知財判例データベース 「過失の推定」の規定がない韓国商標法の下で、商標権侵害による損害賠償請求で「過失の推定」が認められた事例

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
原告(ナムソンアルミ)vs. 被告(ピー・エヌ・エスアルミ)
事件番号
2013ダ21666判決
言い渡し日
2013年07月25日
事件の経過
上告棄却

概要

394

  1. 商標権者が侵害者と同種の営業をしていることを証明した場合は、特別な事情がない限り、当該商標権侵害によって営業上の損害を受けたことが事実上推定される。
  2. 無効審判が確定した場合、商標権は、はじめからなかったものとみなされるため、無効前において自己の登録商標を使用したものであったとしても、過失は免れない。

事実関係

原告は、「金属製のドア、金属製窓用の取手、金属製窓の枠」等を指定商品とし、登録商標「図形+남선알미늄」(登録番号は省略。以下「原告登録商標」という)を使用していた。一方、被告は、「アルミニウムなどの金属製窓戸関連の製品」を指定商品とする商標「남성알미늄+英文」(以下、「被告商標」という)を登録し使用していた。


左側 [原告登録商標]右側 [被告商標]

その後、原告は、登録されていた被告商標について無効審判を請求し、その無効が確定した後、損害賠償請求の訴えを提起したところ、原審(二審)の大邱高等法院は、原告勝訴の判断をしたため、被告が大法院に上告したものである。

判決内容

大法院は以下のように判断し、被告の上告を棄却した。

  1. 原告の損害の推定について
    大法院は、「商標法第67条第3項は、商標権者などが商標権などの侵害によって受けた損害の賠償を請求した場合、損害に関する商標権者などの主張・証明責任を軽減する趣旨の規定であり、損害の発生がないことが明らかである場合まで侵害者に損害賠償義務を認める趣旨ではないが、その規定の趣旨から考えると、損害の発生に関する主張・証明の程度は、損害発生の恐れ、ないし蓋然性の存在を主張・証明することで足りると見なければならず、したがって商標権者が侵害者と同種の営業を行っていることを証明したのであれば、特別な事情がない限り、商標権侵害によって、営業上の損害をこうむったことが事実上推定されるとすべきである(大法院1997年9月12日宣告96ダ43119判決、大法院2004年7月22日宣告2003ダ62910判決など参照)。」と判示した上で、「原告は、原告登録商標を使用し、「アルミニウムなど金属製窓具関連の製品」を製造・販売してきていたが、被告は、原告登録商標と類似の被告商標を使って、原告と同様な製品を製造・販売したのであるから、原告の商標権を侵害したと見なすことができ、よって原告が受けた損害を賠償する責任がある。」と判示した。
  2. 被告の過失の存否について
    大法院は、被告商標に対する無効審決が確定した以上、被告商標の商標権は、初めから存在しなかったものとみなされる(商標法第71条第3項本文)ため、被告が無効審決確定前において自分の登録商標の使用を行っていたものであったとしても、そのような理由だけでは、原告の商標権の効力が被告商標に及ばない旨を信じていたことを正当化できる事情に該当するといえず、過失がなかったとする被告の主張を退けた原審の判断は、妥当であるとした。

専門家からのアドバイス

本件は、同じ指定商品を生産する商標権者同士がそれぞれ韓国語の発音が酷似する「남선알미늄」と「남성알미늄」という商標[1]を使用した事案であり、両商標間の類似性には争いがなく、損害の証明責任と過失の存否が争点となったものである。

まず、損害発生の証明責任に関連してであるが、大法院は、商標法第67条第3項に関し、「商標権者が侵害者と同種の営業を行っていること」を証明するだけで商標権侵害による営業上の損害があったと推定されるとして、商標権者の証明責任を大幅に緩和した従来の解釈をそのまま踏襲したもので、この点は日本の解釈でも同様である。

また、過失の存否についても、大法院は、商標権者を保護する方向で法理を展開している。すなわち、商標が後発的に無効審判により無効化された場合、当該商標ははじめからなかったものとみなされるが、所有していた商標権が後に無効になった場合と、初めから商標権がなかった者が他人の商標権を侵害した場合とで区別をせず、いずれも同様に過失があるものとした[2]。

韓国商標法には、特許法やデザイン保護法とは異なり、過失の推定規定がなく故意の推定(第68条)のみが規定されている。このため、商標権に関しても過失の推定が働くかについて多少論議があったのは事実である。

日本においても韓国においても「過失の推定」は非常に厳格に運用されており、‐以前に仮処分手続で非侵害の認定を受けていたこと、‐弁理士等の専門家に相談して非侵害の意見を受けたこ‎と、‐輸入業者が模倣品を真正商品と認識して並行輸入したこと、などの場合であっても、「過失の推定は覆せない」と判断されており、「特許庁で登録された自分の商標を使用しただけで、権利侵害をしているとは認識していなかった」としても、「他人の権利を侵害した」事実には変わりないことを心に銘じておくべきである。学問的には疑問がなくはないものの、いずれにせよ商標権者の保護を厚くする判決として意義のあるものである。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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