知財判例データベース ライセンス契約後に特許が無効になった場合、実施料の返還は不要

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告(反訴被告)株式会社ジーケイvs.被告1外1(反訴原告)
事件番号
2012ダ42666(本訴)株式譲渡など、2012ダ42673(反訴)契約無効確認
言い渡し日
2014年11月13日
事件の経過
上告棄却確定(反訴部分)

概要

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特許発明実施契約(ライセンス契約)の締結後、契約の対象になった特許が進歩性がないという理由で無効が確定した場合、上記の実施契約が原始的履行不能状態とは言えないため、ライセンス契約を錯誤を理由に取り消しとすることはできず、特許権者がすでに支払った特許実施料を返還する義務はない。

事実関係

反訴被告である特許権者は、自身の2件の特許に対し反訴原告である実施権者と2009年4月21日付で特許実施契約を締結した。契約締結後、実施権者はその特許に関する登録無効が確定する前、特許に関する実施の対価として特許実施料(技術使用料)を特許権者に支払った。その後、特許発明実施契約の対象になった原告の2件の特許について2010年6月23日及び2010年9月30日、各々進歩性がないという理由で特許無効審決が下され確定した。これに対して、実施権者は特許無効審決確定により実施契約の対象である特許が遡及的無効による契約の原始的履行不能状態にあったため、反訴被告が支払われた特許実施料を不当利得として実施権者に返還する義務があり、また、錯誤を理由にライセンス契約は取り消されなければならないと主張したが、これを高等法院は棄却し、実施権者はこれを不服とし大法院に上告した。

判決内容

大法院は、特許発明実施契約が締結された後でその契約対象である特許の無効が確定した場合、特許権は特許法第133条第3項の規定により初めからなかったものと見なされるが、特許発明実施契約によって特許権者は実施権者の特許発明実施に対し特許権侵害による損害賠償でもその差止などを請求できなくなるだけでなく、特許の無効が確定する前に存在する特許権の独占的・排他的効力によって第三者の特許発明実施が差止めとなる点に照らしてみると、「特許発明実施契約の目的となった特許発明の実施が不可能な場合」でない限り、特許無効の遡及効にもかかわらず、そのような特許を対象にして締結された特許発明実施契約がその契約の締結当時から原始的に履行不能状態にあったと見ることはできず、ただ特許無効が確定した場合はその時から特許発明実施契約は履行不能状態に陥ることになると判断した。

これにより、大法院は、「特許発明実施契約締結後に特許の無効が確定したとしても、特許発明実施契約が原始的に履行不能状態にあったとか、その他に特許発明実施契約自体に別途の無効事由がない限り、特許権者が特許発明の実施契約により実施権者から既に支払われた特許実施料のうち、特許発明実施契約が有効に存在する期間に相応する部分を実施権者に不当利得として返還する義務はない」と判示すると同時に、「特許はその性質上、特許登録後に無効になる可能性が内在しているという点を勘案すれば、契約締結後に特許の無効が確定したとしても、その特許の有効性が契約締結の動機として表示され、それが法律行為の重要部分に該当するなどの事情がない限り、錯誤を理由に特許発明実施契約を取り消すことはできない」と判示した。

専門家からのアドバイス

本判決は特許権者と実施権者間で特許ライセンス契約が締結された後、その契約対象になった特許に関する登録無効審決が確定した場合に対し特許法第133条第3項に規定された無効審決の遡及効によってライセンス契約が原始的に履行不能状態にあるとみることができないという点(契約は無効が確定した時から履行不能状態に陥る)を明らかにして無効審決確定前まで契約による実施権の利益を受けた者がその補償として支払った実施料の部分は不当利益返還の対象ではないという点を明確に整理したところにその意味がある。さらに本判決は単純にライセンス契約締結後に無効審決が確定したからといって原則的に錯誤を理由にライセンス契約自体を遡及して取り消しできないという点も明確にした。

なお、本判決中の「特許の有効性が契約締結の動機として表示され、それが法律行為の重要部分に該当するなどの事情がない限り」という判示内容を考慮してみれば、事案によるが、錯誤を理由にライセンス契約自体を遡及して取り消しできる可能性があるのは、ライセンス契約書に特許の有効性を前提としてその特許が無効になった際のライセンス料の遡及返還について具体的に明示されているような場合に限られるものと見られる。

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