知財判例データベース 起亜自動車のグリル模様の著作権侵害が問題となった事案において、原告のスケッチと被告らのデザインの類似性が顕著ではないとし、依拠性を否定した事例

基本情報

区分
著作権
判断主体
大法院
当事者
原告 vs 被告(起亜自動車株式会社 外2人)
事件番号
2012ダ55068判決
言い渡し日
2014年05月16日
事件の経過
上告棄却

概要

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起亜自動車のグリル模様の著作権侵害が問題となった事案において、原告のスケッチと被告らのデザインの類似性が顕著ではないとし、依拠性を否定した事例

事実関係

原告は2005年8月頃に自動車グリルのデザインスケッチをし、2005年8月21日に現代自動車株式会社のウェブサイトの掲示板に「デザイン提案」という件名で、「原告のスケッチ」をはじめとした環境対応車のグリルスケッチ計4個を掲示した。被告の起亜自動車株式会社(以下「被告1」)は、2006年5月に統一されたデザインを通じてブランドのアイデンティティを強調できるファミリールック(Family Look)の開発を始め、2006年9月頃にドイツ出身の世界的に著名なデザイナーをデザイン総括責任者として迎え入れた。その結果、2008年6月頃に新たな自動車を市場に投入するとともに、下記「被告らのデザイン」を採択し、その後、被告1が市場に投入した大部分の車種にこれと類似の形態のグリルを装着した。一方、被告1は同じ現代自動車グループに属する被告の現代自動車株式会社などと共同で、2008年9月2日に被告らのデザイン及びこれをわずかに変形したグリルデザインについて被告1の先行デザインチーム社員を創作者としてデザイン権の登録を済ませた。原告は、被告1が自身のスケッチを盗用したとし、2009年12月に2億ウォンの賠償を請求する訴訟を起こした。しかし、本件原審であるソウル高等法院(2011ナ56509判決)は原告の請求を棄却し、原告はこれを不服として大法院に上告した。


左側 [原告のスケッチ]右側 [被告らのデザイン]

判決内容

大法院は「依拠関係は、既存の著作物に対する接近の可能性及び対象著作物と既存の著作物間の類似性が認められれば推定でき(大法院2007年12月13日言渡2005ダ35707判決参照)、特に対象著作物と既存の著作物が独立的に作成されて同じ結果に至った可能性を排除することができる程度の顕著な類似性が認められる場合には、そのような事情だけでも依拠関係を推定できる。また、両著作物間に依拠関係が認められるかどうかと実質的類似性があるかどうかは互いに別個の判断であって、前者の判断には後者の判断とは異なり、著作権法によって保護を受ける表現だけでなく、著作権法によって保護を受けられない表現などが類似するかどうかもともに参酌され得る(大法院2007年3月29日言渡2005ダ44138判決参照)」という法理を説示することにより、本事案の場合、顕著な類似性を認めるのが難しく、また、原告が提出した証拠だけでは、原告のスケッチに対する被告らの接近の可能性を認めるのに不十分であるとし、依拠性を否定した。

専門家からのアドバイス

著作権法が保護する複製権が侵害されたとするためには、依拠性と実質的類似性が認められなければならない。著作権は既存の著作物より先に創作された著作物があるとしても、既存の著作物と関係なく独立的に創作されたと見るだけの間接事実が認められる場合には、著作権侵害を認めない。つまり、依拠性が著作権侵害の重要な要件になるのである(特許法、意匠法、商標法などの知的財産法では偶然の一致による実施や使用も侵害行為とみなされる)。一般に依拠性が認められるためには、侵害者が被害者の著作物の表現内容を認識し、被害者の著作物を利用する意思があり、実際に被害者の著作物を利用する行為をしていなければならない。ところが、このような依拠性を証明することは、実務上容易ではないため、依拠性は間接事実による推定を通じて立証されるのが普通である。このような点で、まず被害者の著作物と侵害著作物間に実質的類似性が認められる場合、侵害者が被害者の著作物に接近したと見るのが合理的であると考えられる程度の相当な接近性が認められれば、依拠性が推定されるというのが大法院の判例である(大法院2007年12月13日言渡2005ダ35707判決)。

本件で問題となった「被告らのデザイン」は、いわゆる「虎の鼻グリル」と呼ばれる起亜自動車の前面部分のラジエータグリルに適用されたデザインで、グリルの中央部分が上下にくぼんでおり、あたかも牙を剥いた虎の鼻に似ているとして付けられた名称である。本件で原告は、著作権侵害が認められるために必要な要件としての依拠性証明のための間接事実として実質的類似性を証明できずに敗訴した。法理的に、依拠性での実質的類似性と著作権侵害証明のための別途の要件としての実質的類似性の区別が問題となるが、大法院は依拠性判断のための間接事実としての実質的類似性が、著作権法によって保護され得ない表現まで含む点で区別されるということを明確にしている。

産業デザインが次第に企業競争力の核心として認識されてきている最近の企業環境において、産業デザインと著作権との侵害関係について所定の法理を示した大法院判決として、意味のあるケースであると思われる。

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