知財判例データベース 原告が著作権侵害による損害賠償額の具体的な証明ができず、法院が著作権法第126条を適用し損害賠償を命じた事例
基本情報
- 区分
- 著作権
- 判断主体
- ソウル西部地方法院
- 当事者
- 原告v被告
- 事件番号
- 2013カ単218890 判決
- 言い渡し日
- 2014年02月06日
- 事件の経過
- 原告請求を一部認容
概要
413
原告が著作権侵害による損害賠償額の具体的な証明ができず、法院が著作権法第126条を適用し損害賠償を命じた事例
事実関係
原告は、小説Aの著作権者であり、被告は、インターネットウェブハードサイトに原告の小説Aの第1、ないし6巻を違法伝送、流通させた。原告は被告に対し、著作権侵害に対する損害賠償として400万ウォンを請求した。
判決内容
本件において裁判所は、被告の侵害行為により原告に損害が発生した事実は認められるが、原告が提出した全ての証拠を総合しても、その侵害行為と相当因果関係がある現実的な損害額の具体的な立証が不十分であるため、著作権法第126条により、本法院が弁論全体の趣旨と証拠調査の結果に基づき相当な損害額を認めるとし、被告の年齢及び違法行為の期間、侵害された原告小説の巻数、被告がアップロードしたファイルの第3者によるダウンロード回数が明確に分からないこと、その他、本事件の弁論過程で現れた全ての事情を総合し、損害賠償額を1,500,000ウォンに認定した。
専門家からのアドバイス
韓国の著作権法第125条は、著作権侵害による損害額の算定に対する特則をおいている。しかし、これは、著作権者の損害額に対する立証の負担を軽減させるためのもので、一般違法行為に対する民法第750条の特則であるため、著作権者は、これを援用せず、直ちに民法の法理に基づき損害賠償を求めることももちろんできる。そして、著作権法第125条第1項による損害額の推定(侵害者利益刑)であっても、第125条第2項の推定(使用料刑)であっても、そうした推定のための起訴事実を証明しなければならないが、本事案には、そうした起訴事実が証明されず、著作権法第125条で解決できない事案であった。そのため、法院は、著作権法第126条により、「法院は、損害が発生した事実は認められるが、第125条の規定に基づく損害額を算定することが難しい場合には、弁論の趣旨及び証拠調査の結果を参酌し、相当な損害額を認めることができる」という規定に基づき、原告が請求した金額の一部である150万ウォンを損害額として認めたものである。特許法、著作権法、不正競争防止法などにも同様の規定があり、これにより損害賠償を受けることができることを念頭に置くことができるが、一方で、この規定により認められる損害賠償額は、実務上大きくならないということもともに留意する必要がある。また、以前、本判決事例で紹介した他の事例にもみられるように、韓国では、損害賠償額推定のための証拠を提出した場合であっても、法院による損害額の算定規定を適用する事件が少なくなく、韓国における知的財産権侵害事件の損害賠償額が他国と比べ比較的低額とされる一因になっているようにも思われる。
なお、これと関連して、韓国の著作権法では、法廷損害賠償(statutory damage)条項も導入されており、賠償額の上限が限られる(侵害された各著作物などごとに1千万ウォン(営利を目的に故意に権利を侵害した場合には5千万ウォン))ものの、簡便な方法として、これを活用することも一案であろう(商標も同様)。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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