知財判例データベース 既存出版物の一部表現を借用しても同一性が認められ難い翻訳書籍の発行は出版権侵害に該当しないとした事例

基本情報

区分
著作権
判断主体
大法院
当事者
原告(ソンヤンウォンリュ社)vs. 被告(ウィズダムハウス他)
事件番号
2013ダ22775
言い渡し日
2013年07月12日
事件の経過
上告棄却及び訴訟終了宣言

概要

395

著作財産権や著作人格権を構成する個別的な権利は、著作財産権や著作人格権という同じ権利の一部を構成するのではなく、それぞれ独立的な権利として把握されなければならないため、それぞれ独立的な訴訟物となる。複数の訴訟物に対する裁判において、大法院で上告理由が棄却された部分は、当該訴訟物についての判決が確定することになる。そのため、上告理由が棄却され、判決が確定したにもかかわらず、当該訴訟物について差戻し審で再度審理判断した部分は、審理範囲に関する法理を誤解したものである。また、上告法院は、上告理由の限度内でのみ調査・判断ができるのであり、上告理由に具体的かつ明示的な理由が説示されていない部分については、審理対象とすることはできない。

事実関係

原告は、本件中国語書籍の著作権者であり、被告は、この中国語書籍を韓国語へ翻訳し、本件翻訳書籍を発行した者である。原告は、被告の本件翻訳書籍の発行行為が、(1)原告の本件中国語書籍全体に対する編集著作権と、(2)個別の49のストーリーに関する2次的著作物の作成権(翻訳権)の2つを侵害しているとして、侵害禁止およびその損害賠償を求めて訴を提起した。

原審は、(1)編集著作権については侵害主張を排斥し、(2)作成権(翻訳権)については49のうち45のストーリーについて侵害を認定し、4億ウォン+遅延損害金の支払いを命じたところ、原告は、(1)(2)について損害額算定が誤っている点を理由として上告し、被告は、(2)の創作性は認められないという理由で上告した。

上告審では、原告の上告理由を排斥し、また、被告の上告理由について、(2)の45のストーリーのうち4のストーリーは、原著作物に修正・増減を加えたものに過ぎず、独創的な著作物として見なせないという理由により、被告の上告理由を一部受け入れる判決を宣告した。

そして、差戻し後の原審で、被告は、(2)に関して本件中国語書籍に収録されたストーリーの原著作物を新しく証拠として提出したところ、45のストーリーのうち、先の上告審が独創的でないとした4つのストーリーだけでなく、さらに22のストーリーについても独創性が認められず、残りの23のストーリーだけの著作財産権侵害が認められると判断し、加えて(1)に関して、本件中国語書籍が創作性のある編集著作物だと見なせず、本件中国語書籍に示された全体的かつ具体的な編集上の表現が本件翻訳書籍に実質的に類似の形態で借用されたものとも見られないとして、原告の編集著作物の著作権侵害に関する主張を退けると共に、損害賠償額も4億ウォンから減額して2億ウォンだけを認容した。

これを受け、原告は、(1)の編集著作物の著作権侵害に関する差し戻し後の原審の判断が誤っているという主張により、再度上告を行った。

判決内容

本件に関して大法院は、著作財産権や著作人格権を構成する個別的な権利は、著作財産権や著作人格権という同じ権利の一部にすぎないのではなく、独立的な権利として把握されるべきで、それぞれ独立的な訴訟物であると判示したうえで、(1)の本件中国語書籍の編集著作物の著作権侵害を原因とする損害賠償の請求と、(2)の本件中国語書籍に収録された個別のストーリー(2次的な著作物、または独創的な著作物)の著作財産権の侵害を原因とする損害賠償請求は、そもそも個別の訴訟物になると判断した。

そして、本件の差戻し判決は、被告の上告理由の一部を受入れ、(2)の個別のストーリーに対する損賠賠償部分のみ破棄差戻しとし、原告の上告と被告の他の上告を全て棄却したのであるから、その部分については、差戻し判決の言渡により確定されたと判示した。よって、差し戻し後の原審が(1)の編集著作権侵害を原因とする損害賠償の部分まで審理し判断したのは、差し戻し後の原審の審理範囲に関する法理を誤解したものであって、この部分については先の上告判決において大法院が直接訴訟終了宣言をしたものに他ならないと判示した。

さらに、大法院は、上告法院における審理範囲について、上告理由に基づいて不服申請された限度内でのみ調査・判断ができるものであるところ、本件では、原告が既に確定した(1)の編集著作物の著作権侵害を原因とする損害賠償を求める部分のみに関して上告理由を示している以上、上告法院で審理可能な部分に関して上告理由書が提出されなかったとみなして、原告の再度の上告を棄却した。

専門家からのアドバイス

著作権は、権利の束(bundled right)と言われる。例えば、一口に著作権と言っても著作人格権と著作財産権は、その性格が異なっており、さらに、著作財産権は細かく分類された多数の権利で構成されている。ちなみに、本件で問題とされた編集著作権と2次的著作物の作成権は、著作財産権の下部権利であり、韓国の著作権法では、第5条が2次的著作物を、第6条が編集著作物をそれぞれ区別し規定している。

審判の対象となる訴訟物を決定する理論は、旧訴訟物理論と、新訴訟物理論とに分かれている[1]が、韓国の法院は、民事訴訟の場合、一貫して旧訴訟物理論を維持している。そのため、著作権侵害訴訟の場合にも、著作権を構成する個別権利が請求の基礎として訴訟物を決定するということを念頭に置く必要がある。

そして、このように、大法院は旧訴訟物理論に基づいて訴訟物を決定するものであるから、著作権侵害を主張する者は、侵害された権利を正確に特定して訴訟を提起するとともに、審理過程において、どの訴訟物に対する判決が確定しているのかを把握しなければならず、仮に、控訴や上告をするとき、既に確定した部分を間違えて争点として主張した場合などには、本件のように、審理判断の対象にさえも該当しなくなる場合があるので注意を要する。

いずれにせよ、本件の場合には、差戻し判決後の原審が審理判断の範囲について誤解し、上告審で既に確定した部分について改めて判断を行った上、原告も、当該部分が既に確定していることに気づかず、その点を上告理由としてしまったがために、再度上告審で争うことができる審理範囲が存在しないとして上告棄却されてしまったものである。

本件は、特に多数の権利で構成されている著作権において特に注意すべき重要な示唆を示す判決である。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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