知財判例データベース 不使用取消審判で消滅した商標と同一又は類似の商標の再出願を規制する条項は職務遂行の自由と平等権を侵害せず

基本情報

区分
商標
判断主体
憲法裁判所
当事者
請求人株式会社○○産業
事件番号
2012憲バ69 決定
言い渡し日
2013年11月28日
事件の経過
合憲

概要

407

不使用取消審判により消滅した商標について、これと同一又は類似する商標の再出願を3年間禁止する条項(韓国商標法第7条第5項第3号 。ただし、本件事件の対象は、2004年12月31日法律第7290号に改正後、2011年6月30日法律第10811号により改正される前の旧商標法であるが、現行法でも当該規定は変わっていない。)に対し、憲法裁判所は、裁判官全員の全会一致の意見により、職務遂行の自由及び平等権を侵害しないと決定した。

事実関係

請求人は、「○○○寝台」という商標(以下、「本件出願商標」という)を出願したところ、特許庁審査官は、本事件の出願商標に対し、商標法第73条第1項第3号の不使用取消審判により権利が消滅した比較対象商標と類似し、また、当該審判の審決確定から3年が経過していないとして、商標法第7条第5項第3号により本事件の出願商標を拒絶した。

これを受けて請求人は、特許審判院に上記拒絶決定に対し不服審判を請求したが棄却され、特許裁判所に審決取消訴訟(特許裁判所2011ホ8822)を提起し、その訴訟継続中、商標法第7条第5項第3号に対し違憲法律審判提請申請(特許裁判所2011カホ26678)をしたが、棄却されたため、本事件の憲法訴願審判を請求した。

本事件において憲法訴訟の対象となった法律は、商標法第7条第5項第3号のうち、第73条第1項第3号に関する部分(以下、「本件法律条項」という)である。

判決内容

本事件について憲法裁判所は、下記の理由により、商標法における本件法律条項は、憲法に違反しないと決定した。

憲法裁判所は、まず、本件法律条項は、不使用取消審判制度の実効性を確保し、登録商標の使用を促進しようとするものとして、その立法目的は正当であると判断した。また、商標法が登録商標に対する商標権の保護範囲を同一商標のみならず、類似商標にまで及ぼさせていること、不使用取消になった商標の再出願禁止期間を不使用期間と同じ3年に定めたことについて、これらは、不使用取消審判制度の実効性の確保と、法的安定性のために必要な期間としての意味を有するものであるところ、過度な制限であるとは見なしがたいとし、さらに本件法律条項は、再出願を3年間禁止するだけであって、使用そのものを制限するものでもない点などをあげて、これらを総合すると、不使用取消審判により消滅した商標と同一又は類似する商標について、その再出願禁止期間を3年に定めたことは、合理的な立法形成権の限界から離れて職業遂行の自由を侵害するとはいえないと判断した。

さらに、本件法律条項について、商標の不使用事由に応じた別個の再出願禁止期間を設定せず、一律的に3年間再出願を禁止している点について、そもそも不使用を理由に登録商標が取り消される場合、「正当な理由なしに」継続して3年以上使用しないという条件が課せられており、商標権者にある程度落ち度があることが前提とされている以上、上記のような一律的な規律に合理的な理由がないとはできず、また、出所の誤認と混同を防止するために商標権の消滅後、「第三者」の登録を一定期間制限する商標法第7条第1項第8号とはその趣旨及び目的が本質的に異なるため、本件法律条項が平等権を侵害するとも言い難いとした。

加えて、憲法裁判所は、存続期間の満了により、商標権が消滅した場合に、再出願を禁止する趣旨は、商標の持続的な使用促進を通じた商標の機能確保及び第三者に対する商標使用機会の付与であるところ、これは、本件法律条項が保護しようとする公益と一致し、また、商標権者が商標権、または指定商品の一部を放棄した場合に再出願を禁止する理由についても、不使用取消審判が請求された後、商標権者が再出願禁止制限を回避するため、自ら商標権を放棄した後、新規で出願し、商標登録を受けることにより、不使用取消審判制度が実行を得られないという弊害を防ぐためであるとし、結局、本件法律条項は、職務遂行の自由及び平等権を侵害しないと結論付けた。

専門家からのアドバイス

別途の憲法裁判所が存在しない日本では、憲法裁判を活用して本件のような商標権などの権利の救済を受けることを考えることは難しいため、日本企業の立場では、特異な事例だと考えられる。また、不使用取消審判により消滅した商標について、当該商標の商標権者は、3年間これと同一又は類似の商標登録を受けることできず、この点でも日本とは異なる制度であるので、この点でも注意を要する事例である。

憲法裁判所で知的財産権法と関連する条文が決定の対象とされた事例は、以前には多くなかったが、徐々に増加する傾向にある。憲法裁判所は、本事件決定が言い渡された同日、著作権法付則第4条における違憲確認事件も決定した(憲法裁判所2013年11月28日ザ2012憲マ770決定)。このように、憲法裁判所を活用する事例が増加していることは注目に値する。

日本企業が韓国の法律に対する違憲の訴えを提起することは、実務上、訴訟戦略の範疇外となろうが、このような制度が存在していることについて参考にしていただきたい。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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