開発は原告会社の業務に属し、従業員は原告会社の理事であるとともに、Q22合金のような最適な合金の開発を試みて完成しようと努力することが一般に期待される者に該当するから、本件発明は従業員の職務発明であると認められる。

職務発明に関する「特許を受ける権利」等を使用者に承継させる旨を定めた約定または勤務規定の適用を受ける従業員は、使用者がこれを承継しないことを確定するまで任意に上記約定の拘束から抜け出せない状態にあり、その発明の内容に関する秘密を維持したまま使用者の特許権など権利の取得に協力すべき信任関係にある。従って、従業員が職務発明の完成事実を使用者である原告会社に知らせず、「特許を受ける権利」を社外発明者に譲渡し、社外発明者が特許権登録まで終えたのであれば、これは原告会社に対する背任行為として不法行為になるといえる。よって、従業員と社外発明者は共同不法行為者として原告会社に対して損害を賠償する責任を負う。

しかし、Q22合金は従業員と社外発明者が共同で発明したものであって、Q22合金発明に関する技術料の中でその持分に相応する金額のみを損害額として算定し、賠償を命じなければならなかったにも拘わらず、技術料として支払いを受けた1565万8814ウォン全額を原告会社が受けた損害額であると判断したことは、審理未尽の違法がある。

上記職務発明の完成事実を知るに至った原告会社としては、従業員に職務発明事前承継約定等によって権利承継の意思を文書で知らせることにより、従業員に対して特許権移転登録請求権を有するようになったと見るのが相当である。また、原告会社はこの特許権移転登録請求権を被保全債権として、従業員の社外発明者に対する特許権移転登録請求権を代位行使することができるといえる。原告会社は、社外発明者により登録された特許権のうち、従業員の持分について社外発明者を相手取って従業員を代位して従業員に移転登録することを請求し、同時に従業員を相手取って原告会社に順次移転登録することを請求できることは別論として、社外発明者から直接原告会社に移転登録することを請求することはできないといえる。

原審は、社外発明者の特許出願が無権利者の特許出願に該当することを理由として原告会社が社外発明者にその特許権について原告会社への移転登録を求めることはできないと判断した。原審のこのような判断は、Q22合金発明に関する「特許を受ける権利」がすべて原告会社に帰属することを前提としたものであって、その理由説示に不適切な部分はあるが、結論においては正当である。従って、原告会社の附帯上告理由の主張は受け入れられない。

専門家からのアドバイス

職務発明に関連して使用者である会社に承継規定があるにもかかわらず、第三者に「特許を受ける権利」を譲渡し、第三者が特許権者になった場合において、使用者が損害賠償及び特許権移転登録を請求した事案で、以下の3つの点に注目しておきたい。

第1に、発明振興法では、職務発明以外の従業員等の発明について予め使用者等に承継させる契約や勤務規定の条項は無効と規定しており、社員が会社に勤務しながら成した発明は無条件に職務発明として会社に承継されるものではないことを先ず留意しておきたい。会社が従業員の発明に権利を有するかどうかは、勤務規定の文言そのものよりは、発明振興法の趣旨と発明の実質(使用者の業務範囲であって、従業員の業務内容上、期待される発明かどうか)によって決定されるのである。

次に、本事案では、社外発明者が従業員と共謀して単独で特許出願をして特許権者になったので、原告会社に対する背任行為として共同不法行為者であると判断している点である。このケースでは、社外発明者と従業員とがよく知る間柄であったことから共同不法行為者となったが、原告会社に「特許を受ける権利」が承継される予定であることを知ることができない善意の第三者であった場合には判断が異なり得る。ただし、その場合にも、「特許を受ける権利」を原告会社と社外発明者に二重に譲渡契約をしたことは無効なので、社外発明者は不当利得返還の責任は免れないであろう(譲渡人である従業員に契約による損害賠償責任を問うことは別論とする)。

最後に、「特許を受ける権利」が共有であるにも拘わらず、どちらか一方が単独で(複数人の共有の場合は一部の者が)出願して特許となった場合、欠落した権利者が事後的に取れる措置についての問題である。特許法上、「特許を受ける権利」の承継人でない者(無権利者)の出願については正当な権利者を保護する規定と、「特許を受ける権利」が共有の場合に全員で出願をしなければならないという規定は別途にあり、欠落した権利者が取れる措置について常に論争があった。つまり、出願係属中であれば、出願人名義変更を通じて拒絶理由を解消できるが、特許が許与された場合、無効事由がある特許権に対して移転登録ができるかということである。無権利者の出願の場合、その理由で特許が無効とされ、正当な権利者が出願した場合、無権利者が出願した時に出願したものとみなされるので、新規性等は問題にならないが、共有者が欠落していることを理由として特許が無効とされた場合、共有者全員で出願し直すとしても、正当な権利者を保護する規定の適用を受けないので出願日が遡及せず、新規性等が問題になるためである。本判決では、「特許を受ける権利」の共有者が自らの持分に基づき特許権の移転請求ができることを認める前提のもとに判示が展開された。即ち、「特許を受ける権利」の承継人である原告会社は、従業員に特許権移転請求をすることができ、この債権を被保全債権として社外発明者に従業員の持分に関する特許権移転請求を代位行使することができると判示したのである。従って、「特許を受ける権利」が共有であるが、自身が欠落したまま出願及び特許となったことを知るようになった共有者としては、事後に特許権持分の移転請求をして権利を回復することができることを確認したという点にこの判決の意味がある。

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