知財判例データベース 図形商標の類否判断において、対比する商標の細部的な差ではなく「全体観察」によって判断すべきとした事例
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告(イーランドワールド)vs. 被告
- 事件番号
- 2011フ1548判決
- 言い渡し日
- 2013年07月25日
- 事件の経過
- 破棄差戻し
概要
393
登録商標の指定商品の「Tシャツなどの衣類」の取引においては、図形商標の詳細な部分まで正確に観察し記憶するのではなく、図形全体のモチーフや支配的な印象を観察して記憶することが普通であるため、登録商標と確認対象標章間の類似性の観察は、このような一般需要者や取引者の直観的認識に基づいて行われるべきである。
事実関係
本件は、「Tシャツ、スポーツシャツ、ポロシャツ、運動用ユニフォーム」等を指定商品とした原告の登録商標(商標登録番号第113827号)に対し、「Tシャツなど衣類」を使用商品とした被告の確認対象標章について、権利範囲に属することを求める権利範囲確認審判の審決取消訴訟に関するものである。
左側 [原告の本件登録商標]右側 [被告の確認対象標章]
原審の特許法院では、二つの標章が(1)イカリ綱が巻かれた具体的な形状、イカリ綱の太さ、イカリ輪内部の一部が空になっているかどうか、鉤がイカリの柄より太いかどうか、(2)色彩の有無、(3)右側の鉤部分に英文筆記体の文字があるかどうかなどにより、両商標に差があることに着目し、二つの商標は、互いに類似していないものと判断した(特許法院2011年6月10日宣告2011ホ2169判決)。本事件は、これに対し、原告が上告したものである。
判決内容
大法院は、まず、「商標の類似有無は、対比される商標を外観、呼称、観念の三つの側面から、客観的かつ全体的、離隔的に観察し、取引上において誤認や混同の恐れがあるかどうかで判断しなければならなない。そのため、特に図形商標は、その外観が与える支配的な印象が同一・類似しており、二つの商標が同一・類似の商品に同じく使われた場合、一般需要者や取引者において商品の出処を誤認・混同する恐れがあるなら、二つの商標は、類似していると見なければならない(大法院2013年3月14日宣告2010ド15512判決等参照)」と前提し、さらに、指定商品の特性として、「本件の登録商標の指定商品である「Tシャツなど衣類」の取引においては、図形商標の詳細な部分まで正確に観察し記憶するのではなく、図形全体のモチーフや支配的な印象を記憶することが普通であるため、このような一般需要者や取引者の直観的認識を基準として、本件の登録商標と確認対象標章の外観を離隔的に観察」しなければならないとした。そして、「二つの標章は、両方とも(1)円形のアンカーリングと横に伸びるストックがついており、(2)アンカーリング、ストックに垂直な錨の柄が組み合わされて「우」のような輪郭となっており、(3)錨のストックの長さが錨アームの終端より若干短く、(4)錨綱がアンカーリングから出て、錨の柄を一度巻き回って錨アームに垂れていると共に、錨綱が錨の柄の上を右側上から左側下方向に通っており、(5)錨柄の下端は尖っていて、ここに鏃形の端部を持った錨アームが約45度上向きに左右対称に持ち上がるものの、錨柄の下端と錨アームの下辺が流線型になっていて、全体的な構成と支配的な印象がきわめて似ている」と判断した。大法院は、二つの標章の間には、原審が認めた差異があることを認めながらも、当該差異は、「離隔的な観察では、ほとんど把握できないほど細部的なものであるか、一般需要者や取引者の印象に残り難いものである」とし、結局、二つの標章は、「外観が与える支配的な印象が類似し、同一又は類似の商品に使われた場合、一般需要者や取引者をして商品の出処に誤認・混同を起こす恐れがあるため、互いに類似している」と判断し、原審判決を破棄・差戻しした。
専門家からのアドバイス
商標の類否判断は、対比される商標を外観、呼称、観念の三の側面から客観的かつ全体的、離隔的に観察し、取引上における誤認・混同の恐れがあるかどうかに基づいて判断しなければならないという基準が明文化されており、日本の実務とほぼ同様であるとしてよいであろう。
ところが、商標の類否判断の実務においては、ともすれば、特許法院が判示したように、類似点と差異点を細分化した上で、当該差異点を認識することができれば非類似とするいわゆる「分離観察」されてしまうことがある。本件において、大法院は、図形商標の場合、そのような細部的な差ではなく、外観が与える支配的な印象を基準とし、さらに、衣類という商品の特性上、衣類を購入する消費者は、そのような細部的な差ではなく、支配的な外観の印象を基準に全体的、離隔的に判断すべきと判示しており、「全体観察」という原点に立ち戻らせた事例である。
商標権者である日本企業としては、色彩や字句の追加など図形商標の細分の相違に拘泥されず、商標の類否判断についての主張の幅が広がる可能性があることを念頭に置く必要があるだろう。
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