知財判例データベース 商標権のない著名な製品について、不正競争防止法による保護を認めた事例

基本情報

区分
不正競争
判断主体
ソウル高等法院
当事者
原告{ロンシャン(LONGCHAMP)} v. 被告(AIインターナショナルコリア株式会社)
事件番号
2012ナ97538判決
言い渡し日
2013年06月13日
事件の経過
破棄自判

概要

390

商品の形態は、デザイン権や特許権などにより保護されていない限り、原則としてそれを模倣し、製作することが許容されるが、例外的に、ある商品の形態が2次的に出処表示機能を獲得し、さらには周知性まで獲得している場合には、不正競争防止法第2条第1号(イ)目所定の「その他、他人の商品であることを表示した標識」に該当するため、同法による保護が受けられる。

事実関係

原告は、バッグなどのファッションアイテムを製造、販売するフランス法律に基づいて設立された会社であり、原告が販売するバッグのうち「Le Pliageライン」製品は、ナイロン素材の本体と革素材の持ち手とカバーで構成され、ジッパーの両端に革素材の飾りが施され、背面の下には金属製のスナップボタンが付着され、バッグを折りたたんだとき、カバーとスナップボタンが相接するようになっており、本来の4分の1に小さくなりながらも持ち手とカバーの形が毀損されないという独特な形をしている(以下「原告の製品」という)。原告の製品は、1993年から発売され、原告の売上高全体において2~3割、韓国の売上高4~7割を占めるなど、原告の代表的な商品として、現在、韓国ではロンシャンコリア株式会社が独占して上記製品を輸入・販売している。ところが、被告は、オンライン通販サイトbagnmore.comなどを運営し、原告の製品と類似した形態の製品を作り、被告の商標を付着して安価で販売していた。

これに対し、原告は、被告が原告の製品を模倣したバッグを製造し販売する行為が不正競争防止法第2条第1号(イ)目で定めている不正競争行為に該当すると主張し、被告に対して類似バッグの製造及び販売の差止めを請求した。

この事件の原審は、一部の類似製品が販売されたこと、似ているデザインが2004年に出願されたこと、原告の製品のようにいわゆる「有名ブランド品」として認識される比較的高価な品物である場合にはほかの製品を購入する場合より慎重に検討した上で購入すること、一般需要者は、全体的な形が類似していても、その形と商標を総合的にみてその製品の出処を区別するものであり、本件の場合、被告のバッグに被告が使用する商標として1994年1月12日に登録された「sisley」という英文が圧印されており、その下にも英文で中央に「s」字と回りに「sisley」が表示された丸形の銀色金属製のスナップボタンが付着されていることなどを踏まえると、消費者が出処について混同を引き起こすとはないものと判断した。

本件は、こうした原審の判断に対し、原告が控訴したものである。

判決内容

法院は、製品の形態の出処表示機能及び周知性について、原告製品の形態は、需要者の感覚に強くアピールする独特なデザイン的な特徴を持っており、一般需要者が一見して原告の商品であることを認識できる程度の識別力を備えているとみなされるだけでなく、原告製品の形態が長期間にわたって原告の商品として継続的かつ独占的・排他的に使用されたほか、その商品の形態が有する差別的な特徴が取引者や一般の需要者に原告の商品であることを連想させるほど顕著に個別化される程度にいたっているものと認め、原告製品の形態について出処表示機能と周知性を獲得したものと判断した。

次に、混同可能性については、原告の製品と被告の本件におけるバッグなどの差は、すぐ認識することが難しい上、被告が原告製品の形態が持つ周知性に便乗してそれを模倣し製品を販売しているものと見られることなどを踏まえると、被告の行為は、原告の製品と混同をもたらす可能性があり、たとえ、本件のバッグを消費者が購入するときにそのバッグに表示された商標などについて検討し、実際にその出処を混同しない場合があるとしても、上記購入者が所有している本件のバッグを見た第三者が商品の出処を混同する可能性があると見て混同可能性を認めた。

こうした判断に基づき、ソウル高等裁判所は、被告が原告製品の形態と同一か、類似している本件のバッグを製造し販売する行為は、不正競争防止法第2条第1号(イ)目が定めている不正競争行為に該当するとみなし、これと異なった判断をした原審裁判所(ソウル中央地方裁判所)の判決を取り消し、被告に対し、本件のバッグの製造、販売、展示の差止めを命じた。

専門家からのアドバイス

過去、大法院は、従来の商品形態が不正競争防止法によって保護されるか否かについて、商品の形態は、デザイン権や特許権などによって保護されない限り、原則としてそれを模倣し製作することが許容されるが、例外としてある商品の形態が2次的に商品出処表示機能を獲得し、ひいて周知性まで獲得した場合には、不正競争防止法第2条第1号(イ)目で定める「その他、他人の商品であることを表示した標識」に該当し、同法に基づく保護を受けることが可能であると判示した(大法院2007年7月13日宣告、2006ド1157判決)。

ただし、大法院は、商品の形態が出処表示機能を有し、周知性を獲得するためには、商品の形態が異なる類似商品と比較し、需要者の感覚に強くアピールする独特なデザイン的な特徴を有していなければならず、一般需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを認識できる程度の識別力を備えなければならないほか、当該商品の形態が長期間にわたって特定の営業主体の商品として継続的かつ独占的・排他的に使用されているとか、仮に短期間でも強力な宣伝・広告がなされ、その商品の形態が有する差別的な特徴が取引者や一般の需要者に特定の出処の商品であることを連想させるほど、顕著に個別化された程度に至らなければならないとしており、この当該不正競争防止法第2条第1号(イ)目による保護について、非常に制限的な見解を示している。

いずれにせよ、非常に制限的ではあるが、特許権、デザイン権、商標権を有していない場合であっても、不正競争防止法条の保護を受ける途が開けていることは、韓国での権利化がなされていない場合の模倣品対策の方法として、日本企業にとっても一考の価値があろう。

もう一つ、本判決において日本企業が注目すべき事項は、米国では認められた例が多数あるが韓国では大法院が2012年12月13日宣告2011ド6797判決で初めて認めた「購買後の混同法理(post-sale confusion doctrine)」を採用している点である。この法理によれば、平易な言い方をすれば、消費者が「ニセモノ」「類似品」であると認識できるように販売することも違法行為であるとして規制できるもので、商品デザインや雰囲気だけ酷似させ商標は異なるものを使用した「○○スタイル商品」などの法的対応に非常に有効と思われ、今後、当該法理が韓国で定着するか否か推移を見守るべきであろう。

ソウル高等法院は、知的財産権事件の担当部として商標権者の保護に重きを置いているところ、今般、商標権がない場合であっても、不正競争防止法による保護を認めたものとして重要な判決であるが、この判決については、被告が上告し、現在上告審が継続中であるり、今後、大法院の判決を待つ必要があると考えられる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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