知財判例データベース 物の発明の「実施」、および複数の請求項に基づいた特許権侵害の権利行使について再度確認した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
ソウル高等法院
当事者
○○○(原告、控訴人)v. 他1人(被告、被控訴人)
事件番号
2012ナ14441
言い渡し日
2012年11月21日
事件の経過
上告

概要

382

  1. 発注者が請負人に特許発明と同一の設備を製造させ納品させる契約関係にあったとすれば、発注者がその設備の生産を主導的に決定できる地位にいたものとして特許発明を実施したものと見られる。
  2. また、一つの特許に関して特許請求範囲を複数の請求項で記載できるようにするいわゆる多項制は、一つの発明を様々な角度で記載することにより、発明の保護と自由技術領域との限界を明確にするためのものであって、各請求項ごとに個別的に成立する特許侵害による侵害差止、損害賠償などの法律効果は、全て一つの特許侵害によるものであって、1発明1特許出願の原則に対する例外のような特別な事情がない限り、その請求は訴訟法上選択的併合の関係にある。

事実関係

原告は、金属材ドアのパネルに関する製造装置及びその製造方法に関する特許発明[1](以下、「本件特許」とする。)の特許権者である。一方、被告1は、ドアのパネルに使われる鉄板を加工して納品する者であり、被告2は、当該ドアのパネルの製作業者である。被告は、訴外人と本件特許が含まれたドア生産設備(以下、「本件機械」とする。)の製作を依頼する請負契約を締結し、訴外人が上記の請負契約により製作して被告に納品した本件機械を中国に輸出して北京市に設置した後、これを利用して中国で当該ドアのパネルを製作してきた。これに対し原告は、被告を相手に本件特許侵害を理由とする損害賠償を請求したが、一審が原告の請求を一部だけ認容したため、これを不服としてソウル高等法院に控訴を提起した。

判決内容

被告は、本件ドアのパネルを製造する機械を生産することにより本件特許を侵害したという原告の主張に対し、訴外人が生産した本件機械を訴外人から譲り受けただけに過ぎず、本件特許を韓国国内で実施したところがないと主張した。これに対し法院は、特許法第2条第3号イ目[2]で定めた物の「生産」が必ずしも組み立て、加工など物理的行為を直接遂行することに限るのではなく、当事者の意思、契約などで定めた法的地位、生産対象物の性格、生産に関連する主な意思決定の主体など諸般事情を総合的に考慮した結果、生産の主体として評価できるだけの法的地位にいたとすれば、その直接的な行為者と判断できるという法理を示した。そして、本件において、被告が発注者として請負人に非代替的な設備を特定してこれを製造することを注文し、これによって請負人がその設備を製造し被告に納品する契約関係にいたとすれば、これは請負人が自ら製作した物を被告が単純に買い入れるとか譲り受ける場合と異なり、本件機械を実際製作できる能力と技術が請負人にあったとしても、本件機械の生産如何と生産対象物が適切に生産されたか否かを主導的に決定できる立場にある者は被告であり、請負人は単に被告の依頼を受けてこれにより本件機械を製造、納品したものに過ぎず、被告において本件特許発明を国内で実施したものと判断した。

また、法院は、一つの特許に関して特許請求範囲を複数の請求項で記載できるようにするいわゆる多項制について、これは一つの発明を様々な角度で記載することにより発明を忠実に保護し、自由技術領域との限界を明確にするためのものであって、特許法では、それら複数の請求項に対する技術的意義ないし技術的価値を別々に評価すべき何の根拠もないとした。そして、各請求項ごとに個別的に成立する特許侵害による侵害差止、損害賠償などの法律効果は、全て一つの特許侵害によるものであって、1発明1特許出願原則に対する例外のような特別な事情がない限り、各請求項に基づいた特許侵害による請求が一つの訴訟で審理される場合には、その請求は訴訟法上選択的併合の関係にあると説示し、本件第4項発明に対する侵害を認める以上、残りの請求項に対する侵害如何は別に判断しないと判示した。

専門家からのアドバイス

本判決は次の二つの示唆を含んでいる。

ひとつは、物発明の「実施」についての判示である。特許法上、物発明の「実施」は、「その物を生産・使用・譲渡・貸渡し若しくは輸入し、又はその物の譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為」と規定されている。そのため、特許権者は、原則的にその物を譲り受けた者に対して特許権に基づいた権利を行使することができない。しかし、本判決にもあるとおり、その物を直接生産した者からその物を譲り受けた場合であっても、実質的に当該生産の主体と評価できるだけの事情がれば、発明の実施として当該生産を行った者と判断されることになる。このように、司法判断においては、直接的な行為者ばかりでなく、事案に応じて実質的な行為者に焦点が向けられることに留意しておきたい。

もう一つは、複数の請求項に基づいた特許権侵害の権利行使について、いわゆる選択的併合関係にあることを再度明らかにした点である。法院は、過去にも複数の請求項に基づいた特許侵害訴訟に対し、訴訟法上、選択的併合関係にあるという立場を採っており、損害賠償算定に関して請求項ごとに侵害者の実施技術における侵害割合や寄与の度合いなどを考慮して審理・判断することはせず、侵害の有無により単一の損害額を算定してきた。それにもかかわらず、侵害の有無については、請求項ごとに別々に判断することが既存の実務例では往々にしておこなわれていた。本判決は、一つの請求項に基づいた特許発明の侵害が認められれば、残りの請求項に対する侵害如何を別途に検討する必要はなく、各請求項に基づいた特許侵害による請求が一つの訴訟で審理される場合には、その請求は訴訟法上選択的併合の関係にあるという点を明らかにしものであり、今後の侵害訴訟の実務に影響を与えるものであろう。

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