知財判例データベース 他人の著作物であるロゴ図案の描かれたTシャツを着たモデルの写真は著作権侵害に該当するか
基本情報
- 区分
- 著作権
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- ○○○外1人(被告人)vs. 検事(上告人)
- 事件番号
- 2012ド10786
- 言い渡し日
- 2014年08月26日
- 事件の経過
- 原審判決破棄差戻し
概要
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写真撮影や録画などの過程で原著作物がそのまま複製された場合、新たな著作物の性質、内容、全体的な構図などに照らしてみて、原著作物が付随的に用いられてその量的・質的割合や重要性が軽微な程度を超えて、新たな著作物において原著作物の創作的な表現形式がそのまま感じられるならば、これらの間に実質的類似性が認められる。一方、著作権法上公表された著作物の引用として正当化されるためには、引用著作物が被引用著作物を単に代替する水準を超えてそれと別個の目的や性格が認められなければならず、実質的な需要代替効果が発生してはならない。
事実関係
被告人らはインターネット上で写真の譲渡、利用許諾を仲介するフォトライブラリ(photo library)業を営む者であるところ、2002年韓・日ワールドカップ当時に広く用いられていた「Be The Reds」という応援文句を図案化した本件著作物「」が描かれたTシャツなどを着用したモデルを撮影した写真を自身のウェブサイトに掲示した行為が著作権侵害となるかどうかが刑事事件で争われた。
原審判決[1](ソウル西部地方法院2012年8月23日言渡2012ノ260判決)は、本件著作物はその素材である応援文句のアピール力、国民の集団的な応援活動という社会的・文化的背景、その事業的・機能的な性格に照らして保護範囲が制限的であり、本件著作物は写真において占める位置・大きさ・割合などに照らしてみて、間接的・付随的に用いられたものに過ぎず、本件写真において本件著作物の創作的な表現形式を直接感得するのが困難で、本件写真が本件著作物の著作権者が営んでいた商品化事業を直接侵害してもいないとし、結局、本件写真は本件著作物と実質的類似性が認められないか、被告人らが本件著作物が表現されている本件写真をウェブサイトに掲示するに伴う本件著作物の複製は著作権法第28条が規定した公表された著作物の引用に該当するというなどの理由で被告人らに無罪を言渡た。
判決内容
- 写真撮影や録画などの過程で原著作物がそのまま複製された場合、新たな著作物の性質・内容・全体的な構図などに照らしてみて、原著作物が新たな著作物の中で主な表現力を発揮する対象物の写真撮影や録画などに従属的に伴ったり偶然に背景として含まれる場合などのように付随的に用いられてその量的・質的割合や重要性が軽微な程度にとどまるものでなく、新たな著作物において原著作物の創作的な表現形式がそのまま感じられるならばこれらの間に実質的類似性が認められる。ところが、本件著作物の創造的個性は伝統的な毛筆体を用いて、躍動的で臨場感のある応援の感覚を表現している図案自体にある。本件写真の一部写真には本件著作物の本来の様相が完全に又は大部分認識可能な大きさと形態で写真の中心部に位置しており、その創造的個性がそのまま複製されており、本件著作物の上記のような創作的要素に含まれているワールドカップの応援文化に対する象徴性と本件侵害写真の性質・内容・全体的な構図などに照らしてみて、本件著作物はワールドカップの雰囲気を形象化しようとする上記写真の中で主な表現力を発揮する中心的な撮影の対象の1つであり、本件著作物に表現されている躍動的で臨場感のある応援の感覚が本件侵害写真の中でもそのまま再現され、全体的に感じられる写真の個性と創造性に相当な影響を与えているので、本件侵害写真において本件著作物の創作的な表現形式がそのまま感じられる以上、上記写真と本件著作物間に実質的類似性があると見なければならない。
- 著作権法第28条は、公表された著作物は報道・批評・教育・研究などのためには、正当な範囲内において公正な慣行に合致するようにこれを引用できると規定しており、正当な範囲内において公正な慣行に合致するように引用したものかどうかは、引用の目的、著作物の性質、引用された内容と分量、被引用著作物を収録した方法と形態、独自の一般的観念、原著作物に対する需要に代替するかどうかなどを総合的に考慮して判断しなければならず、この場合、必ず非営利的な利用でなければならないわけではないが、営利的な目的のための利用は非営利的な目的のための利用の場合に比べて自由利用が許容される範囲が相当狭くなる。被告人らが本件侵害写真をウェブサイトに掲示した行為は営利を目的としたものである。また、本件侵害写真の場合、ワールドカップの雰囲気を表現するためにワールドカップの応援文化を象徴する本件著作物を特別な変形なしに撮影して作ったものである以上、本件著作物を単に代替する水準を超えてそれと別個の目的や性格を有するようになると見ることができない。また、本件侵害写真には本件著作物の本来の様相が完全に又は大部分認識が可能な大きさと形態で写真の中心部に位置しており、量的、質的に相当な割合を占めている。このような事情であるにもかかわらず、被告人らがこれをウェブサイトに無断に掲示してその譲渡・利用許諾仲介業をできるようにするならば、市場において本件著作物の需要に取って代わることによって結果的に著作権者の著作物利用許諾による利用料収入を減少させるものと見られる。上記のような事情を総合すれば、被告人らがウェブサイトに掲示した本件侵害写真において、本件著作物が正当な範囲内において公正な慣行に合致するように引用されたものと見難い。
- それにもかかわらず、原審は、本件写真と本件著作物の創作的な表現形式の実質的類似性について個別に対照・比較せずに、本件写真がいずれも本件著作物と実質的類似性が認められないか、本件著作物が正当な範囲内において公正な慣行に合致するように引用されたという趣旨で判断したところ、これは著作権侵害に関する法理を誤解することによって判断を誤ったものであるため、原審判決を破棄し、事件を再度審理・判断させるために原審法院に差し戻すことにする。
専門家からのアドバイス
本件は、他人の既存の著作物を写真に撮った場合が問題になったものである。既存の著作物がその写真に付随的に用いられたため著作権侵害ではないという安易な結論を避け、該当写真に含まれた他人の著作物の具体的な利用様態を詳しく見て、著作物の本来の様相が完全に又は大部分認識可能な大きさと形態で写真の中心部に位置し、その創造的個性がそのまま示されているならば著作権侵害が成立するという基準を提示したところに意味がある。
写真が販売など取引の対象になる限り、写真に写り込んだ著作物の公表如何は開放された場所などで常時公開されているかどうかとは関係なく著作権侵害の判断において特に参酌されない。著作権侵害の判断は、本件のように著作物が写真において中心的に用いられ、写真を通じても当該著作物の創造的個性がそのまま表されているか、そうではなくて、偶発的または付随的、周辺的に用いられたかという点によって左右されるものである。実務的に他人の著作物が写ったイメージを使用したり販売するにおいては、このような側面で他人の著作物に対する細心の注意を傾けることが必要である。
注記
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小規模事件は「単独判事管轄事件」として地方法院で単独判事が1審を担い、同じ地方法院の控訴部(判事3名の合議体)で2審が行われ、これが控訴されると、大法院への上告となる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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