知財判例データベース 侵害事件で、保全の必要性が認められても、執行場所が特定されない仮執行の申請は受け入れられないとした事例

基本情報

区分
商標
判断主体
ソウル中央地方法院
当事者
申請者(アガタディフュージョン AGATHA DIFFUSION SARL)v 被申請人(株式会社エッチアンドケイコリア)
事件番号
2013カ合1178判決
言い渡し日
2013年08月19日
事件の経過
一部認容

概要

397

仮処分命令を発する保全の必要性が認められるとしても、執行場所が具体的特定されておらず「その他の場所」とされている場合、当該場所に保管されているであろう製品等に対する仮執行の申請は、受け入れられない。

事実関係

申請人は、フランス法に基づいて設立された会社で、第1登録商標(AGATHA)、第2登録商標()、第3登録商標(아가타)の商標権者である。これら登録商標は、第18類革、旅行カバン等と、第24類衣類(詳細な内容は省略)などを指定商品としている。この各登録商標と類似の商標をその指定商品と同一・類似な商品に使用し販売していた被申請人に対し、商標権侵害であるとして、その禁止を求める仮処分を申請したところ、被申請人側は、申請人の代理人と称するフランス人氏との間で2012年10月19日に締結した上記登録商標に関する韓国内独占的使用権と再使用権に関する約定書に基づく合法的な行為であり、2012年10月26日付で信用状を通じ5万ユーロを支払い申請人は何らの異議なくこれを受け取ったため、この約定書内容を申請人は事後追認したものであると反論した。

判決内容

ソウル中央地方法院は、下記のように判断し、申請人の仮処分申請を一部認容した。

  1. 商標権侵害の可否

    この事件における各登録商標と各標章を比較すると、この事件における第1登録商標と第1標章は、その外観と呼称が同一であり、第2登録商標と第2標章は、その外観、観念が同一であり、第3登録商標と第3商標は、その外観、呼称が同一である。一方、本事件における製品は、大きくみて衣類製品に属するため、各登録商標の指定商品であるスカート、ポロTシャツ、ズボン、衣類などと同一か類似している。したがって、被申請人が本事件における各商標を、本事件における製品に使用する行為は、その出所に対する誤認、混同を引き起こす懸念があるため、他に特別な事情がない限り、申請人の本事件における各登録商標に関する商標権を侵害するものである。

    一方、被申請人は、申請人を代理する氏と約定書を交わし当該登録商標を使用する権限を与えられたと主張するが、2012年6月30日以降、申請人会社の代表は、氏ではない全く異なるフランス人2名である点、さらに氏は、申請人会社を2006年7月25日付けで辞職しており、当該約定書の署名も氏でなく他人が偽造したものと思われる点などから、当該登録商標を使用する正当な権限を有していたとは考えられず、さらに、申請人が信用状代金を異議なく受領したのであるから約定書内容を事後的に追認したという主張も、証拠として提出された信用状発行申請書や外国為替取引計算書は、具体的記載内容や信用状取引の一般的な構造などと照らし、信憑性が認められず、よって商標権の侵害が成立する。

  2. 仮処分の執行
    申請人にはこの事件における各登録商標の侵害差止を求める被保全権利があることが疎明され、また、被申請人においてこの事件における各標章が使用された製品を継続して販売していることなどから考えると、仮処分命令を発する保全の必要性及び間接強制の必要性が認められる。しかし、被申請人が「その他の場所」に保管している製品等に対する占有解除と、これらに対する執行官の保管命令を請求している点については、その場所が具体的に特定されておらず、この部分の申請は受け入れられない。

専門家からのアドバイス

この事件は、商標権侵害そのものは比較的に容易に認められ、この点については特に論ずべきことはないが、まず、「約定書」と「仮処分申請の執行範囲」について実務上参考とすべき点がある。本事件の「約定書」は、フランス人氏がフランス法人である申請人を代理してフランスで契約を締結したとされ、代理人の営業拠点のある国家又は代理行為が行われた場所がフランスであることから、国際私法第18条第1、2項に基づき、フランス法を準拠法とすると判示されている点である(ただし本件の場合、韓国法を準拠法としても結論は同じとなろう)。実務的に海外商標を韓国内の輸入業者などが販売する場合に、使用権の設定手続や使用料の支払いなどの契約について、俗にエージェント呼ばれる代理人が介在することがあるが、このような場合には韓国内での法廷争いであっても準拠法が変わり得ることに留意しておきたい。

次に、仮処分の執行に関して、重要なポイントを含んでいるので、注意しておきたい。すなわち、執行官が仮処分執行を行うためには、執行すべき場所の特定が必須となり、例えば、事務所、工場、倉庫等を住所地とともに示すのが普通であるが、実際問題として、侵害品や宣伝広告物などがどこに存在するのかがあるのかわからない場合がある。そして、その場合、申請人としては、「その他の場所」と記載したくなるところである。しかし、執行官が自ら侵害品の所在を探し出せるわけではなく、場所が特定されていないのであれば、侵害品などについて差押え、仮差押えなどの保全措置を取ることができないので、こうした記載により請求しても認められないのである。また、侵害品などを元の場所から移動させ執行官が保管する場合や、侵害品などについて仮差押え物品である旨の公示書を表示する場合も同様である。そのため、商標侵害を理由とした仮処分を申請し、侵害品の回収・廃棄を第1目的とする場合、侵害品の所在を事前に確認することが必須となる。

ただし、仮処分申請で勝訴が確定すれば、事前に把握し切れなかった「その他の場所」に存在する侵害品についても、交渉次第で侵害者に転売・流通・隠匿などしないよう強く求めることも可能となるので、これらのことを踏まえつつ、仮処分申請を担当する法律事務所と初期段階から密接に協調することにより、仮処分の実効性を高めるようにしたい。‎

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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