知財判例データベース 二段併記商標において、上下一方を省略した使用も、取引通念上、登録商標と同一の商標使用にあたるとした事例
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- 大法院(全員合議体)
- 当事者
- 原告(上告人)エイスイシップイルv.被告(被上告人)コンチネンタル・ライペン・ドイツ・ゲーエムベーハ(Continental Reifen Deuschland GmbH)
- 事件番号
- 2012フ2463判決
- 言い渡し日
- 2013年09月26日
- 事件の経過
- 破棄差戻し
概要
399
不使用による商標登録取消審判において、英文字とこれを単純に音訳したハングルを上下に併記した登録商標に対し、上段の英文字部分のみ使用していたとしても、登録商標と称呼が同じで、かつ英文字とハングルの結合により新たな観念を生じない場合には、取引通念上登録商標と同一とみなす形態の商標の使用に該当すると見るべきことが妥当であると判示した例
事実関係
原告の本件登録商標は、指定商品を「ゴムVベルト」とし、以下のように英文字「CONTINENTAL」と、これを単純に音訳したハンブル「콘티넨탈」が二段で併記され構成されている。
[本件の登録商標]
しかし、原告が実際に使用していた商標(以下「実使用商標」)は、本件の登録商標のうち、上段の「CONTINENTAL」のみであった。
[実使用の商標]
これに対し、被告は、原告が本件の登録商標を審判請求日前3年間以上不使用であったことを理由に、不使用取消審判を提起したところ、特許審判院は、審判請求を認め、原告の本件登録商標を取り消し、また、特許法院においても、原告の実使用商標は、取引通念上、本件登録商標と同一とみなす形態の商標の使用に該当するとは見なせないと判断したため、原告は、大法院に上告していた。
判決内容
大法院は、商標法が一定の要件を備えれば、使用可否に関係なく商標登録が受けられる登録主義を採択したことによって発生しうる弊害を是正し、他人の商標選択の機会を拡大するために、商標法第73条第1項第3号、4号により商標権者または使用権者に登録商標を指定商品に使用する義務を与え、一定期間商標を使用しない場合は、それに対する制裁として商標登録を取消すことができるよう規定している点(大法院2011年6月30日宣告2011フ354判決参照)をまず前提とし、このような不使用による商標登録取消制度の趣旨を鑑みると、ここでいう「登録商標を使用」とは、登録商標と同一の商標を使用した場合をいい、類似商標の使用は含まないとしつつ、「同一の商標」には、登録商標そのものだけではなく、取引通念上、登録商標と同一とみなすことができる形態の商標も含まれるという法理を再確認した(大法院1995年4月25日宣告93フ1934全員合議体判決、大法院2009年5月14日宣告2009フ665判決など参照)。
その上で、大法院は、(1)商品の特性、商品が販売される市場、時代の変化などにより、登録商標を多少変形して使用したりすることが取引の現実であり、英文字とこれに対するハングル音訳を結合した商標を登録した後、英文字とハングル音訳の一方を省略して使用する場合もよく生じる点、(2)現在の韓国の英語普及レベルを考慮すると、このような登録商標におけるハングル部分は、英文字の発音をそのまま表示したものであると一般の需要者や取引者が容易に理解することができる点、(3)呼称ないし発音が表示するその英文単語そのものの意味から認識される観念のほかに、ハングル音訳の結合により新しい観念は生じない場合があるという点をあげ、(4)このような場合には、商標権者または使用権者が英文字及びそのハングル音訳からなる登録商標について、その一方を省略して使用したとしても、一般需要者や取引者には当該登録商標と同一の呼称、観念を有する同じ商標が使用されたものと認識され、それに対する信頼が形成されるため、当該商標と登録商標との同一性を否定した場合、むしろ一般需要者や取引者の信頼を崩す結果を招くという点を指摘し、さらに、(5)1997年8月22日法律第5355号の改正により連合商標制度が廃止され、連合登録された商標のうちいずれか一つの商標を使用するだけで、連合登録されたすべての登録に対し不使用による商標登録取消を免れた特例がなくなったことを参酌すると、登録商標の使用と認定される範囲を多少弾力的に解釈して、商標権者の商標使用の自由ないしその商標の同一性の認識に対する一般需要者の信頼を保護する必要があるとし、結果、英文字とこれを単純に音訳したハングルが結合した登録商標において、その英文単語そのものの意味から認識される観念のほかに、その結合により新しい観念が生じず、英文字部分とハングル音訳部分のうち一方を省略して使用しても、一般需要者や取引者に登録商標と同一に呼称されるとみなされる限り、その登録商標のうち英文字部分またはハングルの音訳部分のみで構成された商標を使用することは、取引通念上、登録商標と同一とみなすことができる形態の商標の使用に該当すると判断した。
そして、従来、英文字やそのハングル音訳のうち一方を省略して使用した場合、取引通念上、登録商標と同一とみなすことができる形態の商標の使用には当たらないとした判例(大法院1992年12月22日宣告92フ698判決、大法院1992年12月22日宣告92フ711判決、大法院2002年9月27日宣告2001フ2542判決、大法院2004年8月20日宣告2003フ1437判決、大法院2004年8月20日宣告2003フ1673判決などをはじめとする同じ趣旨の判決)をすべて変更した。
専門家からのアドバイス
本件大法院全員合議体による判決は、英文字とこれを単純に音訳したハングルが結合された登録商標の不使用による商標登録取消審判において、英文字やそのハングル音訳のうち一方を省略して使用した場合について、これを登録商標と同一とみなすことができる形態の商標使用に該当するか否かに対する判例変更を行ったものであり、法理上重要な判決である。
一方、この判決により判例変更の対象となった従前の判例では、いずれも英文字やそのハングルの音訳のうち一方を省略して使用した場合、取引通念上登録商標と同一とみなすことができる形態の商標使用ではないと判示していた。
これと関連して、日本の商標法では、「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ文字の表示を相互に変更するものであって、同一の呼称及び観念が生ずる商標」については、登録商標の使用とすることが規定されている。そのため、今般の判決により従前の判例が変更される前までは、不使用取消審判における登録商標の使用に関する判断が日韓で相違していたため、注意を要していた。
しかし、本件の大法院の判決変更により、当該登録商標の使用に関する日本の法理と韓国の法理は、ほぼ同様のものとなったため、日本企業としては、理解しやすくなったものと思われ、今後、不使用取消審判の実務において、大いに参考となろう。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195