知財判例データベース 無権利者によって特許権の設定登録がなされた場合にも、正当な権利者が無権利者に対して直接特許権の移転登録を求めることはできないと判示した事案

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告 vs. 被告
事件番号
2012ダ11310判決
言い渡し日
2014年03月20日
事件の経過
上告棄却

概要

419

正当な権利者から特許を受けることができる権利の承継を受けていない無権利者の特許出願によって特許権の設定登録がなされた場合にも、正当な権利者が無権利者に対して直接特許権の移転登録を求めることができないと判示した事案

事実関係

本件特許発明については、原告のみが出願する権利を有するが、被告が原告から事業の提案を受けた際に本件特許発明の内容に関して知るようになったのを奇貨として本件特許を無断で出願して特許を受けたという理由を以って、被告を相手取って特許権移転登録を求めた原告の請求に対し、ソウル高等法院は「仮に被告の出願がいわゆる冒認出願であるとしても、真正な発明者である原告としては、これを原因として本件特許について登録無効審決を受けた後30日以内に出願をすることにより権利を回復すべきであり、被告を相手取って既に登録された特許の移転登録を求めることはできない」と判示し、原告はこれを不服として上告していた。‎

判決内容

大法院は、高等法院と同様の趣旨で上告を棄却した。即ち、「発明をした者またはその承継人は、特許法で定めるところに従って特許を受けることができる権利を有する(特許法第33条第1項本文)。もしこのような正当な権利者でない者がした特許出願について特許権の設定登録がなされれば、特許無効事由に該当し(特許法第133条第1項第2号)、そのような事由で特許を無効にするという審決が確定した場合、正当な権利者は、特許の登録公告があった日から2年以内または審決が確定した日から30‎日以内という期間内に特許出願をすることにより、特許の出願時に特許出願したものとみなされ、救済を受けることができる(特許法第35条)。このように特許法が先出願主義の一定の例外を認めて正当な権利者を保護している趣旨に照らしてみると、‎正当な権利者から特許を受けることができる権利の承継を受けていない無権利者の特許出願によって特許権の設定登録がなされたとしても、特許法で定めている上記のような手続によって救済を受けることができる正当な権利者としては、特許法上の救済手続に従わずに無権利者に対して直接特許権の移転登録を求めることはできない」と判示した。‎

専門家からのアドバイス

本件特許発明は、冒認出願をして登録を受けた特許権について、出願することができる権利の譲渡を受けた事実なしに無断で出願して特許登録決定を受けたものであるから、正当な権利者(発明者)にこの特許権を返還(移転登録)する義務があるという主張は、韓国の特許実務界で物議を醸した。‎

本件でソウル高等法院と大法院が取った態度と同様に、韓国特許法の解釈上、直接移転請求権を付与する規定がないので、解釈論としては一旦無効化した後に自身が別途の出願をして権利を取得すべきであるという否定説を採る見解がある一方で、正当な権利者の立場では既に無権利者によって出願された特許権の移転を受ければよいものを、無用な手続を別途に経させて簡易な手続を迂回させ、また、不動産登記の場合にも抹消登記を順次せず、最終的な登記名義者から真正な登記名義の回復を求める訴訟をすることができるようにしており、無権利者が出願した特許権の移転を受ける場合について敢えて異なって解釈する理由がないという肯定説もあった。‎

今回の本判決を通じ、実務上の見解対立の中で否定説を採ることに法院の判例が整理されたことになり、今後は正当な権利回復を求めようとする者は、特許の登録公告があった日から2年以内または特許無効審決確定後30日以内という期間を遵守して特許出願を再びしなければならないことが明確に示された点で、実務者にとっては大変参考となる事例である。‎

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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