知財判例データベース デザイン出願に不正競争行為の目的があるときは抵触する商標権の侵害および不正競争行為が成立するとした事例

基本情報

区分
意匠
判断主体
大法院
当事者
○○○(被告人, 上告人)v. 検事
事件番号
2010ド15512
言い渡し日
2013年03月14日
事件の経過
破棄差戻

概要

378

登録デザインを出願・登録した目的と経緯、登録デザインを使用する具体的な態様などに照らし合わせ、デザイン登録出願そのものが不正競争行為を目的としたものとみなすことが相当である場合には、被告人が登録デザイン権の実施許諾を受けて使用したとしても、抵触関係にある商標権を保有した他の商標権者に対し、商標権侵害行為、不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律(以下「不競法」)上の不正競争行為が成立する。また、被告人が使用する標章を構成する個別図形について各々の商標権を登録し保有していたとしても、その商標使用権は、被告人の使用標章である全体形態には及ばない。


注記

[1]

[2]

[3]

[4]ソウル中央地方法院2008年9月12日宣告2008カ合35161判決、ソウル高等法院2009年5月13日宣告2008ナ92918判決

[5]ジェトロの判例データベースに2012年7月に収録されている。

事実関係

被告人は、カバンの卸・小売業を営む者として、使用標章[1]のような模様が繰り返し使われた革・織物によるカバン製品を生産・販売しており、それに関連してハンドバッグなどを指定商品とする多数の商標権[2]を被告人と被告人の妻である訴外人が登録して保有していた。また、訴外人は、被告人の使用標章である模様を「カバンの生地」を対象物品としてデザイン無審査登録出願を行い、2009年4月28日にデザイン登録[3]を受けていた。そして、検事は、被告人が被告人の使用標章をカバン、財布などの外部の大半に表示する行為に対し、商標法及び不競法違反の罪で起訴し、原審でも有罪が認められたが、被告人はこれを不服として大法院に上告を提起した。

判決内容

法院は、被告人の使用標章に関するデザイン登録と、被害者の登録商標に対する商標法違反との関係について、デザインと商標は、排他的かつ選択的な関係にあるものではないため、デザインになり得る形状や形態であるとしても、それが商標の本質的な機能であるといえる自他商品の出処表示のために用いられるものであると見なせる場合には、上記の使用は、商標としての使用であると見なすべきであり、それが商標として使用されているかどうかを判断するためには、商品との関係、当該標章の使用態様(すなわち、商品などに表示された位置、大きさなど)、登録商標の周知著名性、そして使用者の意図と使用経緯などを総合して、実際の取引界においてその表示された標章が商標の識別表示として用いられているかなどを総合的に判断しなければならないという法理を示した。そして、被告人は、被害者の登録商標の要素を少し変更した図形を組み合わせてカバンや財布の外側大部分に表示しているという点、被告人の妻である訴外人は、この事件の以前にも、被害者の登録商標と類似している他の商標をカバンなどの製品の外側大部分に表示する方法によって使用したことにより商標権侵害差し止め判決[4]を言い渡され、すでにこれが確定しているところ、上記の侵害差止の原審の判決を言い渡された後において、訴外人が当該デザイン登録を受け、その後、これを被告人が被告人の使用標章として使用した点、被害者の登録商標は、訴外人が被告人の使用標章についてデザイン無審査登録出願を行う前からすでに国内において被害者の商品の出所を表示する標識として広く認識されている周知著名商標である点をあげ、被告人の使用標章は、商標として用いられたものであって、登録デザインがその出願前に出願された他人の登録商標を利用するか、抵触する場合、その商標権者の許諾を得て、または通常実施権の許与の審判によらなければ実施できないにもかかわらず、この事件ではそうした事情もないため、被告人が訴外人からデザイン権の実施許諾を受けてそれを被告人の使用標章として使用したとしても、被害者の登録商標との関係において商標権侵害が成立するものと判断した。

また、法院は、被告人の使用標章に対するデザイン登録と不競法違反との関係について、デザインの登録が対象物品に美観を呼び起こす自己のデザインの保護のためではなく、国内に広く認識され使用されている他人の商品であることを表示した標識と同一、または類似するデザインを使用して一般の需要者に他人の商品と混同を起こさせ、利益を得る目的で形式上のデザイ案件を登録するものであれば、そのデザインの登録出願自体が不正競争行為を目的とするものであり、仮に、権利行使の外形を揃えているとしても、それは、デザイン保護法を悪用、または濫用することになり、デザイン保護法による適法な権利の行使であるとは認められないため、こうした場合には、デザイン保護法など他の法律に不競法と異なる規定がある場合には、不競法の規定を適用せず、他の法律の規定を適用するとした不競法第15条第1項の規定があるとしても、これは適用されないという法理を前提とし、被告人の使用標章と被害者の登録商標の類似性、商標の周知著名性、訴外人がデザイン登録を受けた経緯などを総合的に見ると、たとえ、被告人が上記のデザイン権の実施許諾を受けて被告人の使用標章を使用したとみなす余地があるとしても、それはデザイン保護法を悪用、または濫用したものであって、デザイン保護法による適切な権利の行使として認められないため、そうした事情は、不競法上の不正競争行為が成立するにおいて障害にならないと判断した。

一方、法院は、被告人の使用標章を構成する個別図形の商標登録と、被害者の商標に対する商標法違反、不競法違反との関係について、この事件では、被告人の使用標章を構成する個別図形の使用ではなく、上記の個別図形が組み合わせられた被告人使用標章全体の形態の使用に対し、商標権侵害と不正競争行為の責任を問うているものであって、上記個別図形各々の商標権に基づいた商標使用権は、こうした全体形態の被告人使用標章には及ばず、たとえ、被告人と訴外人が上述個別図形について各々に商標登録を受けていたとしても、被告人使用標章全体形態の使用により、被害者の登録商標に対する商標権侵害、及び不正競争行為の成立において障害にならないと判断し、被告人に商標法違反罪、及び不競法違反罪を認めた原審をそのまま認めた。

ただし、法院は、商標法違反罪と不競法違反罪の受認などに関する原審の判決に法令解釈・適用間違いがあるとし、原審判決を破棄・差戻した。

専門家からのアドバイス

商標権の登録が自分の商品を他人の商品と識別させることを目的にしたのではなく、国内に広く認識され使用されている他人の商標と同一、または類似する商標により、一般需要者をして他人の商品と混同を起こさせ、利益を得る目的で形式上の商標権を取得したというものであれば、その商標の登録出願そのものが不正競争行為を目的とするものであり、たとえ、権利行使の外形を揃えているとしても、それは、商標法を悪用、または濫用したものになり、商標法に基づいた適法な権利の行使として認められないというのが従来判例の立場である。そして、本判決は、商標権のみならず、デザイン権の登録の場合にも同様、当該デザイン権の登録が自己のデザイン保護のためではなく、一般需要者をして他人の商品と混同を起こさせ、利益を得る目的で形式上のデザイン権を取得した場合には、そのデザインの登録出願そのものが不正競争行為を目的としたものとみなすことが相当であることを確認した。

このように悪意による権利取得施行が権利濫用に当たることは当然であり、仮に模倣業者がこのような権利を取得していたとしても、法的に対応可能であることを明確にした判例として、同様の事例に対する対応の際、実務的に有効なものであろう。

また、もう一つの論点として、本判決は、被告人の使用標章全体が自他商品の出所を表示する識別力を持つため、その使用標章を構成する個別図形に関する商標権に基づいた使用権は、全体形態の被告人使用標章には及ばないことを理由に、登録商標権に関する被告人の主張を退けたものであるが、これは、類似した事実関係、及び争点に関して商標権濫用の法的理由を拡大して適用することで、登録商標権に関する主張を退いたソウル中央地方法院2012年7月13日宣告2011ガ合132628判決[5]とは、多少異なる法理を判示している。

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