知財判例データベース サイバースクワッティング禁止規定と関連し、ドメイン名使用の「不正目的」の判断基準を明確にした事例
基本情報
- 区分
- ドメイン,商標
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告 v. 被告(K2コリア株式会社)
- 事件番号
- 2011ダ64836
- 言い渡し日
- 2013年04月26日
- 事件の経過
- 確定
概要
383
ドメイン名は、先着順を原則として自由登録されるものであるが、重複した登録ができないことを悪用し不正な目的によってドメイン名を独占するいわゆる「サイバースクワッティング」行為は、禁止されている。そして、当該不正な目的の有無を判断するに当たっては、正当な権原を有する者の商標その他の標識が韓国内において周知著名であることが実務上要求される。
事実関係
被告は、1972年頃から「登山用品」と関連し「」商標を使用し、2004年頃に上記商標の周知性を取得した。一方、原告は、「k2.co.kr」というドメイン名を2000年1月28日に登録し、現在まで保有していた。しかし、このドメイン名で立ち上げられたウェブサイトは、きちんと運営されず、被告が原告を相手にインターネット住所紛争調停委員会に調停を申請した時点である2009年12月14日には閉鎖されていた。そして、同委員会は、2010年2月18日、原告に対しドメイン名の登録を被告に移転せよという内容の決定を下した。一方、これを受けた原告は、同ドメイン名を登録・保有したことに不正な目的はなかったと主張し、インターネット住所資源に関する法律(以下、「インターネット住所資源法」とする)第12条に基づいたドメイン名の移転登録請求権は、被告には存在しないという確認を求めた。原審では、被告の商標が周知のものであることを認定した上で、本事件のドメイン名の保有が原告に特別な利益をもたらしてはいないが、被告によるドメイン名の登録に不正な目的があったという旨の判断を下し、原告の請求を退けたため、原告は、大法院に上告した。
判決内容
法院の説示は、概略次のとおりである。インターネット住所資源法第12条第1項、第2項では、正当な権原を有する者のドメイン名の登録を妨害したり、又は正当な権原を有する者から不当な利益を得るなどの不正目的により、ドメイン名を登録・保有、または使用している者に対し、正当な権原を有する者は、裁判所にそのドメイン名の登録抹消、または登録移転を請求できると定めている。この規定の趣旨は、ドメイン名については、先着順を原則として自由に登録できるものの、その重複登録が不可能であることを悪用し、不正な目的でドメイン名を先取りするいわゆる「サイバースクワッティング行為」を規制することにより、正当な権原を有する者のドメイン名の登録及び使用を保障し、ドメイン名に関するインターネットユーザーの混同などを防ぐことにその目的がある。
一方、右規定で定める「不正目的」があるか否かは、正当な権原を有する者の商標、その他の標識(以下「対象標識」という)の認識度、ドメイン名と対象標示の同一・類似性の程度、ドメイン名を登録した者が対象標識を知っていたか否か、など、諸事情を総合的に考慮して判断されなければならない。
結局、法院は、このような前提の下、被告商標の周知性を前提に、本件事件において不正な目的があったという趣旨の判断を下し、原告の請求を退けた原審を維持した。
専門家からのアドバイス
韓国では、従来、ドメイン名関連の紛争を解決するための別途の法律がなく、商標法や商法、不正競争防止法などに基づいて紛争を解決していた。2004年1月29日に制定され、同年7月30日付で施行されたインターネット住所資源法により、ドメイン名の紛争に関する解決の基準が明文として新設されたことにより、同法第12条のサイバースクワッティング禁止規定に基づき、他人の姓名、商号、商標などに関するドメイン名先取り行為が規律されるようになった。
インターネット住所資源法第12条[1]は、商標、サービス標、商号、姓名、名称などの「正当な権原を有する者」に対する「登録妨害」と「不当利益奪取の試み」の2つを不正目的として挙げ、不正目的で登録されたドメイン名に対して「正当な権原を有する者」はその登録や移転を請求できると定めている。
ところで、一見、この条項の中では、上記「正当な権原」の基礎となる商標、サービス標、商号、姓名、名称などについては、不正競争防止法とは異なり国内で広く認識されていること(周知著名性)を求めてはいないが、原審では、「」商標の周知性を認めたうえで、周知性が認められてこそ正当な権原があると判示し、大法院でも不正目的に該当するかどうかの判断要素の一つとして対象標識の認識度を考慮するよう説示している点に留意すべきである。さらに、同法18条の2では、インターネット住所紛争調停委員会における紛争調停の判断基準として、調停申請人の商標・サービス標や商品・営業、及び姓名・名称について、商標法上の保護対象となる標章であるか、韓国内で広く認識されていたり著名である場合には抹消又は移転させるよう調停決定を下すことができると規定しているにも留意したい。
このように、実務上の訴訟や紛争調停においては、当該商標等が韓国内においてどの程度認識されていたか、すなわち、その周知性が重要な要素として機能することとなる。
日本企業が韓国における事業展開を考えている場合、ドメイン名を先ずは確保することを戦略的に考えるべきであり、また、サイバースクワッティング規制をしているインターネットアドレス資源法第12条により争う場合は、自社の商標等が韓国内でどの程度認識されているかを考慮してこれに臨む必要がある。
注記
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第12条(不正な目的のドメイン名などの登録などの禁止)
- 何人も正当な権原を有する者のドメイン名などの登録を妨害したり、又は正当な権限を有する者から不当な利得を得るなど、不正な目的でドメイン名などを登録、保有、又は使用してはならない。
- 正当な権限を有する者は、第1項に違反してドメイン名などを登録、保有、又は使用している者があれば裁判所にそのドメイン名などの登録抹消、又は登録移転を請求することができる。
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