知財判例データベース プログラム中の環境設定のためのデータが記録されたものに過ぎない一部ファイルが著作権法によって保護されるコンピュータプログラムに該当するかどうか
基本情報
- 区分
- 著作権
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 債権者、相手方A社 vs. 債務者、再抗告人B社
- 事件番号
- 2012マ1724決定仮処分異議
- 言い渡し日
- 2014年10月22日
- 事件の経過
- 原審決定破棄差戻し
概要
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端末駆動プログラムに含まれた「ECO_RFID.INI」ファイルは、RFID端末駆動プログラム中の動的連結プログラムが初期環境設定のために受け取って処理するデータが記録されたものに過ぎず、上記のようなデータを受け取って処理する過程が、本件ファイルの何らかの指示・命令によってなされるともいい難いので、本件ファイルだけでは著作権法によって保護されるコンピュータプログラム著作物に該当するということができない。
事実関係
債権者A社は、2002年頃に国立中央図書館の情報システム拡張・改善事業に参画し、既存の図書館情報システムのアップグレードシステムを開発した後、2002年12月頃に納品した。債権者A社は、再度2007年頃に始まったシステム開発事業に参画し、国立中央図書館が指定した対象機関に対して図書館情報システムと関連したソフトウェアを導入し、その機関が正常に運用できるように協力することにした。この過程で債権者A社は、RFID技術(Radio Frequency Identification;ICチップと無線を通じて情報を管理できる認識技術)を利用して図書に付着されたタグ(電子チップ)の情報を無線で認識することにより、3巻以上を同時に処理できる「司書用デスクトップリーダ機」を開発した。このようなリーダ機を図書館情報システムで使用するためには、RFID端末を通じて入力される図書の貸出・返却などの情報をシステムに連動させるプログラムが必要であるが、債権者A社は、端末駆動プログラムである本件プログラムを作成した後、著作権登録まで済ませた。本件プログラムは、主プログラムと補助プログラムで構成されており、補助プログラムはRFID端末とシステムを連結するための10余りの動的プログラムで構成されている。このうち「ECO_RFID.INI」ファイルは、RFID端末駆動プログラム中の動的連結プログラムが初期環境設定のために受け取って処理するデータ、即ち、シリアル通信に使用される連結ポートを設定するデータとプログラムに連結されたリーダ機の種類を設定するデータをはじめとし、プログラムとリーダ機間の通信速度、通信解除条件、受信反復回数、通信間隔及び再呼出回数などを設定するデータが記録されている。
債務者B社は、図書館に図書整理用端末を供給するために債権者A社と競合関係におかれており、自社の製作・販売する端末を図書館情報システムで使用するための端末駆動プログラムを本件プログラムの代わりに独自に開発・使用してきた。同社は、大小の図書館に自社の端末製品を納品し、自社のプログラムをインストールしたが、図書館の司書らが、債権者A社の開発・供給したシステムのプログラムと一体性がなく連動性に欠ける煩わしさを訴えたところ、債権者A社の承諾なしに本件プログラムの装備駆動用設定ファイル中の1つである「ECO_RFID.INI」ファイルを各図書館のコンピュータにコピーし、ポート名とリーダ機タイプを変更する方法で本件プログラムを自社のリーダ機駆動用プログラムとして使用した。
原審決定(ソウル高等法院2012年9月10日付2012ラ224)は、「ECO_RFID.INI」ファイルは債権者のRFID端末を駆動するための本件プログラムを構成するファイル中の1つであり、ポート名、リーダ機タイプ、タイムアウト、再稼働時間、装備の休止時間、装備の再受信試みの回数などRFID端末を駆動するために必要な初期環境を設定するファイルであって、このようなファイルは、たとえ特定装備の駆動のために常に必要な事項を設定するものであっても、債権者のRFID端末のみの駆動のために必要な指示・命令で構成されているという点で、著作権で保護を受けるべき最小限の独創性も備えていないとはいえないと判断し、債務者B社が債権者A社の著作権を侵害したとことを認めた。
判決内容
大法院は、次のような理由で原審決定を破棄し、原審裁判部に事件を差し戻した。
記録に鑑みて詳察すると、「ECO_RFID.INI」ファイルは、RFID端末駆動プログラム中の動的連結プログラムが初期環境設定のために受け取って処理するデータが記録されたものに過ぎず、上記のようなデータを受け取って処理する過程が本件ファイルの何らかの指示・命令に従ってなされるともいい難いので、本件ファイルが著作権法によって保護されるコンピュータプログラム著作物に該当するといえない。
それにもかかわらず、原審は、債権者が作成した本件ファイルが上記のような初期環境設定のためのものではあるものの、RFID端末の駆動のための指示・命令からなっており、コンピュータプログラム著作物に該当するとし、債務者が債権者の許諾なしに本件ファイルを複製・配布する等により債権者の著作権を侵害したと判断したので、このような原審決定には、コンピュータプログラム著作物の該当如何に関する法理を誤解して裁判結果に影響を及ぼした違法がある。
専門家からのアドバイス
著作権法はプログラムを「特定の結果を得るために、コンピュータ等情報処理能力を有する装置内において直接又は間接に使用される一連の指示・命令で表現されたもの」と定義している。昨今では大部分の電気・電子製品は一定の情報処理能力を有しているため、上記のような定義は、ともするとプログラムとしての該当性を過度に拡張するおそれがなくはない。
しかし、本件で大法院は、一連の指示・命令過程をプログラム概念の要諦と見ることによって、単純なデータの記録と区別し、データの記録部分に対してはプログラムとしての該当性を認めなかった。法的保護を受けるコンピュータプログラムの範囲を判断するにおいて非常に大きな意味を持つ判示内容であるといえる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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