知財判例データベース 不正競争防止法上の周知性について、特定の地域で認識された商標の場合にも、周知性が認められるとした事例
基本情報
- 区分
- 不正競争
- 判断主体
- 大邱地方法院
- 当事者
- 被告人
- 事件番号
- 2013コ正579
- 言い渡し日
- 2013年08月14日
- 事件の経過
- 罰金刑(有罪)
概要
398
不正競争防止法上において求められる周知性は、必ずしも全国的に広く認識されている必要はなく、特定の地域で認識された商標である場合にも、周知性を認めることができる。
事実関係
被害者である釜山濁薬酒製造協会は、2005年4月頃、「生濁」という登録商標で濁酒を共同生産し、それを広告するため、2005年6月頃まで、広告費として約35億4000万ウォンを支出し、釜山や慶尚南道などを中心に年売上約200億ウォンを販売し、上記「生濁」という商標が広く認識されるようになっていた。
一方、被告人らは、共謀して2010年7月から2013年8月現在まで、慶尚北道にある被告人らが運営する会社において、「生濁酒」という被害者の標章に文字を追加した商標を表示し、濁酒を販売、頒布していたため、不正競争防止法の違反で起訴されたものである。
判決内容
裁判所は、下記のような理由により、被告人らの行為は、不正競争防止及び営業秘密保護法に違反する行為に該当すると判示した。
- 商標の識別力及び周知性
被告人とその弁護人は、マッコリは、殺菌濁酒と生濁酒に区分され、被告人が使用した商標は、ただ単に殺菌濁酒とは種類が異なるという概念であり、被害者の製品と混同する余地はないと主張したが、被害者の商品の形態、使用期間、被害者製品の売上高及び広告等を詳察すれば、被害者の製品ボトルに表記された「生濁」の商標、文字、図形、色彩など、さまざまな要素が結合された全体的な外見、すなわち、この事件における商品標識は、その識別力を備えており、また、国内、特に釜山、慶尚南道地域で広く認識され、周知性を備えている。 - 消費者の混同可能性
不正競争防止法上、混同の可能性は、商品標識に関する通常の一般的な消費者を基準に、こうした消費者が両商品を同一なメーカーにより製造・販売される製品だと誤認する懸念があるのか、若しくは、それにより、特定メーカーの商品を選択した消費者が標識の類似性による混同により、自身の意図とは違って他のメーカーの製品を選択する懸念があるかを基準に判断しなければならないが、証拠によると、被告人の商品標識は、黒の文字に白の縁取りで被害者の商標と酷似しており、さらに、緑色の瓶、商品標識の配置、赤地の丸に白い「生」という漢字、その横に併記されたハングルなど、文字やその他の標識全体を見て、短時間で商品を選択する一般の消費者にとっては、被告人の商品を被害者の商品と混同する危険が十分に存在している。
専門家からのアドバイス
この事件は、地方裁判所の下級審判例ではあるが、2つの面で興味深い争点を提供しており、実務上で参考にできる。不正競争防止法上の混同の可能性は、商品の標識に関する通常の一般的な消費者を基準に、こうした消費者が両商品を同一のメーカーによって製造・販売された商品であると誤認する可能性があるか、若しくは、それによって、特定メーカーの商品を選択しようとする消費者が標識の類似性による混同により、意図とは異なって他のメーカーの製品を選択する懸念があるかどうかを基準として判断しなければならないと判示した点は、法院の確立された態度を再確認したもので、特に目新しいものではない。
- 周知性判断の地理的な範囲
この事件における対象製品は、釜山及び慶尚南道地域では非常に有名なマッコリとして周知性を獲得したものと判断されている。そして被告製品が主に販売された慶尚北道地域は、釜山及び慶尚南道と隣接しておりマッコリの需要が特に高い地域である。
周知性の判断対象を全国規模に拡大した場合、被害者の広告費や売上規模から見ると周知性の認定は容易ではないかもしれないが、このように、特定地域の特産品や地場酒といった地域に密着した商品の場合には、周知性認定のレベルは比較的低くなると考えてよい。同様に特定ユーザーだけに売られる特殊性の強い商品なども比較的容易に周知性が認められ、周知性認定のレベルは地理的範囲や需要者層の範囲により変わるという点に留意したい。
- 識別力の判断
この事案では、「生濁」という商標が未殺菌の生のままの「濁酒(マッコリ)」という意味として、特定の種類の酒を意味するものだと被告人側が反論したにも拘わらず、裁判所は、「生濁」という商標そのものが酒類に関して記述的な商標でなく識別力を持っていることについて別途の説示無しに認めた点が目を引く。この点については、特許庁が審査を経て「生濁」という商標を登録させたことが大きく影響していると思われるが、理論的に使用による識別力を認めたものとも言えよう。
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