知財判例データベース 不正競争行為の判断における周知性は、国内全域ではなく一定地域内で取引者や需要者に知られていれば十分である

基本情報

区分
不正競争
判断主体
蔚山地方法院
当事者
原告v被告
事件番号
2013カ単2763判決
言い渡し日
2013年12月11日
事件の経過
請求棄却

概要

412

不正競争防止法第2条第1号のイ目、ロ目所定の不正競争行為を判断するにおいて、他人の周知性は、国内の全域にわたりすべての人に広く知られていることを要するのではなく、国内の一定の地域的な範囲内で取引者、若しくは需要者の間で知られている程度であれば十分であるとした判例を確認した事例

事実関係

原告は、2010年8月16日頃から「リルラ飯所」という商号で豚カツ、チーズ豚カツ、薬味ビビンパに関するフランチャイズ事業を営む者であり、2008年11月12日、「」という標章をサービス標に登録し、また、下のようなゴリラの絵を美術著作物として登録した。

一方、訴外Dは、原告との間で、「リルラ飯所、蔚山サムサン店」を運営するため、当該フランチャイズ契約を締結したが、これを解約し、勝手に被告に譲渡した。これに対し、原告は、フランチャイズ契約を締結したDが契約に違反し、一方的に被告に「リルラ飯所 蔚山サムサン店」を譲渡し、その後、被告が原告のサービス標と類似している「ゴリラ豚カツ」という商号にイメージを少し変更し、内外部のインテリアやメニューもそのまま使用したこと等に対し、商標法、不正競争防止法及び営業秘密保護に関する法律(以下、「不正競争防止法」という)第2条第1号イ、ロ目の商品・サービスの出所混同に該当するとともに、原告のサービス標権に対する侵害、本件美術著作物に対する著作権侵害等を訴え、被告による当該食品の販売、頒布の禁止、上記場所で運営する当該食堂の営業停止、及び違法行為による損害賠償を求めた。

判決内容

蔚山地方法院は、まず不正競争防止法違反について、周知原告のサービス標が周知性を獲得できなかったことを理由に、原告の請求を退けた。法院は、その根拠として、他人の商品標示、又は営業標示が国内に広く認識されているかは、その使用期間、方法、様態、使用料、取引範囲などと商品取引の実状、及び社会通念上客観的に広く知られているかが基準となり(大法院1999年9月17日言渡99フ1645判決などを参照)、この周知性は、国内全域にかけて、すべての人に広く知られていることを要するものではなく、国内の一定地域的における取引者、又は需要者の間で知られた程度であれば十分(大法院1976年2月10日言渡、74タ1989判決)であるという判例を確認したうえで、こうした基準に基づいたとき、原告が蔚山及び釜山地域で8店舗を運営していて、新聞などのメディアに掲載された事実は認められるが、こうした事実だけで周知性を獲得したとは見なせないとした。さらに、商標法上のサービス標侵害についても、原告のサービス標権者と被告が使用した「ゴリラ豚カツ」は、外見、商号、観念上実質的に類似していると見なしがたいため、商標権侵害を認められないとし、著作権侵害についても、著作権委員会に美術著作物として登録された事実は認められるが、著作権委員会に登録されているという事実だけでは著作物としての創作性が認定されず、仮に著作権が認められるとしても、実質的な類似性はないと判断した。

結局、裁判所は、上記のような理由をあげ、原告の請求を全て退けた。

専門家からのアドバイス

不正競争防止法の違反を主張する場合、まず、周知性を獲得しているかどうかが問題となる。周知性を獲得しているかどうかの判断において、大法院の判例では、全国的な周知性を得る必要はなく、一定地域の取引需要者の間で知られていれば良いこととされているが、具体的な基準までは示していない。これに対し、下級審の判決例を見ると、下級審の判例で、刑事事件においてテグ地方法院2013年8月14宣告2013コ正579判決で釜山と慶南地域を対象に周知性獲得の判断を行った事例がある。一方、本件判決では、蔚山と釜山地域を周知性の判断基準にしている。前者の場合には、周知性を認め、本件の場合には周知性を否定したところ、下級審の判断をすぐには推断できないが、商品ないしサービスの実際に販売されていた地域や、公告が行われた地域、販売店の所在地、その他態様などに応じて、ケースバイケースとなるのであろう。

また、本件では、著作権についても争われたが、結論は、登録された著作権に対し、創作性がなく、著作物として保護を受けることができず、仮に著作権が認められるとしても、実質的な類似性はない旨の判断となった。当然であるが、著作権が登録されているというだけで直ちに保護を受けることができるわけではないことに留意すべきである。すなわち、著作権委員会には、著作物の独創性の程度、保護範囲、著作権の帰属間関係など、実態的な権利関係まで審査する権限はなく(大法院1999年9月17日言渡、99不1645判決など)、著作物を登録したという事情だけでは、著作権法上保護される著作物とは直ちに見なせないとされている。

これらのことを踏まえ、権利行使の際には、冷静な検討、判断の上で訴えを起こす必要があろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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